F1の新オーナーとなったリバティ・メディアはスペインGPでファン向けの企画を多く用意し、ピットレーン最後方には“11番目のチーム”も登場した。こうした取り組みによって、F1は大きな一歩を踏み出している。
“F1エクスペリエンス”と銘打ったアトラクションではメディアや著名人だけではなく、抽選で当選した少数の観客もミナルディの2シーターマシンを体験した。2005年にミナルディをレッドブルに売却して以降、ポール・ストッダートはこのマシンを走らせ続けている。
「これはF1をより身近で個人的なものとして感じるためのものだ。見て、触って、匂いを感じさせる。そして本当に運が良ければ、乗ることもできる」とストッダートは言う。
新たなプロジェクトの目的は、チームと同じ体験をすること。新たなアトラクションとして、ガレージでマノーのものだった機材を使用し、ピットストップのシミュレーションを行うというものがある。このアトラクションについて、ストッダートは以下のように説明している。
「これはまさしく去年のマノーの機材なので、現在のパドックに見合うものだ。ピットガントリーは100%いまと同じものになる。昨年のものや10年前のものなどではない。ガレージの中にあるものはすべて、いますぐにでも使えるものだ」
ストッダートにとって、スペインGPは時間との勝負だったという。オーストラリアGPでは通常のかたちで走行を行った2シーターマシンだが、当初リバティは、より正式なタイアップを計画していた。また、このアトラクションは10月のアメリカGPで初登場する予定となっていた。
しかし中国GPの金曜日、悪天候により走行時間が大幅に減ったことで批判を受けたF1は、この計画を前倒しにすることを決定。ストッダートはメルボルンから拠点のあるイギリスのレッドバリーへとマシンを戻す際、リバティが予定を早めた場合に備え、すでに輸送方法を船便から空輸へと変更していた。このため計画変更に対応することができたのだ。
「『できます』と返事をしてから『本当にできるだろうか?』と考えるような感じだった」とストッダートは振り返る。彼はイースターの週末(4月16日)、競売人からマノーの資産を早期に買い取る許可を得た。
チームのユニフォームをオーダーする際にも混乱が生じ、ディレイになった飛行機でようやくの発送となり、スタッフはパドック裏で試着をすることになった。さらには木曜日の大雨で電気的な問題が発生し、3セットのタイヤウォーマーが「溶けて」しまうという事件もあった。
モーターホームに関しても騒動があり、通常はプライベートジェット機の装飾に使う塗料を使い、マシンとモーターホームを塗り替えたという。ストッダートはこのときのことを、以下のように語っている。
「昨年の、オレンジとブルーのカラーリングのままだったので、大急ぎで塗装しなければならなかった。航空機用の大規模な塗装設備があったので、塗装のために入っていたボーイング737を追い出して、全スタッフを呼び入れた」
「航空機用の塗料があったが、これまでにどのモーターホームに使ったものよりも相当に高価なものだった。他の仕事に就いていたスタッフも呼び戻し、週末も夜も関係なしに作業した」
いまはない、ふたつの愛されたF1チームが次回にお目見えするのは、アメリカGPになる予定だ。