トップへ

大阪市がヘイトスピーチ動画の「ハンドルネーム」を公表、抑止効果はあるのか?

2017年06月02日 17:04  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

大阪市は6月1日、ネット上に投稿された3件の動画をヘイトスピーチを認定し、投稿者名と内容を同市のホームページ上で公表した。


【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】


これは大阪市が昨年7月に施行した「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」に基づくもの。条例では「社会排除、権利や自由の制限、憎悪や差別の意識または暴力を煽ることを目的とし、人を誹謗中傷し脅威を感じさせる表現活動」を「ヘイトスピーチ」と定めており、これらを記録した印刷物の頒布やDVDの販売・上映、インターネット動画サイトへの投稿などもヘイトスピーチに該当するとしている。


今回公表されたのは、「日韓国交断絶国民大行進 in 鶴橋」などと称して、4年前に大阪市内で行われたデモ活動について、いずれも「ニコニコ動画」に投稿された動画の情報だ。動画のURL(現在はいずれも削除されている)や「ゴキブリさん達」「朝鮮人を日本から叩きだせー!」などの発言内容についても詳細に記載している。


また、条例では、個人・団体名の公表も定めており、今回、市は「yuu1」や「ダイナモ」といった投稿者名(ハンドルネーム)も公表。市は発表文の中で「氏名または名称と同一視はできないものの、動画サイトの投稿者や視聴者の間では通称として機能しているなど、社会的に認知されており、氏名または名称に準ずるものとして扱うことに合理性があると考えられる」としている。


ただし、読売新聞によると、市は投稿者2人の氏名について、電気通信事業法で定められた「通信の秘密」の侵害に当たる恐れがあるとして、サイトの運営会社「ドワンゴ」への提供要請を見送った。吉村洋文市長は「今のルールではこれが限界」と話しているという。


ハンドルネームを公表することで抑止効果はあるのか、ヘイトスピーチ問題に取り組む神原元弁護士に聞いた。


●ハンドルネームでは制裁効果は不十分

今回の公表にどんな意味があるのか。


「公の機関が『これがヘイトスピーチである』と認定したことは大いに意義があります。ただ名前の公表が本名ではなくハンドルネームだと、本人に対する制裁的効果としては不十分でしょう。


ただ、これには法的な問題があります。もし、これが名誉毀損などのような形で、刑事事件として取り上げられるようであれば、警察を通じてプロパイダに照会もかけられますが、条例違反というだけでは、本人の名前にたどり着くのはなかなか難しいでしょう。どこまでやれるのか、不透明な部分がありますが、条例については、今後、技術的、制度的な改善の余地があります」


大阪市の取り組みをどう評価しているのか。


「名古屋市や川崎市、神戸市など全国各地でヘイトスピーチ抑止に関する条例の制定について議論している中、大阪市の取り組みは非常に先進的です。


とりわけ氏名の公表だとか、制裁的な効果を持ちうることをやっています。ただ、まだ試行錯誤の段階にあります。表現の自由との難しい問題がある中で、失敗も繰り返しながら進めていくしかないでしょう。その一過程として、大阪市が取り組んでいることは、積極的に評価すべきでしょう」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
神原 元(かんばら・はじめ)弁護士
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、2000年に弁護士登録、2010年武蔵小杉合同法律事務所開所。2013年3月にはジャーナリスト・有田芳生氏とともに東京都公安委員会に在特会のデモに関する申し入れを行った。
事務所名:武蔵小杉合同法律事務所
事務所URL:http://www.mklo.org/