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EXO D.O.は“演技ドル”を越えていく 『あの日、兄貴が灯した光』の心揺さぶる演技

2017年05月31日 10:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 演技ドルという言葉で原稿をこれまでにたくさん書いて来た。演技ドルとは、演技のできるアイドルのこと。韓国では、この言葉がよくつかわれている。そして、演技ドルの話をするときに最初に名前があがるのは、『あの日、兄貴が灯した光』で主演を務めたD.O.だと言っても過言ではないだろう。


参考:ZE:A・シワン、EXO・ド・ギョンス、SUPER JUNIOR・カンイン……2016年、注目の“演技ドル”


 D.O.は東方神起も所属するSMエンターテインメントのグループEXOのメンバーだ。2014年から俳優活動を開始し、その年に出演した映画『明日へ』で高い評価を受けた。『あの日、兄貴が灯した光』で共演した兄貴役のチョ・ジョンソクからも、「『明日へ』を見ていたから先入観はなかった」と評価されている。


 本作では、そのチョ・ジョンソクとD.O.は兄弟を演じている。兄貴のドゥシクは詐欺を繰り返した罪で刑務所のお世話にもなっている。一方のD.O演じるドゥヨンは、柔道でオリンピックを目指していたが、試合中の事故で視力を失ってしまう。ふたりは、ドゥシクの出所を機に再会し、ひとつ屋根の下で暮らすことになったところから物語は始まる。


 このふたりが、互いに反発しあっているところからスタートして、次第に距離が近づいていくところが、本作の見どころだろう。そのきっかけは、普通ならば、一緒にご飯を食べるとか、なにかぐっとくる言葉があるとか、そういうことを想像するものであるが、この兄弟が近づくのは、買い物に出かけた先でぶつかって謝罪もしない男に対して、共闘して打ち負かそうとすることからだ。ネタバレになるから詳しくは書けないが、兄がずっとやってきた「欺く」という行為に、ドゥヨンが乗っかることで、ふたりの心がぐっと近づいたことが伝わってくるし、それがジョンソクとD.O.の演技バトルにも見えてニヤリとしてしまう。


 男同士の映画では、こうしたなんでもない“お遊び”が距離を近づけるきっかけになることが多い。ジョニー・トー監督の『ザ・ミッション 非情の掟』で男たちを近づけるのは、紙くずを蹴りあってそれがサッカーになってしまう場面だ。キム・ギドク原案・製作の『映画は映画だ』でも、兄貴と弟分がスローモーションでボクシングをし合うシーンがあり、それが絆を深めるきっかけとなっていた。なんでもないふとした出来事が、映画の中では、男同士の絆を強める装置になっていることは多いのだ。


 もちろん、それ以外にもふたりの距離が近づく場面がちりばめられている。サウナに行って背中を流しているときの会話で、お互いの過去を理解しあえるようになっていくシーンでは、日本も韓国も変わらないのだなと思えた。


 ふたりの距離が近づいていくからこそ、この映画の終わりは悲しく涙が止まらない。どれだけ泣けるかは、この兄弟の心の距離の変化をどれだけ見ていたかにかかっているのかもしれない。


 この映画の脚本は、韓国で1200万人の観客動員を記録した『7番房の奇跡』のユ・ヨンアが書き下ろしている。『7番房』を見た人ならわかると思うが、ウェルメイドで安定したストーリー展開を素直な気持ちで追いかけてさえいれば、必ず泣かせてくれるのは『あの日、兄貴が灯した光』も同じである。


 その分、なんとなく、ストーリーの先が見えてしまうような部分はあるが、それでも終盤のD.O.の心の底からの衝動を見ていると、わかってはいても、スイッチを押されたように感情が込みあがってしまう、この映画はそんな映画なのだ。


 D.O.は演技を始めてから、難役を演じることが多かった。そのことも、彼を演技ドルたらしめていた理由のひとつと言える。今回も彼は目が見えなくなり、兄と再会し関係性を取り戻し、そして光=希望を得るまでを演じた。これも、やはり難しい役ではあったと思う。しかし、映画を見終わってみると、難しい役を演じきったと意識するというよりも、ドゥシクとドゥヨンというふたりの生きている姿を見たということのほうが残った。いつか、D.O.は、演技ドルという呼び名すらも必要のない俳優になるのだろう。(西森路代)