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綾野剛、ストイックな役作りのすごみ 『フランケンシュタインの恋』『武曲 MUKOKU』の演技を読む

2017年06月04日 09:53  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中の連続ドラマ『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ)で、山奥にひっそりと暮らしている怪物・フランケンシュタインを演じている俳優・綾野剛。これまでもさまざまな役柄にふんし、その実力を高く評価されてきた綾野だが、本作では「可愛すぎる」と話題になるほどキュートな怪物を演じている。その一方で、6月3日に公開された映画『武曲 MUKOKU』では、無常さに心をおおわれる剣士を鬼気迫る形相で熱演。実力派俳優だと分かっていても、その振れ幅には驚かされる。


(参考:村上虹郎、「こんな頼りになる俳優さんはいない」と綾野剛を大絶賛


 『フランケンシュタインの恋』では、自分が怪物であることを自覚し、人と触れ合うことなくひっそりと山奥で暮らしていたが、二階堂ふみ演じる津軽継実と出会ったことにより、人間としての自分を強く意識するようになる男(怪物)を演じている。放送開始から、綾野演じる“怪物”に対する意見として圧倒的に多かったのが“可愛い”というものだった。


 これまでも数々の作品に出演し、『クローズZERO II』でみせたキレキレの不良から、NHKの連続テレビ小説『カーネーション』や、ドラマ『コウノドリ』(TBS)での優しさと悲しみを持った好青年、さらにドラマ『最高の離婚』(フジテレビ)や、映画『日本で一番悪い奴ら』で演じた、だらしないダメ男など、さまざまな顔をみせてきたが、“可愛い”が前面に出るようなキャラクターはあまり思い浮かばず、綾野にとっては新しい一面のように感じられた。もちろん、この“可愛い”には多面的な要素を含んでおり、たどたどしいセリフ回しにも、演じるキャラクターの背景を想像させる余白がふんだんに盛り込まれているだけに、非常に感情移入しやすい。


 一方で、映画『武曲 MUKOKU』では、幼少期から父親に「殺す気で突いてみろ!」と厳しく剣を指導されたことにより、ある出来事を巻き起こしてしまった青年・研吾を演じている。酒におぼれ、目には一切の輝きがなく、綾野の表現を借りれば「地獄のような仕立て」の世界をさまよっているような男だ。


 立ち姿だけでも情念が渦巻いているのが感じ取れる人物。そこにほとばしる剣の腕が相まって、むかってくる相手を徹底的に拒絶する。対峙した若き俳優・村上虹郎のみずみずしさと、綾野がまとった負の感情がぶつかり合うシーンは、筆舌に尽くしがたい緊張感をもたらす。まさに“地獄絵図”のような状況だ。


 もちろん、風吹ジュン演じる三津子や、前田敦子ふんする恋人のカズノなど、研吾を見守ろうとする存在も作品には登場する。しかし、彼女たちと一緒にいる時でさえ、弛緩するような場面は皆無に等しい。全編を通して出し続ける負のオーラには圧倒される。


 過去、綾野は「常にネクストワンだと思っていなければいけない」と語っていた。次の作品がベストだと思い挑戦し続けること。つまり、出演した過去の作品は、自身にとってライバルとなるというわけだ。作品が終わればリセットして、またゼロからのスタート。そして前作を超えていく――。非常にストイックな考え方だが、観ている方は「次はいったいどんな人物をみせてくれるのだろう」と期待してしまう。そんな期待の遙か上をいく演技を披露している『武曲 MUKOKU』と『フランケンシュタインの恋』。


 奇しくも同時期にまったく異なった綾野剛が観られるタイミングがやってきた。可愛らしい怪物と、地獄をさまよう情念をまとった青年……。見比べると「やっぱり綾野剛はすごいな」と唸ってしまう。


(磯部正和)