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「“怒りを抱えた国”を見せる作品だ」『LOGAN/ローガン』監督インタビュー

2017年06月01日 19:33  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ヒュー・ジャックマン主演映画『LOGAN/ローガン』が本日6月1日に公開された。『X-MEN』シリーズのスピンオフ作品『ウルヴァリン』シリーズ最新作となる本作は、ミュータントの大半が死滅した2029年の近未来を舞台に、不死身の治癒能力が衰えたウルヴァリンことローガンが、ローラという謎めいた少女を守るため、迫り来る敵との闘いに挑む模様を描いたアクション映画だ。リアルサウンド映画部では、『ウルヴァリン:SAMURAI』に続いてメガホンを取ったジェームズ・マンゴールド監督にインタビューを行い、従来のアメコミ原作映画とは趣の異なる本作で挑もうとしたことを中心に話を訊いた。さらに、他のアメコミ原作映画や、映画監督が活躍の場を広げているTVシリーズなどについても語ってもらった。


(参考:『LOGAN/ローガン』パトリック・スチュワート、ラストとなるチャールズ役を述懐


■「『ローガン:SAMURAI』という邦題にされなくてよかった(笑)」


ーーアメコミ映画やヒーロー映画のジャンルを超えた素晴らしい作品でした。


ジェームズ・マンゴールド(マンゴールド):ありがとう。僕は今回、個人的な作品を作りたかったんだ。ただ単純にコミックの映画化というわけではなく、本当に実世界にいるように、キャラクターをリアルに描写することが重要だった。たまたまベースになっているのがアメコミだったということなんだよね。


ーー『ウルヴァリン』シリーズを手がけるのは前作の『ウルヴァリン:SAMURAI』に続いて今回が2作目になりますね。前作での経験から今回の作品で生かしたことがあれば教えてください。


マンゴールド:まず、“ウルヴァリン”と“SAMURAI”というワードをタイトルに入れないことだね(笑)。20世紀FOXジャパンが『ローガン:SAMURAI』という邦題にしなくてよかったよ(笑)。真面目な話をすると、『ウルヴァリン:SAMURAI』は既に完成した脚本を少し脚色して映画化したところが大きかった。『LOGAN/ローガン』に関しては、キャラクター自体は既存のものだけど、物語は自分が個人的に作り上げたものなんだ。それは大きな違いだったね。ローガンについてのまったく個人的な物語にしたいという意味でも、何もない、まっさらな状態からスタートできたのは僕にとってもよかったし、それは作品にも反映されているんじゃないかな。


ーーヒュー・ジャックマンにとっては、ウルヴァリン/ローガンを演じるのは今回の作品が最後になります。その大役を担うプレッシャーはありましたか?


マンゴールド:1億ドル以上の製作費がかかっている作品だから、もちろん責任感やプレッシャーが自分の肩にのしかかることはあったけど、僕としては8ミリカメラを持って自分の本当に作りたい作品を撮るような感覚に近かった。毎日プレッシャーを感じていたら自分が本当に作りたいものを作ることができなくなってしまうから、自分自身も楽しみながら、ヒューたちと一緒に作品を作り上げていったんだ。


ーー劇中では『シェーン』(53/ジョージ・スティーヴンス監督)の映像も使用されているように、西部劇の趣もありましたね。


マンゴールド:この作品では『シェーン』はもちろん、『アウトロー』(76)、『ガントレット』(77)、『許されざる者』(92)といったクリント・イーストウッド監督の作品をはじめ、『11人のカウボーイ』(72/マーク・ライデル監督)、『子連れ狼』(72/三隅研次監督)、『ペーパー・ムーン』(73/ピーター・ボグダノヴィッチ)、『がんばれ!ベアーズ』(76/マイケル・リッチー監督)、『レスラー』(08/ダーレン・アロノフスキー)といった作品の影響を受けているよ。でも、西部劇はファンタジーなんだよね。


ーーそれはどういうことでしょう?


マンゴールド:黒澤明の侍映画の中で起こることが、その設定の時代に実際に起こっていたわけではないように、実際の事実とは異なるからね。僕が意識したのは、ファンタジーとしての西部劇をそのまま参照するのではなく、物語を伝える状況としてうまく利用することだったんだ。現代のアメリカ社会も反映させていて、この作品を通して、“怒りを抱えた国”を見せているんだ。


■「タイトルからクレジットまで、一貫して自分の物語を伝えたい」


ーーちなみに、『X-MEN』シリーズと同じマーベル原作のマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)や、DCコミックス原作のDCエクステンデッド・ユニバースなどのアメコミ原作映画を意識することはあるのでしょうか?


マンゴールド:僕はそういう忍耐力や辛抱強さがないから、他の作品を意識することはほとんどない。言ってみれば不動産と同じようなもので、僕は周りを気にする必要がない、他との繋がりがほとんどないような場所を選びたいんだ。とはいえ、一連のアメコミ原作映画を作っているのはみんな実力のある素晴らしいフィルムメーカーたちだから、そこはリスペクトしているよ。あくまでも自分の好みとして、TVシリーズのような、ひとつの大きな世界観の一部として作品を作ることにはあまり関心がないんだ。メインタイトルからエンドクレジットまで、一貫して自分の物語を伝えたいと考えている。だから、何かグッズを売るためだとか、次回作に繋げるために無理して何か繋がりを持たせなければいけないということであれば、スタジオは僕を起用しないほうがいい(笑)。僕がそういうことをした場合、作品そのものに損害を与えてしまうかもしれないからね。何らかの形ですべての作品を繋げていくという作り方は、作り手の声を奪ってしまう可能性がある。それこそ長く続いているTVシリーズのようになってしまうと思うんだ。


ーーTVシリーズでいうと、あなたも過去に製作総指揮として『VEGAS/ベガス』や『暴走地区-ZOO-』などを手がけていましたが、近年は特に映画監督がTVシリーズを手がけることが増えてきましたよね。その辺りについてはシーンをどのようにみていますか?


マンゴールド:TVシリーズと一言で言っても、パイロット版だけを手がける監督も結構多いんだ。でも、パイロット版だけを監督する場合と、シリーズを通してすべてを監督する場合はまったく違うものと言える。パイロット版を手がける場合は、キャスティングから作品のルックまでほぼすべてをその監督に委ねられるところがあって、それ以降を担当する場合は、最初の監督が作り上げたスタイルや伝統を続けていかなければいけないから、そのパイロット版に合わせる必要がある。だから、パイロット版の監督は比較的映画と近しい面白さがあるけれど、それ以降の1エピソードだけをやるということであれば、クリエイティブな空間はより狭まり、監督としての面白さも薄れてしまうんだよね。それに加えて、経済的な観点から、作られる映画の本数自体が少なくなっている中、大作ばかりが作られていく。だから、人間ドラマを作りたい場合は、映画よりもTVのほうが作りやすくなっているんだ。そういう意味でも、映画監督が自分のキレやシャープさを保つために、活発な活動を続けていくためにも、TVシリーズがひとつの活躍の場になっているのだと思う。今回の『LOGAN/ローガン』は、大作でありながらも、きちんと人間ドラマを描くことができたから、僕としてもすごく満足しているんだ。


(宮川翔)