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本当に「優秀な企業」に共通する6つの条件とは

2017年06月03日 18:33  新刊JP

新刊JP

『日本の優秀企業研究』(日本経済新聞社刊)
■本当に優秀な企業は、どの企業か?



日本において、「優秀な企業」と言えば、どんな企業が連想されるだろうか。

世間に名の知られた企業、海外進出がめざましい企業、総資本や売上高が大きい企業。
さまざまな切り口から、その優秀性を推し量ることはできるが、そうした表面的な情報だけでは、企業の優秀性を評価するのは早計だ。

そのことを教えてくれるのが『日本の優秀企業研究』(新原浩朗著、日本経済新聞社刊)である。2003年に出版され、今なお読み継がれているビジネス書の名著だ。

本書では、「優秀な企業に共通的に見いだせて」、しかも「そうでない企業に見いだせない」という特徴を探し、競争力に貢献している要因は何か、他の企業にも参考になりうる共通的に応用できる要因は何かということを調べ上げている。



その調査方法は徹底している。財務データを細かく精査し、良好な成果がたまたまの外部的要因や政府規制などの特別な環境要因にあると考えられる企業は除いている。
すなわち、どんな状況にあっても一定の業績を堅持し、持続的に優秀であると認められた企業のみが抽出されているということだ。

しかも、「この企業は優秀に違いない」というバイアスに左右されないよう、事実のみを見て企業を選び出す帰納法的な調査に終始しているので、結果的に見出される「優秀な企業の条件」は、信憑性の高いものだろう。

そうやって絞り込まれ、本書でその事例を取り上げられている企業は、「花王」「キャノン」「シマノ」「信越化学工業」「セブン-イレブン・ジャパン」「トヨタ自動車」「任天堂」「本田技研工業」「マブチモーター」「ヤマト運輸」の10社だ。

本書の巻末には、経済産業研究所が実施した上場企業の経営者への意識調査の結果が掲載されているが、多くの経営者が「注目している企業」に、「マブチモーター」や「シマノ」や「任天堂」は含まれていない。
このことからも、一般的な評価とは異なる「本当に優秀な企業」が厳選されていることが見て取れる。

■優秀な企業に共通する「6つの条件」とは?



では、優秀な企業のみがもっている特徴とはどんなものか。
著者は、優秀企業に共通して見出せる「6つの条件」を挙げている。

1.分からないことは分けること
(経営者自身が分かっていない事業を、自分の責任範囲の事業として手がけない)

2.自分の頭で考えて考えて考え抜くこと
(トップが論理的)

3.客観的に眺め不合理な点を見つけられること
(経営者がしがらみにとらわれず事業を俯瞰できる)

4.危機をもって企業のチャンスに転化できること
(追い詰められても冷静さを失わず、新しい方向性を見いだせる)

5.身の丈に合った成長を図り、事業リスクを直視すること
(市場に邪魔されない自律性を有している)

6.世のため、人のためという自発性の企業文化を埋め込んでいること
(経営者と従業員の双方を律する自己規律がある)

条件だけを見ると抽象的な印象を受けるが、本書では、前述した企業の事例から具体的な解説がされている。
たとえば、ひとつ目の「分からないことは分けること」では、「マブチモーター」の事例が興味深い。

「マブチモーター」は、ミニ四駆などの玩具で遊んだ人には馴染み深い企業だろう。
同社は、「DCブラシ付き民生小型マグネットモーター」という非常に古典的で、平均単価わずか72円という安価なモーターの専業企業だ。

ににもかかわらず、総資本経常利益二桁。売上高経常利益率が20~30%という高い業績を誇り、世界シェアの55%を占めている。
これは、自社が取り組む事業の範囲を徹底して絞り込んだ上で、優秀な成果を上げている企業として注目すべきことだ。

同社は、多角化がもてはやされた時期や財テクに走る企業が相次いだ時期にもブレずに事業に取り組んできたという。

シェーバーで有名なドイツのブラウン社が、「コアレスモーター」というマブチモーターが手がけていない製品の開発を依頼されたときも、その申し出を断り、自社がつくるモーターをブラウン社が納得する形に改良して提供した。
それ以降、ブラウン社のモーター調達先はマブチモーター一本やりとなったという。

■主流から外れた人材のほうが、客観性を持った経営者になる

「6つの条件」のうち、意外に難しいのが、三つ目の「客観的に眺め不合理な点を見つけられること(経営者がしがらみにとらわれず事業を俯瞰できる)」という条件だ。

著者は、調査・研究を進める中で「良好な成果を上げている企業、特に企業改革に成功した企業の経営者をみていると、経営者は?傍流の時代?とも呼ぶべき現象が観察された」と述べている。

つまり、会社の主流を歩み順調に出世してきた人より、多少、主流から外れた、周辺部署や子会社で苦労した人物の方が本社の中枢に入り、改革を成功させている場合が多いという。



右肩上がりの時代には、上手に神輿に乗ってくれる経営者でもそれなりに成果は出せただろう。だが、神輿に乗っていれば良いという経営は、すべてのマーケットが拡大していく高度成長期ならではのものであり、今の時代には全く通用しない。

それでも、長らく成果を上げてきた経営者は、過去の繁栄を成功体験として持ち続け、その方法に疑問を持たない場合も多い。
そうならないためには、フラットな視点で合理的な判断ができることが必要なのだ。

このことは、どんな会社の経営者でも気をつけていれば満たすことのできる条件だ。
そのためには何が必要なのかは、ぜひ本書を読んで確かめていただきたい。

本書は、『あの会社はこうして潰れた』(藤森徹著、日本経済新聞出版社刊)と併せて読んでみると面白い。

「優秀なまま持続する企業」と「潰れてしまう企業」の在り様はコインの表と裏のようなものだ。切り口こそ真逆だが、両書からは企業が栄えるための共通条件が見いだせるだろう。

(ライター:大村 佑介)

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