2017年05月31日 10:14 弁護士ドットコム
最近、東京都内のIT系企業などでは、「会社近くに住んだら、近距離通勤手当を支給します」という制度があるそうだ。ある企業では、500m圏内であれば3万円、1㎞圏内に2万円、2㎞圏内に1万円が支給されているという。うらやましい話にも思うが、この企業に勤める人によれば「近くに住めというプレッシャーに感じられ、キツイです」と話す。
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どういうことか。「3万円の加算欲しさに、特に若い人や単身の人たちが、こぞって500m圏内に住み着くようになりました。人身事故や台風などの気象条件にも左右されず、絶対に遅れることもありません。まあ、それは素晴らしいことなんでしょうけど、遠方で『人身事故の影響で遅れます』という人が小さくなっているので、ちょっとかわいそうに思います」(先の社員)
勤務先でははっきりと「近くに引っ越せ」と言われているわけではない。しかし、これだけ加算されることから、会社側が「近くに住んでほしい」と考えていることは伝わってくるため、今後、近くに住むことが義務付けられるのではないかと心配しているそうだ。会社側は福利厚生の一貫としてではなく、従業員の居住地についても指定することはできるのだろうか。
労働問題にくわしい高木由美子弁護士に聞いた。
「どこに住むか、居住移転の自由は憲法で保障されています。勤務先の近くに引っ越さなければ、従業員が業務を遂行する上で支障が生じるようなケース以外では、勤務先が引っ越しを強要することは認められません。
引っ越しを強制するのは、従業員の『居住移転の自由』を侵害する行為です。居住移転の自由は、憲法で保障されています。私企業や私的団体であっても、憲法で保障されている権利を侵害するような行為は、原則として認められません。今回の事例も、引っ越しをしなければいけない事情は認められず、原則として、勤務先からの引越命令を拒否することは可能です」
なお、この会社では、2km圏外に住む従業員に対しては、交通費は実費のみ支払われている。一方で、2km圏内に住む従業員は、交通費の代わりに冒頭のような近距離手当が支給されているが、このような扱いの差は、法的な問題はないのだろうか。
「交通費の支給は、残業代の支給等とは異なり、法律で支払を義務づけられているものではありません。
ですので、交通費を支給すること自体、会社の自由な判断になります。そのため『このような場合は交通費を支給するが、このような場合は交通費を支給しない』など条件を付けたり、『ある従業員には交通費を支給するが、別の従業員には支給しない』と扱いに違いをもうけたりしても、違法ではありません。
同じように、『近距離手当』も法的に義務付けられているものではないので、支給するか否か、支給の条件については、会社が自由に決めることが出来ます。
とはいえ、従業員が不公平感を感じることなく、安心して勤務できるように、就労規則等に交通費の支給基準を明確に規定して、従業員に分かりやすく周知する必要があるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高木 由美子(たかぎ・ゆみこ)弁護士
第一東京弁護士会所属。米国・カリフォルニア州弁護士
事務所名:さつき法律事務所
事務所URL:http://www.satsukilaw.com/