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劇場公開されない作品には受賞価値なし? カンヌ国際映画祭“Netflix論争”当事者たちの見解

2017年05月23日 16:03  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)Bronx (Paris). Photo: Claudia Cardinale (c)Archivio Cameraphoto Epoche/Getty Images

 ハリウッドで「インターネット配信 vs 劇場公開」の闘いが話題となっていた中、今度はカンヌ国際映画祭でこの問題に焦点が当てられることとなった。


参考:ハリウッド、最新映画の配信サービスに賛否 ノーラン監督「劇場での上映形態にしか興味がない」


 劇場公開と同時にPVOD配信(課金により、インターネットを通じて観たいコンテンツを一定期間視聴できるサービス)での鑑賞が可能となる新たなサービス“スクリーニング・ルーム”に、クリストファー・ノーランをはじめとした著名監督は否定的な構えを見せていた。しかし、今回話題となっているのは劇場公開すら行われず、Netflixでのストリーミング配信を前提とした映画がカンヌ国際映画祭で賞レースに参加する意義に、審査員長のペドロ・アルモドバル監督が疑問を示したことである。


 現在開催中のカンヌ国際映画祭には、Netflixが出資した2本の映画、『オクジャ/okja』と『The Meyerowitz Stories(原題)』が最高賞の“パルムドール”を競うコンペティション部門に初めて出品されている。自身もこの映画祭で4つの賞を受賞し、ノミネートされた作品は数知れずのアルモドバル監督は、「私がオープンな考えを持っていないとか、新しいテクノロジーや可能性に寛容ではないとか、そういうことではない。しかし、私が生きている限りは新しい世代が気が付いていないことーー映画は大画面で観るのが前提だという考えを曲げるつもりはない」と表明した。さらに、「大画面で観られない映画にパルムドールを含む賞が与えられるのは想像できない」とも。すでにカンヌ国際映画祭は、映画祭の開催地であるフランス国内において劇場公開されない作品については、来年からコンペティション部門への参加を認めないとルールを変更しており、アルモドバル監督はこれに賛同している。


 審査員長の意見は絶大だ。しかし、審査員団の1人、ウィル・スミスは自分の子どもたちを例に出し、Netflixを擁護する立場へと回った。というのも、スミスは今年、ストリーミング配信のみの形を取るNetflixの主演映画『Bright(原題)』の公開を控える身だからだ。劇場で観る映画と、Netflixで観る映画は「2つのエンターテインメントのフォーム(形)」であり、「うちの子どもたちはNetflixで配信されていなければ観ることもなかった映画を観るチャンスを得ている。Netflixにメリットしか感じない」と反論した。


 気になるのは、突如アルモドバル監督にやり玉に挙げられた前出の2作品の評価だ。ポン・ジュノ監督作、ティルダ・スウィントンが主演した『オクジャ/Okja』は、“オクジャ”と名付けられた心優しい巨大生物が欲深い企業に連れ去られ、“オクジャ”と共に育ってきた親友の少女が救出に奮闘するという物語。まずは上映開始から数分後に“技術的な理由”で一時上映が中断される騒ぎとなり、ブーイングを浴びることに。上映は約10分後に再開したが、アルモドバル監督のコメントの影響力か、Netflixのロゴが画面に表示されると再びブーイングが起きた。上映後、映画祭側が「非は自分たちにある」と認め、観客や監督、キャストらに謝罪。ジュノ監督はこの“事件”に対し、「オープニングを2回観てもらうことになって良かった。あそこには様々な情報やストーリーの要素が詰まっているからね」と前向きに語り、「アルモドバル監督がこの映画を観てくれるってことがうれしいよ。彼は何だって言える。僕は別に気にしないさ」と笑った。以前審査員を務めた経験のあるスウィントンは、「この映画祭では、人々が劇場で観ないような映画が多く上映されている。私たちは賞を獲るためにここに来ているわけではない。カンヌ国際映画祭でこの映画を観てもらうために来ているの」と持論を述べている。「The Wrap」によれば、冒頭の“事件”でブーイングが起きたものの、上映後は打って変わって高評価を得たという。『オクジャ/Okja』はフランスでは劇場公開されないが、6月29日から全世界配信と共に韓国での劇場公開が決定している。アメリカなどでも地域限定でいずれ劇場公開されるとのことだ。


 もう1つの作品、ノア・バームバック監督の『The Meyerowitz Stories(原題)』は、主演のアダム・サンドラーの演技が注目を集めた。それぞれがフラストレーションを抱える複雑な家庭の中で、サンドラーはダスティン・ホフマン演じる“自分は天才だと思っているのに誰にも認めてもらえない芸術家”の息子を熱演している。彼の得意な“負け犬”の役で再び実力を見せつけた。『パンチドランク・ラブ』以来15年ぶりとなる会心の演技に、スタンディング・オベーションが4分間鳴り止まなかったそうだ。近年Netflixと契約を結び、3本の主演作を製作していたサンドラーだが、そのうちの1本、『The Ridiculous 6(原題)』は、映画批評家による批評サイト「ロッテン・トマト」で非常に稀な“0%”(ポジティブな批評の総計)の評価を受け、主演俳優としては低迷していた。思いがけない当たり役に批評家たちも「認めたくないが、冗談ではない。彼の演技は最高だった」と感動しきり。この作品の配信時期は明らかになっていない。


 そもそもの当事者であるNetflixの最高コンテンツ責任者テッド・サランドスは、『Variety』誌の取材で、ルールが変わる来年のカンヌ国際映画祭に再び出品するかと問われたところ、難色を示した。賞レースから外れる部門への出品は「興味を引かれないし、世界の他の映画祭に対する戦略も変わってきてしまう…」という。Netflix作品は、今までにヴェネツィア、トロントなどのメジャーな映画祭に出品してきた。「私たちの映画やフィルムメーカーに、配給方法が原因で締め出されてしまうことは望んでいない」と困惑するのも当然かもしれない。また、フランスでは法律に基づいた劇場公開から3年経たないとストリーミング配信ができないという厳しい制約も、カンヌ国際映画祭からNetflixを遠ざける要因の1つになるだろう。「カンヌはスキャンダルが好きだから! これは『Netflix論争』って呼ばれているんだよ」とサンドロスはジョークを放った。おそらくNetflixにとって今年が最初で最後になるカンヌ国際映画祭。2作品のいずれかがパルムドールを受賞する可能性はゼロか…?(賀来比呂美)