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先駆者としての気概を見せた、アロンソのインディ500挑戦【今宮純のザ・ショウダウン】

2017年05月31日 13:42  AUTOSPORT web

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2017年インディ500、初参戦ながら印象的な走りを見せたアロンソ
F1ジャーナリストの今宮純氏が様々な要素を【対決】させていく新企画。第5回はインディ500を戦ったフェルナンド・アロンソを分析。トップ争いを繰り広げながらも、あと50マイルのところでエンジントラブルによりストップ。しかし、“ルーキー”アロンソの走りは観客たちに感動与えスタンディング・オベーションで迎えられた。

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 あと50マイル。フェルナンド・アロンソの「インディ冒険」――最も速い2週間は突然すぎるエンディングだった。180周目、2時間47分31秒3192。初めて第101回大会に挑んだルーキーはエンジントラブルによって、24位で『インディ450マイル』を終えた。


 1コーナーでマシンを止めると、アロンソは大きく手を上げた。そしてもう一度、スタジアムに向けて親指でサムアップ。このシーンを見るためだけでも、この日ここに来た価値はあったとスピードウェイを埋め尽くす観客達はそう感じたはずだ。

 アロンソには本物の“スタンディング・オベーション”が見えた。F1スペインGPでもこうはならない、この3年ずっとそうだ。リタイア後、歩いてピットまで戻る間、ルーキーは自分も感動しているのに気付くと小さな笑みを浮かべた。

 決勝二日前、最後の走行になるカーブ・デイは5位。燃費確認とダウンフォースバランス調整、アンドレッティ・チームメイトとのグループランを実施。2位佐藤琢磨は順調、7位アレクサンダー・ロッシはマシン状態がベスト、関係者はそう分析し「昨年ウイナーが先陣を切る」と予想した。

 フリー走行から劣勢なシボレー系チームは予選初日、カウルにある工夫(?)をしてエアロチューン対策に出たという。しかし予選二日目に“修正”、何度も車検チェックを行った(規定違反を憂慮したのか)。年に一度きりの決戦、アメリカGMシボレーとしてはまたホンダにやられるわけにはいかない。秘策を狙ったが断念したのか、内実は不明だが……。

 3列目(ファスト9)にホンダ6台、シボレー3台。優勢でも予選中アロンソにエンジントラブルが発生したほか、フリー走行でも何件か起き、その不安は払拭できていない。外からでは知りえないプレッシャーがアメリカのHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)スタッフにはあった。

 オープニング・セレモニーがすべて終わり、12時26分にグリッドから33台のマシンが放たれた。5位アロンソは9番手に下がり佐藤が背後にまわる。


 10周目7位、21周目6位、26周目4位、30周目2位。観察し周囲の動きを見ながら上昇、31周目に最初のピットストップ。レギュラー・クルーではないがまずまずの8秒4、これから7回も繰り返す“予行演習”だ。佐藤も同じタイミングで入り、「F1同期生」ふたりは編隊を組んでいるかのようだ。

 37周目、アロンソ1位へ。ロッシと佐藤でトップ集団を固めると後方でスコット・ディクソンの大事故が起きた。上位にいればアクシデント“不運率”が減るのがこの500マイルレース。20分の中断後、初めて先頭からリスタートするルーキーは気負わず落ち着いてこなした。

 ロッシ、佐藤と連なり周回を重ねるアロンソ。途中ピットでフロントウイングをアジャスト、アンダー対策を施す。中間点100周目、エリオ・カストロネベス(シボレー)が先頭に出るがハンターレイ、ロッシ、アロンソがたちまち抜いていく。

 佐藤が最速ラップ、流れが明らかに読みとれた。彼らアンドレッティ勢が主軸メンバーを形成、終盤に突き進むのは間違いない。アロンソも37~42周目、48~60周目、130~134周目、136~138周目、既に27ラップ・リーダーに立っている。

 150周経過、いよいよここからだ。10番手以降でなりを潜めていた佐藤が再び最速ラップ。ピット前でアロンソのインサイドを突く。埃が舞う。ルーキーに抑え込まれた。

 なおも仕掛ける。今度は抜いた。最後のステージに残るメンバーは二人のほか数人だけに絞りこまれた。そして168周目、最後のピットストップ(通常30~33周スティント)。ここから500マイルレース舞台の「おおとり」スプリント競演スタート。


 アロンソがベテランのトニー・カナーンをアウトからパス、彼の得意技をやってみせたルーキーに観客がどよめく。その直後だ。先頭集団7番手にいた彼のエンジン音が4コーナーで一瞬“悲鳴”に変わった。すぐ左側にスローダウン、レーシングラインを自ら外し安全地帯を選んで止めた。潔いF1チャンピオンの振る舞いに見とれる大観衆……。

 アロンソはレース後に「あの(カナーンをパスする)前からエンジンの感触に変化を感じていた」と語った。チームメイトに比べ決勝日わずかにレスダウンフォース設定にしたアロンソは、最終局面で直線スピードに賭けていた(と思う)。そこに加わるまで彼のホンダエンジンはもたなかった。あと50マイル、でもまだ佐藤がいる。

 立ちふさがるマックス・チルトン、カストロネベスをかわした佐藤は最速ラップ39秒7896(226.190MPH)を記録。シボレーの強豪カストロネベスを0.2011秒差に従え、栄光への500マイルを堂々と勝ちぬく。スペイン人より先に、日本人佐藤が初めて覇者となった第101回インディ500、これで2年連続F1ドライバーが制した。

 こうした「国際モータースポーツ・交流レース」がいまこそ望まれるのではないか。アロンソのインディ冒険に、先駆者としての気概を感じた。付け加えるなら60年までのように、インディ500をF1シリーズ戦に含めたらどうか。他に誰も出なくても、レーサーたるアロンソは第102回にもきっと行く気だろう。