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ゲスの極み乙女。の新たなスリルと興奮ーー活動再開を祝うワンマンライブを観た

2017年05月23日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

ゲスの極み乙女。

 5月10日、活動を休止していたゲスの極み乙女。が、Zepp Tokyoにておよそ5カ月ぶりのライブを開催した。


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 当日は昨年12月より発売延期となっていたアルバム『達磨林檎』のリリース日でもある。会場には、現地でアルバムを購入しくじ引きで当選したファン2500人が集まり、収録曲「心地艶やかに」「某東京」「シアワセ林檎」を含む全15曲を披露した。


 開演時間が過ぎると、紗幕が降りたステージにメンバーのシルエットが映り、ほな・いこか(Dr)→休日課長(Ba)→ちゃんMARI(Key)→川谷絵音(Vo・Gt)の順で各楽器の音を重ねていき、1曲目「パラレルスペック」のイントロへと流れ込む。メジャーデビュー作『みんなノーマル』に収録されたこの曲は、各楽器の響きを活かしたAメロ~Bメロから、サビでは一気にそれぞれの音が絡み合い、キャッチーなメロディが展開されていくゲスの極み乙女。の真骨頂とも言える楽曲。ひとりひとりの音がその個性を主張させながら並走していくスリルと、それがひとつになった時の興奮がある。印象的なメロディで観客を引き込むちゃんMARIの鍵盤が冴え渡った「私以外私じゃないの」、課長が低い位置を動き回るベースラインを弾く「星降る夜に花束を」、いこかが豪快かつ硬質なドラミングを響かせた「サイデンティティ」。ふたりのコーラス隊も含め、誰もが主役を張れるスキルと存在感を持つことが、ゲスの極み乙女。が持つオリジナリティの源なのだろう。


 新曲「心地艶やかに」では、ちゃんMARIがアコースティックギター、課長がシンセサイザーを弾き、音もこれまで以上に色彩豊かに。川谷もファルセットを使って、曲の世界を盛り立てていく。「ロマンスがありあまる」を挟み、再び新曲「某東京」へ。川谷のエキセントリックで矢継ぎ早なスポークンワーズやシャウト、そしてコーラス隊ふたりの巻き舌と、声/歌の技巧によってスピーディに展開していくさまは圧巻。また、ジャズやクラシックの要素も感じられた「シアワセ林檎」では、いこかがドラムセットから離れてフロントに登場。そのまま川谷とデュエットし、色気のある歌声を聴かせた。そしてその間にはindigo la Endの佐藤栄太郎(Dr)がいこかの代わりにドラムを叩くというサプライズもあり、観客からは大歓声があがった。『達磨林檎』はポップなだけではない、どことなくアンニュイでセンチメントな空気も感じられる作品。『魅力がすごいよ』『両成敗』という2枚のアルバムで培われた、ゲスの極み乙女。のイメージを自ら刷新していくような新しさを提示し、バンドや各メンバーのパートにこだわらずに刺激的な音楽を模索する、意欲的な楽曲が揃っている。


 ライブ終盤は、いこかの“ゲスの4カ条”を唱える「ホワイトワルツ」からスタート。「ドレスを脱げ」「キラーボール」など、インディーズ期からの楽曲であり、ライブで鉄板の盛り上がりを作る曲を立て続けに演奏。振り付けやコール&レスポンスなどのお決まりの展開があり、さらに4人のキャラクターや和気藹々とした雰囲気も、ゲスの極み乙女。のライブの楽しみのひとつ。しかし、やはりその真ん中にあるのは音楽であり、その芯はぶれることがない。


 アンコールでは、メロディアスな「ルミリー」「ユレルカレル」を披露。そしてラストナンバーは「crying march」だ。オーディエンスのハンドクラップが響くなか、ギターとシンセの音が絡み合う。間奏では川谷のギターソロとちゃんMARIの鍵盤のソロもあり、急き立てられるようなスピード感でラストまで駆け抜けた。演奏が終わると、『達磨林檎』のビジュアルイメージに使用された達磨の片目に4人がひとりひとり目を書き入れ、バンドの再スタートを祝った。最後に川谷が「まだ帰らないでね」と言い残してステージを去ると、ステージ上のスクリーンで、全国ツアー『丸三角ゲス』の開催を発表。このツアーでは、全国8カ所9公演をまわり、ファイナルは東京・日比谷野音にて行われる。


 今年1月には川谷が楽曲制作を行っているDADARAYも始動し、5月6月と2カ月連続でミニアルバムを発売、indigo la Endも7月にアルバムをリリースすることが決定している。川谷絵音は、今後3バンドを同時に動かしていくということだ。自分たちのスタイルとオリジナリティをひたすらに追求し、これほどスリルや興奮がある刺激的な楽曲を生み出してきたゲスの極み乙女。。彼らが活動を再開し、ここからまたそんな楽曲に出会えることが、純粋に嬉しく思う。(取材・文=若田悠希)