2017年F1第6戦モナコGPは、セバスチャン・ベッテルが優勝、フェラーリは1-2フィニッシュでメルセデスを寄せ付けない速さを見せた。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がモナコGPを振り返り、その深層に迫る──。
-----------------------------------
16年前、ミハエル・シューマッハーとルーベンス・バリチェロが逆転1-2フィニッシュを飾った時のような青空がいっぱい。どうしてもここで勝てなかった“15連敗”ワースト記録を、ついに止めたセバスチャン・ベッテル。初夏を思わせるリビエラの陽光を浴び、フェラーリはよみがえった。
コース距離のおよそ20%が新しい舗装に変わった。東京の街でも道路補修舗装工事をよく見かけるが、この小国ではもっと頻繁に行われる。
F1のためというより、人口3万6000人の市民のために清潔な街並みが整備され、また治安もしっかり守られている。1929年からグランプリが開催されているのには、そうした社会背景があるからと思う。世界三大レースと言われる所以だ。
事前のコラムでもとりあげたように、モナコ木曜午後FP2は週末の流れを占う重要なセッション。公道コースに対するイニシャル・セッティングの成否がつかめ、ドライビング・リズムも見てとれるからだ。
CS中継初日3時間を久々に森脇さんと担当。
「フェラーリSF70Hのセットアップもベッテルのリズムも素晴らしい」と意見が一致した。
逆にメルセデスW08とルイス・ハミルトンには鋭さも切れ味も見られず、自信を持って攻めきれていない印象を持った。メルセデスは3760㎜の最長ロングホイールベース、フェラーリは3594㎜(-166mm)、一概に決めつけられないものの長くて大きいマシンをハミルトンがもてあましている気がした。
具体例を挙げるとプール・ベンド出口シケイン。ベッテルが何度かタイヤ・サイドウオールをこすっていたが、自信があるからそこまで寄せ切れる。無ければ近づくこともできない。『モナコ・リズム』良し悪しを見てとるポイントはここだ。
3セクターすべて最速のベッテル、1分12秒720はいきなり“コースレコード”。2位以下に約0.5秒差はモナコだけに巨大だ。
まるでウイニングランのように観客に応える姿を見てとても満足しているのがはっきり分かった。めったにこういうアクションなどしないベッテルなのに。
新舗装によってバンプがかなり減り、ライドハイトが低めに設定された。1コーナー減速地点にはスキッドブロックの痕跡が付着している。
ダイナミック・ダウンフォースが増し、タバコ・コーナーからプール・ベンドでの維持速度が見るからに上がった。著しいラップタイム上昇はすなわち、加速と減速に今まで以上のメリハリが求められ、流れるリズムと強弱テンポの“ライブ・パフォーマンス”。
街道レーサー・キミ・ライコネンが12年ぶりにモナコPP奪還。セクター1と3が速いベッテルに0.043秒差で優ったのはミラボー、ヘアピン、ポルティエ、シケイン、タバコと続くセクター2だ。
ここだけで0.143秒先行、ブレーキング・テンポがキミらしかった。2位ベッテルはミラボーとヘアピンでやや前のめりに……、低速コーナーふたつが二人を分けた。
第6戦モナコが今季最もホットな路面50度コンディションに、まさしくフェラーリ日和(ソフト系ピレリにマッチする)。大人同士二人きれいに1コーナーを抜け、隊列がそれに続く。
ライコネン10周目に2.117秒、13周目に2.319秒リード。メルセデス相手のときのように食らいつくそぶりを見せないでいたが、急に14周目から揺さぶりをかけ始めた。1秒台ギャップ、キミのリズムを狂わせようという魂胆か。
23周目には1秒以下、そろそろ周回遅れが気になるところでさらに追い撃ちをかけるしたたかなベッテル。
フェラーリ陣営が32周目 4位マックス・フェルスタッペン、33周目 3位バルテリ・ボッタスのピットインに反応。
34周目にライコネンを呼び入れる。インラップ1分34秒039、静止時間3秒4(リヤジャッキと右前輪がロス)、アウトラップ1分19秒598。前に周回遅れの姿が見えていた。首位ベッテルはクリーンエア・スペースに1分15秒台を連続、女神さまがキミを振って乗り移ってきたかのよう……。
39周目インラップ1分32秒673、静止時間3秒1、1コーナーに首位のまま戻ったアウトラップは1分18秒650。78周レースを半分の“均等割り”でカバーしたベッテル。
「なぜ自分はそうではなくて5周早かったのか」。集中心に隙間風が入り込み、2位ライコネンは引き下がっていった。
フェラーリは82回目1-2達成でコンストラクターズ17点リード、ベッテル129点でライコネンはほぼ半分の67点。表彰台ロイヤルファミリーの前であろうと笑顔にはなれない、悔しさいっぱいの15回目モナコGPだったろう――。