インディ500の予選でフェルナンド・アロンソが2列目の真ん中5番手グリッドを獲得した時に、現役F1チャンピオンの速さと実力を垣間見せていた。
プラクティスから予選までミスを犯すことなく、予選1日目でファスト9に入り、予選2日目のポールデーで5番手のタイムを出す。一見簡単そうなインディアナポリスのスーパースピードウエイだが、その速さを習熟し身につけるまでは、膨大な月日を必要とするのが常だ。
ことオーバー230mphの速さともなればなおさらである。とあるエンジニアがいう「アロンソはグループランをしている時に、右へ行ってみたり、左へ行ってみたりラインを変えて勉強してますよね。前の車に並んで引いてみたり。その毎ラップですごく多くの情報を吸収してますよ。そのラーニングカーブがすごいんです」
その言葉に裏付けられるように、アロンソは決勝でも痛快なレースを見せた。
F1では決して体験することのない3列縦隊からのローリングスタートで、アロンソは一旦後続に飲み込まれ9番手まで順位を落とす。しかしレースペースがつかみ始めると、佐藤琢磨らをかわし、徐々にポジションが戻ってきた。
20周目には6番手、そして28周目には3番手まで上がってきた。前車との間合いをはかりターンの侵入でズバリと抜いていく。あたかも何年もIMSを走っているベテランドライバーのようにだ。
そして、37周目には初めてトップに立ったのだ。途中スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)の大きなアクシデントがあり赤旗中断で先頭でピットに戻ってきたが、その中断の間にもリズムを乱すことなく、アロンソは常にトップ争いに加わっている。
その速さの秘密を優勝したチームメイトの琢磨が明かしてくれる。
「アロンソのダウンフォースレベルは小さくて、ストレートで少し速いので、序盤に彼のスピードが速いのはわかっていました」と言う。
アロンソのスピードは衰えることがなく、まさかインディ500初出場で初優勝か!と誰もが思っていた。
彼が唯一ペースを乱したのは139周目に入ったピットで、その後一時は12番手までポジションを落としている。その後9~10番手でこう着したが、クラッシュの続く波乱のレースで生き残ると7番手まで再浮上し、残りの30周で優勝を争う勝負権を得た。
しかし……である。アロンソのマシンが白煙を上げたかと思うとメインストレートを過ぎた直後で止まり、マシンを止めてしまうのであった。残りあと20周……。
ピットを歩いて戻ってくるアロンソの顔はうっすらと汗ばんでいる。スタンドからの大きな声援に手をふりながら、このインディチャレンジを終えることになった。
まさかF1で苛まれているエンジントラブルにインディでも苛まれるとは、思ってもいなかっただろう。
「まずはインディのすべてのみなさんにお礼を言いたい。ありがとう。今回のレースをフィニッシュ出来なかったことは、とても残念だ」
「どんなレースでも、出ている以上はチェッカーを目指すもの。それが今日は叶わなかった。だけど今回はとても素晴らしい経験になったよ。僕自身も成長し、僕自身にチャレンジすることが出来た」
「F1は思い通りに走らせることができるけど、インディカーはそれができるかどうかわからなかった。でも素晴らしいレースのフィーリングを感じることができた」と振り返るアロンソ。
そして……。
「オメデトウ、サトウ。オメデトウ、アンドレッティ・オートスポート!」とチームメイトに祝辞を伝えることも忘れなかった。
アロンソは、きっとまたインディに戻ってくる。そう確信したレースデーだった。