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竹原ピストルの歌はなぜ心を揺さぶる? “全身全霊”を体現する『PEACE OUT』ツアー初日を観た

2017年06月01日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 竹原ピストルの弾き語りツアー『PEACE OUT』が、5月7日に東京キネマ倶楽部(東京)で初日を迎えた。アンコールを含め2時間半、竹原の歌手としての凄みが最大限に発揮されたライブであった。短いMCはあるものの、ほぼノンストップで歌い上げる姿は、“全身全霊”という言葉を体現しているようだった。


 4月7日に発売された同名アルバムを伴った、全国57箇所を巡る本ツアー。竹原はギター2本が置いてあるシンプルなステージに登場。「ドサ回り数え歌」をはじめとする新アルバムの収録曲はもちろん、過去作の楽曲から初披露する新曲まで、これまでのキャリアを横断するようなセットリストでライブは行われた。


 新アルバムの1曲目、ライブではお馴染みとなる「ドサ回り数え歌」は、竹原にとって名刺代わりのナンバーと言える。全国を巡業し年間250本以上のライブ、“ドサ回り”をする中で生まれたこの曲には、“一期一会”という竹原のライブに対する考え方が色濃く反映されているように思う。情感を込めてじっくりと歌い上げ、一気に観客の心を鷲掴みにする。野狐禅解散後にライブを重ね、ほぼ無名に近い状態から再びメジャーデビューを果たした竹原の、歌うたいとしてのキャリアと底知れぬ実力を肌で感じる瞬間だった。


 ドラマ『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(テレビ東京)の主題歌に抜擢、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)でも話題を集め、竹原ピストルの存在をさらに広く知れ渡らせた曲「Forever Young」も披露。<Forever Young あの頃の君にあって Forever Young 今の君にないものなんてないさ>というストレートな歌詞で紡がれる応援歌は、竹原の人柄や芯のある歌声が揃ってこそ説得力を与えられる。


 竹原のパブリックイメージとして、“無骨”や“力強さ”といった“ワードを思い浮かべる人は少なくないだろう。同ライブでも、歌声、ギター、汗、その一挙手一投足には、会場に足を運んだ観客と1対1で向き合おうとする竹原の気概に満ち溢れていた。しかし「カモメ」「マスター、ボーグスかけてくれ」では、猛々しいパフォーマンスを披露する一方で、ひとつひとつの言葉をきちんと届けようとする“繊細さ”も感じることができた。


 アコースティックギターをメインの楽器にしているため、フォークソングが中心だと思われがちだが、新アルバムをリリースした際のインタビューにて、「世の中にはいろんな音楽があるし、これいいなって思ったり、マネしてみようかなっていう要素はバンバン取り入れていこうと思ってて」(参考:エンタメステーション「竹原ピストル、ここから新しい旅路。旅芸人の心意気を証明する『PEACE OUT』」)と回答しているように、竹原の楽曲には様々な音楽的要素が組み込まれている。カントリー風の陽気なギターフレーズが印象に残る「一等賞」では、それまで集中して歌に耳を傾けていた観客も一丸となってクラップを入れる。一方、ミニマルなフレーズに韻を意識したラップ調の歌詞を乗せて北海道での実体験を歌い上げる「ママさんそう言った ~Hokkaido days~」では、シャウトの効いたサビで会場を圧倒していた。ヒップホップ好きを公言している竹原は、「ちぇっく!」や「俺のアディダス~人としての志~」のように、ヒップホップの手法を大々的に取り入れた楽曲も製作している。今回のライブでも、フォーク、ブルース、カントリー、ヒップホップなど、ギター一本を巧みに演奏しライブの中盤までに多彩な表情を見せた。


 住友生命「1UP」のテレビCMに起用された代表作「よー、そこの若いの」を歌った竹原。サビの<よー、そこの若いの>を会場全体で歌い出す一幕も。竹原の歌詞には、綺麗事や夢物語のような理想は登場しない。自身の人生経験を切り取り、その時々のリアルな心情や感覚を歌に込めるからこそ、誰かの背中を押すような楽曲を生み出すことができるのだろう。映画『永い言い訳』を手掛ける西川美和監督から、「仕事の歌」と依頼を受けて楽曲を制作したという竹原は、「自分は狭い世界観の歌しか作れないですからね。世の中にある仕事すべてを括れるような歌は書けないし、仕事をしているすべての人にくれるような歌も書けないから、どうしても私事チックになってしまったけど、みなさんそれぞれのお仕事に対する愛着だったり、奥歯を噛みしめる瞬間だったりに、ちょっとでも優しく触れることができたらなと」と前置きし、「俺たちはまた旅に出た」を歌い出す。また、クリープハイプの尾崎世界観も賞賛した「例えばヒロ、お前がそうだったように」では、トゲのある言葉が並ぶ歌詞を鬼気迫る勢いで歌い上げ、会場から大きな声援があがった。


 “一期一会”という言葉が示す通り、初日公演とは思えないほどのステージングを見せた竹原ピストル。観客のアンコールを受け照れくさそうに登場した竹原は、松本人志をモチーフにした「俺のアディダス~人としての志~」などを披露、歌い終えると会場に一言お礼を述べステージを後にした。“PEACE OUT”は、「じゃあな、またね」といった人と人の別れを指すスラング。歌い手として次の段階に進まなければならない、という気持ちのもと付けられたタイトルだという。12月22日に行われる中野サンプラザ最終公演まで、7カ月間という長い期間で行われる同ツアー。これから各地でたくさんの「じゃあな、またね」を繰り返し、再び東京に戻ってくる時には、さらに大きな存在となってファンを驚かせてくれるに違いない。
(文=泉夏音/写真=福政良治)