JAF-GT優位なコースで展開されたさまざまなドラマ。GT300はどんなチームにもそれぞれのドラマがあり、実に興味深い。 コース各所で激しい戦いが展開されてきたスーパーGT第3戦オートポリス。GT300クラスはVivaC 86 MCとSUBARU BRZ R&D SPORTのマッチレースの印象があったが、上位フィニッシュした4台にも、それぞれのドラマ、そして次に繋がる手ごたえがあった。
■『プラス2秒』が生んだ0.091秒差の逃げ切り──VivaC 86 MC
前日のこのコーナーで、オートポリスで好結果を残すためには「ドライバーとクルマと、タイヤとすべてが揃わなければならない」ことは述べた。今回、トップで逃げ切ったVivaC 86 MCは、まさにすべての要素がかみ合い、さらにトラブルへの不断の対策が生んだ結果だったと言えるだろう。序盤から逃げを打った山下健太のVivaC 86 MCでのフル参戦1年目とは思えぬ走り、そして最後の松井孝允の走りも、その実情を聞くと圧巻だ。
松井のレース後のコメントには「トラブルがあり井口卓人選手が迫ってきていることは分かっていたので、残り周回とクルマのコンディションを考えながら走っていました」とあるが、実はこのトラブルは、土屋武士監督によれば燃料を吸い上げるリフトポンプのトラブルだったという。
リフトポンプは燃料タンクの四隅にあり、そこからコレクターポンプに燃料を送るものだが、その片側1系統が停止していたのが原因だ。実は富士でも同じトラブルがあり、短いインターバルのなかでさまざまな対策を施したというが、またもそれが出た。このオートポリスは高いGがかかるサーキットである上に、VivaC 86 MCは2年前の参戦初年度、レースでは14周でストップ。フルでレースを走れていない。今回もトラブルが出るかは分からなかった。
土屋は不安を消すために、ピットストップの際に燃料を「2秒多く入れた」のだという。燃料が多ければ、わずかでもトラブルの症状は緩和される。しかし終盤、やはりトラブルは出た。ファイナルラップで松井は「アクセル全開」で2位のSUBARU BRZ R&D SPORTに追いつかれていたというのだ。もしいつもどおりの給油だったら、トラブルが早く出ていたかもしれない。
「その結果が0.091秒差。不安を消すためにすべてやった結果が繋がった。それにドライバーふたりがいなければ、この結果はなかった」。土屋はこう教えてくれた。
そして、今回のオートポリスにはもうひとつVivaC 86 MCにはドラマがあった。そちらは5月26日発売のオートスポーツNo.1457でぜひご一読いただきたい。
■『悔しさはあるが、価値ある2位』──SUBARU BRZ R&D SPORT
2位に入ったSUBARU BRZ R&D SPORTは、勝てなかった悔しさもありながらも、「次に繋がる2位」だったようだ。
チームを率いる辰巳英治総監督によれば、今回のSUBARU BRZ R&D SPORTの躍進はJAF-GTが得意な部分もありつつも、「岡山ではトラブル、そして富士ではまだまだクルマを我々の手元でコントロールできていなかった分、速くなかった。それを対策して乗り込んだ今回は、機能したんだと思う」という。
「ただそこで2位だったということは、我々にまだ課題があるということ。今年まだノーポイントで、初ポイントで2位だったのは良かったですが、課題を見いだせたことで、価値ある2位だったと思います」
これについては、ドライバーふたりも同感だ。スタートドライバーを務めた山内英輝は、序盤の数周がVivaC 86 MCの前に出るチャンスだとみて、スタートから猛プッシュをみせた。「スタートで前に出られたら良かったんですが、向こうも行かせてはくれなかった。抜くまでには至りませんでしたね」と山内。
「悔しい気持ちもありますけど、現状で良いレースはできましたし、次に活かせるレースだったと思います」
また、地元九州でのレースで気合が入っていた井口も「正直、終盤はこちらもいっぱいいっぱいで、抜くまでの余力はなかったです」という。
「去年は九州では開催されませんでしたし、以前にはドライブシャフトが折れてリタイアというのもあったので、最近九州のファンの皆さんの前でいいところが見せられていなかった。今回皆さんの前でいいレースができましたし、今後SUGOや鈴鹿に繋がるレースができたと思います」
「25号車はぶっちぎりでJAF-GT勢のなかで速くて、僕たちはスピードでは負けていた。でも今回はレースで同じようなペースでも走れているときもあったし、レベルアップもしていると思います」
■特性を活かし、次に繋がる結果──ARTA BMW M6 GT3&Studie BMW M6
また、今回SUBARU BRZ R&D SPORTと同様に次に繋がるレースをみせたのがBMW M6 GT3勢だ。予選でもStudie BMW M6の荒聖治が「Z4 GT3で走ったここのフィーリングも良かったんですが、それよりも気持ちいい」と語ったとおり、3位のARTA BMW M6 GT3、4位のStudie BMW M6と、上位フィニッシュを果たしている。
素晴らしいレース運びをみせたのはARTA BMW M6 GT3。序盤から高木真一が3番手につけ、2台のJAF-GTを追ったが、ここでARTA BMW M6 GT3はピットインで『左側2輪交換』という作戦に出る。モニターや映像には映っていなかったが、これでVivaC 86 MC、SUBARU BRZ R&D SPORTの前に出ることに成功したのだ。
「ここはJAF-GTが速いのは分かっていて、そんな中で予選も4番手、決勝のペースも良かったので、タイヤ無交換とか色々と作戦を考えていた」というのは高木だ。
また、ステアリングを受け継いだショーン・ウォーキンショーも、初のオートポリスとは思えぬ速さをみせた。最終的には2台に抜かれてしまうが、ARTAの土屋圭市アドバイザーも「ショーンも初めてのサーキットで、レース前は30周くらいしか走ってないのによく頑張ったと思う」と褒めている。ウォーキンショーはこれまでGT300の戦いに苦戦していた部分はあったが、今回その実力を示したことで、今後の自信にも繋がるだろう。
そしてここまで、M6 GT3導入以降なかなか思うような結果を残せていなかったStudie BMW M6も、表彰台こそ届かなかったものの、4位という結果を残した。SUBARU BRZ R&D SPORT同様、次に繋がる結果だったのは間違いなさそうだ。
「やっと戦えるようになってきましたね。BoPもそうですし、僕たちのセッティングや、ヨコハマさんが用意してくれたタイヤもそうで、手ごたえのある一戦になりました」と荒。
「今の印象ではSUGOも良いかもしれませんし、鈴鹿もオートポリスとは特性が近いので、クルマの良さをしっかり出したいですね」
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今季の開幕2戦はメルセデスベンツAMG GT3、そしてJAF-GT勢、ポルシェ勢といったところが速さをみせてきたが、今後はさらに、今回上位に食い込んだマシンたちも争いに絡んでくることが予想される。新車導入2年目を迎えたGT3勢が速さを増し、ますますGT300は混迷の度合いと、それぞれのドラマを作ってくれそうな予感だ。シリーズ中盤戦以降も、目が離せない。