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Buono!は満員の横浜アリーナで“最高のラスト”を迎えたーーロックアイドルとしての10年間の歩み

2017年06月04日 15:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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「Buono!は、いわゆる“派生ユニット”と呼ばれるものです。そんな派生ユニットが10年も続くユニットになるとは正直思いませんでした。本当にファンのみなさんが応援してくれたおかげです。本当にありがとうございます」


 涙を浮かべる夏焼雅と鈴木愛理を横に、リーダーの嗣永桃子は凛とした表情で客席を見つめながらそう語った。 


 Buono!は2007年夏、テレビアニメ『しゅごキャラ!』シリーズのテーマソングを歌うために結成された。当初は企画的な要素こそ強かったが、ロックをコンセプトとし、活動をしていく中でその人気を不動のものにしてきた。外部の制作陣が関わり、スタンディングの会場でバックバンドをつけてライブを行うという、ハロー!プロジェクトの中でも異例のグループでもあった。


 昨年8月に日本武道館で4年ぶりの単独ライブを開催したわけだが、今後の活動に関してはとくに触れなかった。しかし、ある意味区切りとも思えた公演の中で何も明言しなかったのは、またいつかどこでこの3人のステージを観ることができる、そんな期待を感じさせることでもあった。だが、あれから1年も経たずして、こうした形でこの3人のステージを観ることになるとは……。


 Berryz工房の嗣永桃子、夏焼雅、℃-uteの鈴木愛理。約28,000人の中から選ばれたハロー!プロジェクトキッズの15人、そこから活動していく中でさらに選抜された3人で結成されて10年ーー。2017年5月22日、横浜アリーナ。『Buono!ライブ2017 ~Pienezza!~』を以って、Buono!はその活動に幕を下ろした。


 360度を客席に囲まれた円形ステージ。そこを取り囲むようにバックバンド・Dolceが構える。煌びやかなギターのイントロが鳴ると「横浜アリーナ! 最高の夜にしようね!」、夏焼が高らかに叫んだ。「恋愛♥ライダー」でライブはスタート。つづく「Bravo☆Bravo」ではオーディエンスとのコールアンドレスポンスで序盤から会場の熱気は最高潮に達した。


 夏焼のPINK CRES.、嗣永のカントリー・ガールズ、鈴木の℃-ute、とゲストライブを挟み、映像コーナーでは、彼女たちが過去に出演したピザーラのCM(2008年)などを振り返る。そして、これまた懐かしの映像、嗣永=ドラム、夏焼=ベース、鈴木=ギターによる「泣き虫少年」バンドVer.が流れると、それぞれ楽器を抱えた3人がステージ中央に現れた。嗣永の威勢のよいシンバルカウントで、勇ましくもたどたどしい演奏がはじまる。楽曲はもちろん「泣き虫少年」だ。2008年8月22日、横浜BLITZにて行われたファンクラブ限定ライブ『Rock’n Buono!』の9年越しの再現だ。Buono!が“ロックアイドル”のコンセプトを明確にし、バックバンドを迎えてのライブを始めたのもこのときからだった。


 当時から彼女たちを支え、長年見守ってきたDolceのバンドマスター・eji(Key.)より、3人へ宛てた手紙を読む映像があった。“ザ・アイドル”だった中高生の3人が、年齢とライブを重ねていき、一緒に“ロックバンド”になれたこと。そして、3人それぞれへの思いが読み上げられる。会場は感動的な空気に包まれたが、同時に「Buono!とDolceがステージに立つのは今日で最後」という現実を誰もがあらためて実感した。もちろん、みんなそれを分かって今日ここに集まったわけだが、ライブタイトルにしても、事前アナウンスにしても、はっきり“ラスト”と明言されていたわけでもなかったからだ。


 昨年の武道館は圧巻のパフォーマンスで魅せてくれた。しかし、それを悠々と越えてきた。あたかも横浜アリーナがホームであるかのように、この空気感を愉しみながら縦横無尽に3人が会場の端から端まで駆け巡る。「Café Buono!」での鈴木の台詞「キュート!」も、この日ばかりは、客席にいるメンバーに向かって誇らしげに「℃-ute!!」と叫ぶ。 


「今日は、横浜アリーナぁぁ!!」


 「ロックの神様」の<あたしたちにはブドーカン!>の節をそう歌い替える夏焼。アニメソングを歌うためのユニットが、横浜BLITZにはじまり、あこがれの“ブドーカン”を経て、今横浜アリーナに立っているのだ。“アイドルのなんちゃってバンド”、あの当時はそう思っていたファンも正直少なくないはずだ。


 センターステージという形式も、このグループを象徴するようだった。放射的に動くフォーメンションは、正面を向いて見せる動きとは違う三次元的な多面性を感じさせ、3人が背中合わせでバラバラの方向を向きながらも、完璧に響かせる三位一体のハーモニーは長年連れ添ってきた3人だからこそ為せる業だろう。


 そして、Dolceだ。各々が名うてのプレイヤーであるが、Buono!の3人が成長してきたのと同じようにDolceもライブを重ねるごとに強力になった。まいまい(今村舞/Dr)がアグレッシヴなドラミングで捲し立ていていき、なおみち(岩崎なおみ/Ba)が地を這うようにグルーヴを司る。まり-P(藤井万利子/Gt)と、けいちゃん(ひぐちけい/Gt)のツインギターは昨年武道館よりも絶妙なコンビネーションを見せ、ejiが楽曲の色彩をより深く鮮明にしていく。そして、中盤のアコースティックアレンジによるセクションは、Dolceのバンドとしての懐の深さを見せた。


 このアコースティックセクションでは、3人それぞれのメイン曲ともいえる楽曲が披露され、三様なシンガーとしての魅力を引き出す場面でもあった。夏焼の「消失点-Vanishing Point-」はファンからも“夏焼のテーマ”として古くから親しまれ、これまで要所要所で歌われてきた、まさに彼女とともに成長してきた曲である。3人の中で、いちばん感情が表に出やすい彼女の歌であるから、そのときどきの思い入れがファンそれぞれの中にもあることだろう。だが、この日の滑らかな歌い出しから最後の1行まで歌い切る夏焼の歌声は息を飲むほど美しく、誰の耳にも“完璧”に届いたはずだ。嗣永の歌う「I NEED YOU」。元はロックステディ調のかわいらしい楽曲であるが、アコースティックなバラード調にリアレンジされるとまったく印象が変わる。<「さよなら」なんて苦手だよ 「またね」って言葉だけが好き ほんとは2度と会えないくせに>ーーこれまでであれば、それほど気にとめていなかった詞であったが、今の嗣永が歌うとリアルに胸に突き刺さってくる。


 鈴木も非の打ちどころのない「OVER THE RAINBOW」を聴かせたが、やはり彼女といえば、「初恋サイダー」だろう。会場の空気を一変させる歌い出しから、天を衝くハイトーン、その歌声に導かれるように「1、2、3、4!」と15,000人の鬨の声が上がり、アッパーな展開になだれ込む。近年、Buono!の名をシーンに一躍知らしめた同曲のもたらす高揚感も彼女の歌なくしてはじまらないのだ。


 ダーティーなロックナンバー「Independent Girl~独立女子であるために」で後半戦へ。エッジなドライブを効かせた「DEEP MIND」は、まさに大人になった3人だからこそ歌えるロックであり、今の彼女たちに歌って欲しかった曲でもある。キメの多い楽曲であるのに、十字に伸びた花道を練り歩き、つづく高速キラーチューン「MY BOY」でキレキレのリズム感を見せる。いくらBerryz工房と℃-uteという稀代のトップアイドルのメンバーとはいえ、別グループとして、ましてや生バンドという異なるスタイルでここまでのステージを見せることができることに、アーティストとしての底知れぬポテンシャルをあらためて感じずにはいられなかった。


 幻想的でサイケデリックなイントロが流れると、会場にいる誰もがラストの楽曲であることを理解した。3人を乗せながらゆっくりと回転していくステージが、あたかも巨大なオルゴールのような情景を生んだ「ゴール」で本編は終了した。


 巻き起こる「Buono!」コール。そこに「Dolce!」コールが加わっていき、次第に「Buono!」「Dolce!」と見事なまでに2つのグループ名が交互にこだまする。無数の直線的な照明が神殿のようなステージを創り出すと、アンコールは「Last Forever」で始まった。歌いながらゆっくりと花道を歩く3人であったが、この日幾度となく危うかった鈴木の涙腺がついに崩壊。涙で歌えなくなった鈴木の手をそっと引きよせ腰を抱く夏焼と、そんな2人の様子なんて見なくとも“わかっている”から一切振り返らない嗣永。つづいて「Kiss!Kiss!Kiss!」でのおなじみ、ブレイク時の居眠りタイム。寝ているのに明らかに悲しみで肩が震えてしまう鈴木、夢見心地な夏焼から嗣永へと言葉を掛けるタイミングで鳴る目覚まし時計のベルも、3人の関係性をよく表していた。幼い頃の嗣永と夏焼はBerryz工房で一緒ながらも、絡むことはほとんどなかった。そんな2人の距離を縮めたのがBuono!だった。同じクラスに居ても絶対仲良くなることはない正反対のタイプ、とファンの間でも囁かれていた2人だったが、次第にお互いが認め合い、足りない部分を補い合う間柄へと変化していく。いつしか、嗣永と夏焼の夫婦漫才のようなやりとりと、その2人の姉の間で末っ子の妹として思いっきりはしゃぐ鈴木、そうした3人の光景がBuono!の色を表すようになっていた。「Buono!はこの3人じゃなきゃダメなんだよぉ~」ーー鈴木がモノローグ的に語った言葉。アイドルグループにおけるメンバーの卒業加入は珍しくないことだが、Buono!はそういうグループではないのだ。そんな当たり前のことを当たり前に感じたひとときでもあった。


 「あんなに小さかった私たちの、大きな夢を叶えてくれた大切なデビュー曲です!」。嗣永の言葉より、最後の最後に贈られたのは「ホントのじぶん」。すべてはこの曲からはじまったのだ。この楽曲にはライブでファンによるお決まりのコールがある。イントロから歌に入るその瞬間、ここにいる全員が一斉に大好きなグループの名前を渾身の力を込めて大声で叫んだ、「Buono!」と。


「10年間、本当にありがとうございました! Buono!でした!」


 3人は、最後の最後まで「解散」や「活動停止」という言葉を用いなかった。


 10年という長い長い物語が終わったような感覚。寂しさもあるが、それと同等に満足感も大きい。タイトル通りの「Pienezza=充実、いっぱい」だ。嗣永桃子の卒業が機とはいえ、結果的として最高のタイミングで最高のライブを創り上げ、最高のラストを迎えることができたように思える。いつ立ち消えになってもおかしくない、派生ユニットだったのだ。こんなにも長い間楽しませてくれて感謝の言葉しかない。<最高 MUSIC! 最高 Buono! 最強 MUSIC! 最強 Buono!>3人が残したものはこれかもずっと我々の心の中に残っていくのだ。(文=冬将軍)