ホンダが2018年からマクラーレンだけでなく、ザウバーへもパワーユニットを供給することは、4月末のF1ロシアGPで発表された。しかし、このときの発表はリリースのみで、ホンダは公式な会見は開かなかったため、いくつか不明な点が残っていた。
ヨーロッパGPの開幕戦となったスペインGPで、ホンダの森山 克英(ブランド・コミュニケーション本部長)と山本雅史(モータースポーツ部長)が会見を開いたので、尋ねてみた。
まず、ギヤボックスに関してだ。ロシアGPでの発表ではアナウンスされなかっただけでなく、ホンダ、ザウバーとも「ノーコメント」とまったく触れようともしなかった。噂ではマクラーレンが供給することになっているが、それならばなぜ発表できないのか。
山本部長は「ギヤボックスですが、マクラーレン、ザウバー、ホンダが積極的にギヤボックスの話をしないのは、まだどこの何を使うか煮えきっていないからです」という。
ただし、「われわれが4台にパワーユニットを供給するメリットには、より多くのデータが取るということがあるので、そのためには4台とも同じものを使わないといけません」と語る。
そうなると、現在自社製のギヤボックスを使用しているマクラーレンがザウバー製、ホンダ製を使用することは考えにくいことから、自ずと答えはマクラーレン製ギヤボックスということになる。ならば、なぜ3社ともギヤボックスの話題になると、口が硬くなるのか。
「それは技術的な問題ではなく、政治的な背景があって、話が複雑になったんです。いろんな意味の交渉がギヤボックスに絡んでいたので……」
■ザウバーとの契約はパワーユニット供給だけ?
もうひとつは、ザウバーとの契約は単にパワーユニット供給だけなのかという点だ。というのも、今回の契約にあたり、ザウバーはモニシャ・カルテンボーン代表、テクニカルディレクターのヨルグ・ザンダーをはじめ、数名のエンジニアが栃木県さくら市にある研究所『HRD Sakura』を訪れているからだ。単なるカスタマーチームがエンジンメーカーの本丸に入ることは異例中の異例だ。
この点について、山本部長は「ザウバーの施設でホンダのクルマの開発を手伝うとカルテンボーン代表は言っています」と、より踏み込んだ関係を築こうとしていることを認めた。ただし、それはF1以外の分野での話だ。
「例えば、ザウバーのファクトリーで日本のGTレース用の部品を作る可能性もあるということです。ホンダもHRD Sakuraに100%の風洞があり、GTマシンの空力をやっているんですが、ザウバーの施設を使ってみてはどうかということです。具体的な話はこれからです」
■日本人ドライバーの可能性
最後に、日本人ドライバーの可能性だ。山本部長は、ホンダの若手ドライバー育成にも大きく携わっているからだ。
「カルテンボーン代表とは、『良いドライバーがいれば使いましょう』という形で話をしているところです。夏が過ぎて話し合いをすることになっています。ただし、われわれは日本人にはこだわらないし、ゴリ押しもしない。国籍を問わず、いいドライバーがいれば、ホンダは推します。(MotoGPの)マルク(・マルケス)もほかに乗っていたライダーだったのをホンダに乗せてチャンピオンになったわけですから。ただホンダは提案するだけで、あくまで決めるのはザウバーです」
ホンダが育成している日本人ドライバーで、来年F1マシンに乗るために必要なスーパーライセンスを獲得できるのは、現在ヨーロッパでレースをしているF2の松下信治と、ユーロF3に参戦している牧野任祐の2人だが、じつはWECに参戦しているトヨタの小林可夢偉、中嶋一貴にも可能性はある。
「彼らが再び、(F1に)乗るというのはどうなんですかね。日本人が乗れば、日本は盛り上がるんでしょうが……。また、現在国内でレースしている中から、いきなりF1というのも私の中ではない。先日、モンツァでユーロF3を見ましたが、『これが世界なんだ』と感動しました。そういう意味では、牧野は大変だろうけど、いいカテゴリーにいると思っています」