2017年05月28日 09:53 弁護士ドットコム
いま、離婚と親子関係をめぐる法や制度の見直しに注目が集っています。日本では諸外国と比べ、離婚時に子どもの立場が尊重されない問題が指摘されていますが、子どもたちを守るためには、今後、法や制度をどのように見直していけばいいのでしょうか?
【関連記事:世界の離婚事情…日本は「子どもに対する責任」が曖昧【棚村教授に聞く・上】】
上編(「世界の離婚事情…日本は『子どもに対する責任』が曖昧」https://www.bengo4.com/c_3/n_6138/)に続き、離婚と親子関係をめぐる法制度の問題に詳しい、早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(家族法)に、話を聞きました。(編集&ライター・大塚玲子)
――海外で「共同親権」といわれるものは、両親ともに親としての責任があるというだけでなく、社会や国、地域にも子どもを守っていく責任がある、というのが共通認識なのですね。
はい、「子どもの権利に対応する親の責任、社会の責任、国の責任」という形で、法制度も大きく転換をしているわけです。
だから養育費や面会交流、子育ての支援を行う「家族関係支援センター」といったものも各地にありますし、面会交流の実施や養育費の取立ても社会として強化しています。そして共同で子育てできる人たちには、離婚した後も親として、結婚していた時にやっていたような役割をお子さんに対して果たしてもらおう、というふうになっている。
ところが相変わらず日本は、大人の権利が中心です。夫婦間の過去の恨みつらみ、みたいなものが噴出してくるので、お子さんは大人同士の争いの間に挟まれて、非常に苦しい状況に置かれたまま、放置されているわけです。
ただ、海外の取組みや考え方も、どうも日本では誤解をされているところがありますね。
別居親のほうは、「共同親権」や「面会交流」をやれば、すべての問題が解決するように思っていますし、一方で同居親のほうは、生活も苦しくて時間もないなか、あんな人と顔を合わせたくないから養育費ももらわなくていい、とあきらめてしまうとか、子どもの気持ちと関係なく「会わせる必要はない」と判断してしまうとか。
現状はそんなふうに、子どもをそっちのけに大人の争いに終始してしまっていて、お互いを傷つけ合うことに時間と精力が使われてしまっています。
でも本当は、離婚したあと生活が変わっていく中で、親と子の関係はどうあるべきかという、前向きな話し合いが必要です。お互いの信頼関係を回復するとか、最低限のコミュニケーションのベースを作るといった、もっと建設的な議論が必要なのに、そこにはなかなか目が向かないんですね。
――子どもたちにとっては、ものすごく迷惑な状況ですね。
子どもたちの本当の気持ちは「お互い、自分をめぐって争うことは、もうやめて欲しい」ということでしょうね。「もっと大人になってほしい」など(苦笑)、そんな思いでいる子どもたちが多いんじゃないでしょうか。
なにかというと別れた相手の悪口を言うのも、子どもを傷つけていきますよね。いくら良い夫・良い妻でなかったとしても、子どもにとってはお父さんお母さんであることに変わりないわけです。そういうことを含めて、子どもたちがいかに板挟みになって辛い状態にあるか、ということを知る必要があります。
海外では、離婚のときに親教育のガイダンスをする国もあります。「ちょっと待ってください、あなたたちがこんな風に争えば争うほど、子どもたちにこんな風に感じさせているんですよ」ということを専門の人がきちっと伝え、そのうえで親は子どもとどう関わっていけばいいかとか、親の意識を変えていくような働きかけをしている。
そういったプログラムやカウンセリングを受けて、きちっと取決めをしないと、離婚はできないことになっているんです。「親としての重い責任」という部分がありますから。
そもそも欧米の国々は、協議離婚を認めず、全部裁判離婚です。お子さんもいなくて、財産争いもない人たちは、簡単に離婚できますけれど、お子さんがいる場合には、きちっとお子さんのためになる取決めをして、養育プランのようなものをつくらないと離婚できないことになっています。そこはやっぱり、日本と大きく違いますよね。
――日本では子どもがいても、すぐ離婚できますね。
日本は9割弱くらいが協議離婚ですからね。離婚届に当人たちが署名をして、未成年の子がいる場合は「親権者は誰」ということさえ書けば、簡単に受理されてしまいます。「世界でいちばん簡単な離婚」ですけれど、「世界でいちばん無責任な離婚」でもあります(苦笑)。
いま、離婚のうち未成年のお子さんがいるものは約6割です。2015年でいうと、離婚件数が226,000件で、その58%くらいに未成年のお子さんがいて、約22、23万人のお子さんたちが親の離婚に巻き込まれています。
そのなかで、養育費や面会交流について取り決めをしている割合は、法務省の数字(離婚届のチェック欄)で見ると62%くらいです(2015年)。民法改正後、比率は上がっていますが、そこでどんな内容が取り決められ、どれぐらい守られているか、ということまではわかりません。「全国母子世帯等調査」(最新が2012年)だと、すごく低い状況ですよね。
だからやはり、もう少し公的な機関が関与して、どんな取決めをしたらいいか、どういう風に取決めを守ったらいいか、といったことを支援していく必要があると思うんです。
そういう意味では、「親子断絶防止法案」(超党派の国会議員らによる議員立法)は、国や自治体、親にも責任を課し、また財政的な措置も一応定めていますから、それ自体に全く反対、というわけではないんです。ただ、面会交流などにちょっと偏っているところがあるので、もう少しバランスを取る必要があるでしょうね。
――親子断絶防止法案は、よく「全ての離婚家庭に面会交流を強制するものだ」といわれますね。最初の非公開の案は知りませんが、その後の修正案はいわゆる「理念法」です。でも原文を自分の目で確認せず「強制的だ」という話を鵜呑みにしている人が多いので、そこは誤解を解く必要があるのではないかと思います。とはいえやはり、もっと内容のバランスをとれるとよいですね。
そうですね。監護親、同居親に義務を課していたり、継続的な関係だけが非常に重視されているところがあるので、もっとお子さんの養育全体をトータルに支援をする、というスタンスが大事なのかなと思います。
(弁護士ドットコムニュース)