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NHKとテレビ東京、ドラマ制作の意外な共通点 “視聴率にとらわれない”独自路線を読む

2017年06月01日 15:13  リアルサウンド

リアルサウンド

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 5月の終わりとともに、春ドラマは中盤から終盤へ。各作品の方向性だけでなく、各局が「この春、どんなドラマを作ろうとしていたか」という総括が見えつつある。


参考:テレビ東京とNetflixはなぜタッグを組んだ? 『100万円の女たち』五箇公貴Pインタビュー


 5本中4本の事件解決モノをそろえたフジテレビ、相変わらずシリーズ作で挑むテレビ朝日、名作オマージュのような3作をそろえた日本テレビ、恋愛・ミステリー・刑事の人気3ジャンルから攻めたTBS。


 このようにはっきりと色分けできるのだが、NHKとテレビ東京の2局は、まさに“独自路線”でカテゴライズできない。今期もそれぞれ挑戦的なラインナップであるにも関わらず、意外な一致点が見られる。


■「スタッフの意志を感じる」ドラマ作り


 まずNHKのラインナップから。『ツバキ文具店~鎌倉代書物語~』は、手紙の代書屋となったヒロインと依頼者たちの物語。ハートフルな人間ドラマにフィットする映像美を追求し、見ているだけで優しい気分にさせてくれる。


 劇中には「思わずツイートしたくなる」派手な展開やエキセントリックな悪人は登場しない。鎌倉の風景もあって、どこまでも叙情的で繊細。視聴者を飽きさせないために、「数分に一回、事件や笑わせるシーンを盛り込む」民放ではまずお目にかかれない、美術品のようなドラマだ。


 『4号警備』の舞台は、民間の警備会社。「拳銃も手錠も持たないボディガードが事件解決」というテーマだけに、アクションシーンにフィーチャーした作品だった。特筆すべきは、「土曜20時15分から30分間」という超変則放送。短い時間だからこそ、アクションのスピード感とスタントの危険さにこだわり、逆に事件は拍子抜けするほどあっけなく解決していた。


 そもそもゴールデンタイムに30分間のドラマを放送するのはNHKくらい。しかも多くの視聴が期待できる土曜のゴールデンタイムであり、こだわりを詰め込んだ作品をたった7話で終わらせてしまうことも含め、民放よりも時間と予算に余裕があるNHKならではだろう。


 『みをつくし料理帖』は、天涯孤独な少女が料理の腕だけを頼りに江戸へ行き、一流の料理人になるまでの姿を描く物語。時代劇として江戸情緒と人情に浸るもよし、ヒロインの成長を見守るもよし、料理を楽しむもよし、と見どころは多彩だ。


 こちらも土曜18時5分から38分間の放送で全8話。全局唯一の夕方に放送されるドラマであり、さらにそれがNHK伝統の時代劇枠であることに驚かされる。ここまで大胆な番組編成ができるのは、視聴率やスポンサーに左右されにくいNHKの強みと言える。


 映像美と繊細な心理描写の『ツバキ文具店』は女性、社会派・職業モノ・エンタメ性の3要素を組み込んだ『4号警備』は大人の男女、時代劇に料理を絡めた『みをつくし料理帖』は中高年層と主婦層。放送枠ごとにターゲットを明確に分けた上で、スタッフが「これを作りたいんだ」という意志を込めたドラマを手がけている。


■「ニッチとしか言えない」ラインナップ


 次に、テレビ東京のラインナップは、『釣りバカ日誌 season2新米社員 浜崎伝助』、『孤独のグルメ Season6』、『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』、『100万円の女たち』、『マッサージ探偵ジョー』の5本。『釣りバカ日誌』をのぞく4本が深夜ドラマだけに、自由度はどの局よりも高い。


 さしたるテーマや事件はなくハマちゃんの日常を描いた『釣りバカ日誌』、オッサンがひたすら食べるだけの『孤独のグルメ』、知る人ぞ知る自主映画のドラマ化『SR サイタマノラッパー』、ほとんど謎が明かされぬまま淡々と放送回を重ねる『100万円の女たち』、他局の探偵ドラマをおちょくるような『マッサージ探偵ジョー』。「ニッチとしか言えない作風」が、テレビ東京の代名詞なのかもしれない。


 演出だけを切り取ってみても、4コマ漫画のような脱力感の『釣りバカ日誌』、ほとんど何もしない『孤独のグルメ』、微妙なクオリティのラップとロードムービー風の『SR サイタマノラッパー』、夜の闇や色気に特化した『100万円の女たち』、喜劇舞台のようなにぎやかさの『マッサージ探偵ジョー』。それぞれの世界観は混じり気のない単色で、「この色が好きな人だけどうぞ」というメッセージにも思える。


 テレビ東京のドラマが放送されない地域も少なくないが、それをカバーするように『100万円の女たち』はNetflix、『マッサージ探偵ジョー』はAmazonプライム・ビデオと提携配信している。もともとテレビ東京のドラマは嗜好性が高く、いわゆる攻めた作品が多い。また、30~40分という短さもあって配信サービスとの相性はよく、今後もスポンサー収入だけに頼らないドラマ作りをしていくだろう。


■自由な演出、短い放送時間、コアターゲット


 NHKとテレビ東京。「かたや公共放送、かたや民放5番手」であり、その立ち位置は真逆だが、なかなかどうして。ドラマに関しては、自由度の高い演出、短い放送時間、コアを狙うターゲット設定などのコンセプトは非常に似ている。


 その理由は、ひとえに「視聴率にとらわれない」姿勢に他ならない。民放他局は、視聴率という基準での過度なマーケティングで似たような作品を連発している。たとえばNHKとテレビ東京には、民放他局でよく見られる“勧善懲悪の一話完結”ドラマがほとんどない。


 それは「こういうジャンルで、こんな主人公がいて、最後はこうなるドラマを作れば視聴率が獲れそう」という考え方をしていないからだろう。実際、NHKは翌週までに必ず再放送をしているし、テレビ東京に至ってはネットで先行配信している。最初から視聴率ありきでないことは明らかだ。


 同様に、スポンサーと芸能事務所への配慮や、コンプライアンス対策の自主規制もさほど見られず、プロデューサーは自分のやりたいテーマを選び、演出家と脚本家に伸び伸びと仕事をさせている。「民放他局とは制作過程が根本から異なる」ことが明確な差別化となり、視聴率には表れない“隠れ熱狂的ファン”を生み出しているのだろう。


 ともに、「スタッフサイドの一人よがり」のような作品を生み出すこともあるが、ふだんのチャレンジを知っている視聴者たちは、それすらも「今回はやっちまった」とほほ笑ましく見ている。現状これといった課題は見当たらないだけに、民放他局が制作スタンスを変えない限り、支持を集め続けるのではないか。(木村隆志)