今後ますます貧しい高齢者が増えそうだ。18年後の2035年には、高齢者世帯の約3割にあたる562万世帯で収入が生活保護の水準を下回り、貯金も不足する恐れがあるという。日本総合研究所が、5月17日に発表した「生活困窮高齢者の経済的安定に向けた課題」で論じた。
それによると、562万世帯のうち394万世帯は収入が生活保護の水準未満で、貯金が600万円に満たない「生活困窮高齢者世帯」。生活に足りない分を貯金でやりくりしているうちに残高が不足し、困窮する可能性が高い。
残りの167万世帯は「生活困窮予備軍」だ。収入が生活保護の水準を下回るが、600~900万円の貯金がある世帯などがここに含まれる。病気で入院したり、平均寿命よりも長生きするといった「不測の事態」に見舞われると、貯金が足りなくなって「困窮世帯」に転落する恐れがある。
1950年代~1960年代生まれは「老後生活に必要な資金を十分に蓄積できていない」
2012年時点で、高齢者の「困窮世帯」と「予備軍」は合わせて412万世帯に上り、高齢者世帯全体(約1700万世帯)の4分の1を占めている。両者ともに、今後ますます増加する見込みだ。
貧しい高齢者が増えるのは、若いときに老後に必要な資金を蓄えられない人が増えているからだという。特に1950年代~1960年代生まれの世代では、老後の準備がままならなかった人が多いとする。
「(この世代では)バブル経済崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショックといった経済危機の度に非正規雇用率が上昇した。これらの世代では、その後の景気低迷の下、雇用機会や賃金上昇が限定的であったため、年金を含め、老後生活に必要な資金を十分に蓄積できていない可能性が高い」
1950年代~60年代より後に生まれた世代はより悪い状況に置かれる恐れがある。
「職務経験の少ない時期や中堅期にバブル経済崩壊、アジア通貨・金融危機、IT不況、リーマンショックによる不況を経験した1950年代および1960年代生まれや、就職氷河期の団塊ジュニア(1970年代前半生まれ)、平成生まれは、若いころから非正規雇用率が前世代と比べ高い」
非正規雇用率が上がると、年金の納付ができず、将来無年金や低年金となる人が増える。こうした人たちは十分な貯金もできず、貧しい老後を強いられる可能性が高い。
一方、団塊の世代は不況の影響をあまり受けることなく、「資産形成に成功した」という。いわば逃げ切り世代だ。レポートでは次のように説明している。
「高度経済成長末からバブル経済時期を経験しているうえに、1990年代にはその多くが一定の役職者や管理者であったことなどから、世代全体に占める生活困窮世帯の割合は低く、経済危機の影響が小さかったといえる」
就労支援で「生涯現役社会」「一億総活躍社会」へ
これまで貧しい高齢者には、生活保護での支援がなされてきた。しかし財政が悪化し、これ以上保護世帯を増やすことは難しいのが現状だ。そのため、政府は「社会保障による救済(福祉)から、生活困窮者本人の就労による自立支援、地域での共助・互助」へと対策を転換した。
就労意欲を持つ高齢者が増えたことも、こうした転換を後押しする。高齢者に何歳まで働きたいか聞いたところ、「働けるうちはいつまでも」と答えた人が最も多かった。レポートでは、「就労意欲があり、かつ就労可能な高齢者に対しては、積極的に就労支援を行うこと」が必要だと説明。社会保障費を抑制し、人材不足を解消するためにも、「生涯現役社会」「一億総活躍社会」の実現を訴えている。