スタート直後から、戦略を分けてマッチレースとなった関口と石浦のトップバトル 2レース制で開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権第2戦岡山。最後を締めくくるレース2が周回数51周で行われ、3番手スタートの関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)が1周目にピットイン、タイヤ交換義務を果たしたのち追い上げる作戦で、後半ピットインの石浦宏明(P.MU / CERUMO · INGING)とのマッチレースを制し、今季初優勝を果たした。
レース2はタイヤ4輪交換義務付けのレースフォーマットとなり、必ずピットインしなければならない。レース2ではスタートに加えて、各チームのピットイン戦略も勝負の大きなポイントになる。
事前の取材では燃料は無給油でも行ける距離であること、タイヤも50周走り切っても問題ないというタイヤサプライヤーである横浜ゴムの見立てもあり、1周目で無給油、タイヤのみ交換という戦略も可能で、スタート次第で多くのマシンが1~2周目にピットインすることが予想された。
8分間のウォームアップ走行ではクルマの最終チェック、各チームピット前でタイヤ交換の練習、ピットロード出口でのスタート練習と、各チームルーティン作業を実施。前日のレース1ではポールポジションからスタートをするも出遅れて優勝を逃した関口は、幾度もピットロードへと戻り、スタート練習を繰り返していた。
レース開始直前のコンディションは気温27度、路面温度41度と、前日から今朝までの涼しさから一転、暑さを感じるコンディションへ大きく変化。グリッド上では国歌吹奏が行われ1分前のボードが掲示と同時に、各車のエンジンに火が入り、14時25分の定刻でフォーメーションラップが始まった。
緊張高まるスタートでは前日同様4番グリッドのアンドレ・ロッテラー(VANTELIN TEAM TOM’S)がうまくスタートを決め3番手にポジションを上げ、先頭から石浦、山下健太(KONDO RACING)、ロッテラーの順に1コーナーへ。しかし、その直後、中団9番手スタートの中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)がアトウッドで大きくはみ出しコースオフ、最後尾へと落ちてしまう。
そして、1周目完了の時点でピットロードへと向かうマシンが8台現れ、先頭集団の中では唯一、関口がピットに入る選択をし、クリーンエアの中での順位アップを狙いに出る。
3周目にも2台がピットインし、約半数ごとに、コース上にはピットインしていないグループ、ピットインを終えてタイヤ交換義務を果たしたグループの2つの隊列ができ、遠隔で順位を争う展開となった。
5周完了の時点で先頭は石浦、ピットインしたグループの先頭は9番手の関口、翌6周を終えたところで3番手にいたロッテラーがピットインを選択、関口の後方でコースに復帰した。
2番グリッドスタートのルーキー山下健太(KONDO RACING)はピットに入らずにコース上に留まる選択をし2番手をキープするも、トップが1分16秒台中盤で走行する中、1分17秒台とペースが上がらず石浦から徐々に引き離されていく。
一方、石浦も1分16秒台後半のラップタイムで周回するが、実質のトップ争いのライバル、関口は1分16秒台前半のタイムを並べ、1周につき0.4~0.5秒のギャップを縮め始める。序盤の時点でで石浦と関口のタイム差は31秒弱。ピットインのロスタイムが約33秒と考えると、この時点ですでに関口の逆転の可能性が高まる。
18周を迎えたころ、3番手走行中の小林可夢偉(KCMG)を15番手スタートから4番手まで順位を上げていたフェリックス・ローゼンクビスト(SUNOCO TEAM LEMANS)がロックオン。しばらくはローゼンクビストが可夢偉を責め立てるバトルが続いたが、19周完了の時点で可夢偉がピットインし、伊沢拓也(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)の後方11番手でコースに復帰した。
レース半分が経過した27周の時点で石浦と関口の差は30秒を切り、差は詰まっていく。
30周を迎えたあたりで、追い上げを続けていたローゼンクビストが2番手の山下のうしろにつきプッシュを始める。山下はオーバーテイクボタンを押してなんとか逃げ切るも31周完了時点で先ほどの可夢偉同様、ローゼンクビストとのバトルを回避しピットへ。しかし、右リヤタイヤ交換に時間がかかりタイムをロス。可夢偉の後方、7番手でコースに戻り初表彰台は遠のいてしまった。
32周を追えて、ピットに入っていないのは石浦とローゼンクビストの2台のみ。2番手のローゼンクビストも石浦に追いつくには差が大きいもののペースは落ちることなく1分16秒台前半のタイムを出し続け、相手の見えないポジション争いをし続ける。
関口は1分16秒台中盤のタイムをキープし、ピットインしていない隊列の後ろに付きそうになるが、タイミングよく追いつかれたマシンもピットインし、速いペースを維持。一方の石浦も1分16秒台をキープし、お互い我慢比べのような状況に。すると、石浦はタイヤが厳しくなったか、30周を過ぎてから1分17秒台にタイムを落とし始める。
そこですぐにチームが動いた。34周完了した時点でトップの石浦がピットへ。ピットイン直前で石浦と関口の差は26秒強まで縮まっており、関口が前に出る状況は確実だが、石浦としてはフレッシュタイヤでの追い上げが期待できるため、できるだけ小さいギャップで関口を追いたい。どのくらいのギャップでコース復帰できるか、注目が集まる。
サーキット中の視線はP.MU / CERUMO · INGINGのピットに集まる。ピット作業はミスなく9.5秒でピットアウト。石浦は真っ先にピットロード出口へと向かったが関口はすでに1コーナーを回っており2番手で復帰、その差は9.7秒のギャップとなった。まずはここで、関口に軍配が上がった。
30周差のタイヤで戦う関口と石浦のトップバトル。ふたりの約10秒差が残り13周でどのような展開となるか。石浦は36周目に1分15秒772のその時点のファステストタイムをマーク。すると関口も1分16秒142の自身のベストタイムで応え、ふたりの意地の戦いが続く。
そして38周目に事件は起こった。5番手を走行していた伊沢が2コーナーのアウト側でクラッシュ。スポンジバリアに大きくマシンを突っ込ませてマシンを止めた。これにより39周目にセーフティカー(SC)が導入され、各車が築き上げていたマージンがリセットされる展開に。
SC導入によって関口雄飛が築き上げた石浦との約8秒のマージンはなくなり、コース上で抜かれる可能性は低いもののミスひとつで順位が変わる予断を許さない展開へと変わる。また、このSCで幸運を手にしたのがローゼンクビスト。SC導入中にピットインし、ロッテラーの後ろ4番手でコースに戻った。15番手スタートからピットインタイミングを最後まで引っ張り、関口に続く1分16秒台のラップタイムを並べてレース終盤までプッシュし続けたパフォーマンスが功を奏した。
42周を終えた時点でSCが退去、関口はリスタートをうまく決めポジションを守ったが、ドラマはまだ終わらなかった。47周目、さすがにタイヤの摩耗が厳しくなったか、関口はダブルヘアピンなどでクリップに付けず膨らんでしまい、石浦がインを伺う。両者のタイム差はわずかコンマ5秒。石浦がプッシュし、関口が逃げる。
ファイナルラップも超接近戦となったが、関口、石浦ともにバックストレートでオーバーテイクシステム(OTS)を使い合い、差は変わらず。ダブルヘアピンでも関口は丁寧にインを抑えて石浦をブロック。最終的に関口がトップを守り切り、全周に渡って緊張感の高いレースで今季初優勝を飾った。
2位に石浦、3位にロッテラーが就き今回もトヨタ勢が表彰台独占、さらには上位6台まで占める圧勝となった。ホンダ勢のトップ、7位にはピエール・ガスリーが参戦3レース目にして初入賞を果たしている。