2017年05月27日 10:13 弁護士ドットコム
誰もがSNSのアカウントを持っていることが当たり前の時代となった。しかし、いつしか他者とのコミュニケーションや、日々の何気ない出来事を発信することに夢中になり、ルールやリスクは忘れがちになる。
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好きな芸能人の写真をアイコンに用い、面白かった新聞や雑誌の記事を撮影してアップ。行きつけのお店や子供の顔写真を公開ーー。これらの行為には危険が潜んでいる。SNSにおける、何気なくやりがちな振る舞いについて法的な問題はないのか、IT法務に詳しい深澤諭史弁護士に聞いた。(ライター・高橋ユキ)
――ツイッターなど匿名でも利用できるサービスを利用していると、アイコンに、芸能人の写真や、漫画のコマなど、他人の著作物を使っている方が結構いますが、実際オッケーなのでしょうか。
「芸能人の写真や漫画のコマは、著作権で保護された他者の著作物ですし、基本的にダメな行為ですね。著作物とは『思想感情を創作的に表現したもの』と定義されていますが、『工夫して創造したもの』は基本的に著作権の対象になります。そのため、これらをアイコンにすることは複製権や公衆送信権、肖像権の侵害、またその芸能人や漫画キャラクターが本来しない発言内容をすれば、態様によっては、人格権、もしくは著作者人格権の侵害にもなり得ます」
また芸能人の写真を使うことは、肖像権侵害にもあたり得る行為です。
――芸能人の写真は、撮影した人の著作物であり、芸能人自体が肖像権という権利を有しているのですね。
「そうです。そのため、アイコン写真に勝手に使われた芸能人が、肖像権を主張して賠償責任を問うことも可能です。また、プライベートな時間を過ごしている芸能人にたまたま遭遇して、その写真を撮影してSNSにアップする行為も、プライバシー侵害や名誉権の侵害だと訴えられるリスクを孕んでいます。
――新聞や雑誌記事の内容が鮮明にわかるような写真をアップする行為もよく見かけます。
「『今日は晴れています』とか、『今日は総理がこう答弁しました』とかいった情報には著作権はありません。ただし、新聞や雑誌の場合はその情報だけではなく、それについて識者はこう思ったとか、編集を加えるなどして、創造性が加わっていますので、これを無断で公開してしまうのは著作権侵害になります」
――裁判などになった場合には、どのような責任に問われるのでしょうか。
「これまでSNSのアイコンに勝手に使われたとして、著作権法違反で捕まったケースを私は見たことがありません。しかし、今までにないだけであって、これからは分からない。リスクのある行為は、基本はやめたほうがいいでしょう。
著作権侵害は、刑事事件になる可能性も民事事件になる可能性もあります。意外に思う人もいるかもしれませんが、刑法ですと著作権侵害は窃盗罪よりも重い罪です。たとえば窃盗罪は『10年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金』と定められていますが、著作権法違反は、『10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金もしくは両方』とされています。
また民事では、著作権侵害に基づく損害賠償や差し止めを請求されるリスクがあります」
――芸能人写真のアイコン化や、新聞記事のアップは法的にはアウトなのだとわかりました。でも、SNSではありふれた光景です。なぜ野放しになってしまっているのでしょうか。
「実際に逮捕されたり、裁判になったりする事例が少ないからではないでしょうか。ネット上の違法行為の問題点として、こうした行為をした人物を特定するのが非常に困難なことがあげられます。
通常、インターネットにおける発信者を特定するためには、まず発信者情報開示請求をしてIPアドレスを開示してもらい、次にそのIPアドレスからプロバイダに対してもう一度開示請求を行う。こうして本人を特定してようやく、プライバシー侵害や肖像権侵害としての賠償請求を行う流れになります。
例えばこれが週刊誌を訴えるのだとしたら、週刊誌を発行した出版社は確定していますので、裁判は一度だけで済みます。
しかし、ネットに自分の名誉権を侵害されるようなことを書かれた場合、裁判を何度もやらなければならず、しかも全部勝たないと本人を訴えることすらできない。しかし、この問題については、裁判所もようやく認識し始めたのかなと感じています。実際に、日々、裁判所の判断傾向の変化も感じています」
――著作権の問題ではないですが、SNSで自分の子供の写真を公開している人も多く見かけます。法的には問題ないのでしょうか。
「あくまで私見ですが、基本的に人の顔や姿は肖像権で保護されているので、みだりに撮られたり公開したりすることは原則としてNGだと考えています。肖像権は著名人であっても、一般人であっても変わりありません。
難しいのが、自分の子どもの場合ですね。未成年者の場合には、親が代理人になれるので、その代理人である親が同意をしている、というふうに考えることもできます。そのため、子どもの頃には同意したとみなしていた場合でも、『嫌だ』と子が意思表示をした時点で、それ以上の公開を控えるようにすることが適切かと思います。
数年前にはオーストリアで、両親がSNSに投稿した写真の削除を求め、18歳の娘が両親を訴えたニュースが報じられました。両親は娘のオムツ交換やトイレトレーニングの様子など半裸の写真をSNSにアップし、娘は削除するよう何度も両親にそれを求めたものの、両親が応じなかったために裁判になったようです。
また私は、著作権以外の安全性の観点からも、お子さんの写真を出すのは避けた方が良いと思います。一般の方もいつ有名になるか分からないですし、ネットに公開すれば、そのまま残り続け、どのように使われるかわからないリスクがあるからです。
――私も安全性については気になっていました。お店など自分の生活圏がわかる写真を多々アップしたりする行為が目につきます。
「特に女性の方は、勝手に好意を持たれてストーカー化する人が出てくる危険があります。ネットの付き合いはバーチャルで薄いとも言われがちですが、逆に濃いと感じる人もいます。その結果、濃密な付き合いをしているという勘違いや、すれ違いが生じて、知らないうちに相手を怒らせてしまったりもする。ネットがストーカーの端緒になったり、あるいはネットを使ってストーカーをする人もいます。
私はストーカー加害者からの依頼もよく受けるのですが、基本的にストーカーというのは自分のことをストーカーと思っていません。単に情報収集だとか話し合いだとか思いを伝えようとしているだけだと思っています」
――友達と繋がるためのツールとして個人的に楽しんでいるつもりであっても、ストーカーに狙われたら、自分の投稿が相手にとって、自分の個人情報を特定する手がかりになってしまうのですね。
「断片的な情報から人を特定することを『モザイクアプローチ』といいますが、特にネットの世界でやりやすいんです。たとえば、『雨が降っています』と投稿すると、この日に雨が降っている地域で特定ができる。今日は『この店のセールに行きました』と投稿すると、あそこが生活圏なんだな、と分かりますよね。
写真をアップするとストリートビューなどを手掛かりに、さらに絞られていきます。ひとつの投稿だけでは個人は特定できないですが、それまでのその人の投稿を洗い出していくと絞れていく。積み重ねになるというのが特徴です。
ストーカーはターゲットの情報を集めることに快感を覚えます。たくさん情報を集めることで、その人が自分の中にいるんだという錯覚をする。それをやっているうちに、そういう傾向がさらに進んでいってしまう。親しみや支配感を感じていくんです。個人情報が特定される可能性のある投稿はやめたほうがいいですね」
【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(高橋ユキ/徳間書店)など。好きな食べ物は氷。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
深澤 諭史(ふかざわ・さとし)弁護士
2010年弁護士登録。システム開発紛争,インターネット上の取引トラブル,インターネット上の誹謗中傷・風評被害対策などに力を入れている。
事務所名:服部啓法律事務所
事務所URL:http://hklaw.jp/