ジェンソン・バトンのモナコGPは、決して理想的な結末とはならなかった。
予選はQ3に進む好走を見せたものの、5基目のMGU-Hとターボチャージャー交換で、15番グリッド降格ペナルティ。最後尾グリッドが確定した。さらに追い討ちをかけるように、予選のクラッシュでダメージを負ったストフェル・バンドーンのマシンに、自らの改良型フロアを付け替えたため、ピットレーンスタートとなってしまう。
昨年までのバトンは、「ドライバーにまったく非がないのに、いきなりグリッドを降格される。この理不尽なペナルティ制度を、何とかすべきだ」と、ことあるごとに訴えていた。しかし見直されることはなく、半年ぶりに復帰したバトン本人が犠牲となってしまった。
ほぼ抜けないモナコGPで、ピットレーンスタート。それでもバトンは、ポイント獲得の希望を捨てなかった。1周目にスーパーソフトに履き替え、残りの77周をノンストップで走り切る。その間に順位を上げて行く狙いだった。しかしすぐ前のパスカル・ウェーレインも、同じ作戦を取った。
さらに不運だったのは、ピットロードでウェーレインに強引に前を塞がれ、先行できなかったことだ。ペースではマクラーレン・ホンダがはるかに優るにもかかわらず、コース上ではどうしても抜けない。その間に上位陣との差はどんどん開いて行く。ウェーレインには5秒ペナルティが課されたが、バトンにはいっさいのアドバンテージにはならなかった。
スタートから60周近くをずっと最後尾で走り、何度も青旗を出され抜かされて行く屈辱。それが後半58周目に起きた接触事故の伏線になったことは間違いない。
先行車に譲ってラインが空いた一瞬の隙を見逃さず、バトンは果敢にインを攻めた。しかし抜き切れず、ウェーレインは横倒しになりながらアウト側のウォールに衝突。バトンも左フロントサスを破損して、リタイアとなった。
「あそこで飛び込んだのは、今でも正しい決断だったと信じている」と、レース後のバトンは語る。「パスカルが僕を見ていないのがわかったけど、その時にはもう遅かった。事故の相手があんなふうにひっくり返って、無事かどうかわからない光景など、絶対に見たくないものだ。パスカルが無事だったことが、何より重要なことだった。僕はマシンを滅多に壊さないドライバーだ。それをやってしまったことを、チームに謝りたい」
最後にバトンは、「今週は楽しめた。特に昨日(の予選)はね。いい思い出がたくさんできたよ」と、ようやく表情をほころばせた。バトン自身は、「これが最後のモナコGPだ」と復帰の可能性を否定するが、来季再びマクラーレン・ホンダのステアリングを握る可能性は、依然として低くない。バトンの華麗な走りとあの笑顔を、改めてみたいと思うファンは少なくないはずである。