F1第6戦モナコGPの水曜FIA会見の主役はもちろん、このモナコで1戦限りの現役復帰を果たすことになったジェンソン・バトンでした。
第1部のセンターに登場した彼の一挙手一投足を捉えようとカメラの砲列が待ち構え、ただでさえ狭いモナコの記者会見場は全く身動きが取れなくなるほどの人数に。
実際、あまりの人垣で前が見えず、会場後方のミキサー担当スタッフは壇上が見えなくてどのマイクのフェーダーを上げて良いのか分からないため、椅子の上に立って前の様子を伺いながら器用に操作していたほどです。
冒頭で司会者から事前の準備について質問されたバトンは、努めて笑顔で語りました。
「準備は上手くできたけど、実車には乗っていないから完璧とは言えない。バーレーンで半日テストをするという選択肢もあったけど、全く特性の異なる場所で走っても意味がないと思ったんだ。それよりもシミュレーターで何日か走る方が効果的だろうって僕がチームに言ったんだ。そうはいっても同じレーシングカーであることに違いはないし、ちょっと幅広になったのに慣れるだけだよ。どれだけワイドになっても座る位置は同じ真ん中だしね」
一通り質疑が終わり新人エステバン・オコンが話す番になると、バトンは隣のニコ・ヒュルケンベルグと雑談。彼が笑顔を見せるたびにカメラのシャッター音が鳴り響き、バトンへの注目度の高さが伝わって来ます。
1戦限りの復帰について、「プレッシャーは全く感じていないし、リラックスしているよ。クルマに乗ってやれるだけのことをやるだけ。もちろんすごくワクワクしている」と語るバトンは、自分がやりたいと思ったからチームからのオファーに「イエス」と返事をしたのであって、プレッシャーをかけられて無理矢理に出場するわけではないとも語りました。
「犬に聞いたら『1週間くらいご主人様がいなくてもなんとかなるよ』って言うし、ガールフレンドも『やるべきことをやりなさい』っていうし、僕自身の決断としてイエスと答えたんだ。イヤならノーと答えることもできたけどね」
F1から遠ざかった生活を楽しんでいたというバトンですが、時折愛犬の話を挟むあたり、すっかり犬とともに暮らす生活の楽しさにはまってしまったという感じでしょうか?
「F1の外の生活はとてもクールだったよ。F1とは大きく違っていた。世界中を飛び回るのではなくひとつの場所で長く過ごすことができるしね。でも自分の情熱であるトライアスロンのためにものすごくハードにトレーニングをしていたし、忙しさで言えば今まで以上だった。犬の(散歩の途中で)フンを拾ったりもしなきゃいけなかったしね(笑)」
すでにシミュレーターで2017年型マシンのフィーリングを確認してきたというバトンは、一部で「モナコGPに大きなアップデートが入る」と語ったと報じられましたが、これはコメントを誤解された誤報だったと断じました。
「スペインの予選ではマシンは上手く機能しているようだったし、僕もそのアップグレード内容をシミュレーターで試して進歩を確認した。誤報されたけど、僕が言ったのはそういう意味だったんだ。もちろん今週もいくつかはアップデートがあるけど、上手くいけば僕らはそれなりにコンペティティブだと思うよ」
そんな第1部の出席者3人に「モナコで一番好きなコーナーは?」という質問が投げかけられ、バトンは「タバコやカンジノ入口」と高速コーナーを挙げ、ヒュルケンベルグも「プールサイドシケインとか」と同じように高速セクションを。するとまだモナコを実際に走ったことが一度もない新人オコンは、臆面もなくこう語ります。
「スイミングプールの入口と、その後の右~左のコーナー。名前はよく知らなかったんだけどね、僕はまだ新人だから(苦笑)。ここを走るのは初めてだけど、シミュレーターでは何度も走ったし、子供の頃からゲームで数え切れないほどプレイしてきたから、知らないサーキットという感じはしないよ」
モナコ優勝経験もあり17年もモナコに住んでいるバトンが一戦限りの復帰を果たすかと思えば、一度も走ったことのないオコンが自信満々で挑戦。
そんな対照的な2人の戦いを、おそらくはかなりハイレベルな次元で見ることができるのもF1の面白さなのだと、意外なことに気付かされたモナコGP水曜会見だったのでした。