佐藤琢磨の戦歴を見てみると、予選でその速さが光る時がある。F1時代はBARホンダに乗り2004年のヨーロッパGPで日本人最高位の2位を獲得し、インディカーシリーズでも過去5回のポールポジションを獲得している。
このインディ500に限ると、予選最高位は2011年の10位が最高位。デビューイヤーの2010年は金曜日にウォールにヒットして、なんとか31位ギリギリでの通過だった。
いかにマシンを壊さずに最高の状態でプラクティスから予選を迎えるか。それが予選で好位置を獲得するための第一歩であることを身をもって学んだのだった。
琢磨がインディ500での好結果を望むからこそアンドレッティ・オートスポートを選んだ事は前にも書いた。
月曜日から順調にプラクティスを消化して行くと、琢磨のポジションは自然に上位につけた。ある意味で琢磨が望んでいた事が形になろうとしている。
しかし、インディ500が予選と決勝で大きく表情を変えることも琢磨は承知しているはずだ。あのファイナルラップで夢が霧散した2012年もスタートは19位からの追い上げだったし、レースの速さが最重要視されるインディ500では、あまりグリッド位置は意味をなさないと言う人間もいる。
だが230mphオーバーの平均時速の中で最も速い男を決める瞬間は、レーサーとチームのプライドをかけた勝負であり、その速さは名誉に値する。ここでポールポジションを狙うことには十分すぎる価値がある。
予選で真骨頂を発揮する琢磨が、このインディ500で最高の環境を手に入れた今、ポールを狙わないわけがないだろう。
ファストフライデーでは3番手だった琢磨。まずは予選初日でファスト9に入ることが、ファーストステップになる。
くじの順では琢磨はアンドレッティの中でも最後尾で予選にアテンプトすることになり、インフォメーションを得る条件は良い。そして気温が下がってくればなおさらだ。
予選途中、セバスチャン・ブルデーの大クラッシュが流れを変えた。途中の中断でやや気温も下がったことも味方になった。
アクシデント後、ロッシ、マルコ、そして琢磨という順でアテンプトとなり、琢磨は状況を知ることが出来る。
「それでもギリギリまでウイングの設定の判断は迷っていた」というが、琢磨は渾身のアタックで230.382mphをマークして、その時点でトップタイムをマークした。
その後にエド・カーペンターに逆転を許し2番手となったが、アンドレッティ、そしてホンダの中で最速のタイムをマークし、翌日のファスト9にのぞむことになった。
「今日は本当にチームのおかげ。いろんな状況から、このタイムをマーク出来た。本当にチームに感謝している」と素直に喜んだ。
予選2日目のファスト9では、最後から2番目に登場。他のマシンの状態をモニターで確認した後に、コクピットに潜り込んだ。
1周目から232マイルをオーバーし、最速だったスコット・ディクソンに追いつくかと期待されたが、2周目からややペースが落ち始め、マシンのダウンフォースが足りない様子がわかる。
最後には右リヤタイヤをウォールに擦ったが、なんとか無事に4周を走りきり平均スピード231.365mphで、4番手のタイムをマークした。2列目でアロンソの隣のグリッドとなったわけだ。念願のフロントロー獲得はならなかったが、4番手でも十分に日本人過去最高のグリッドだ。
「ダウンフォースを削りすぎて、少しマシンが滑り出してしまいましたね。でもフロントロウ、そしてポールを狙っていった結果ですから、後悔していないです」
「ここまでチームが良いクルマを仕上げてくれたし、明日(月曜)のプラクティスでさらにレースに向けて最後の仕上げをして、決勝の500マイルに臨みたいですね」
悔しいが晴れやかな笑顔を見せた琢磨。予選までは出来ることはやった達成感もうかがえる。
まさかアロンソと並んでスタートすることになろうとは思わなかったが、そのスタートの瞬間が1週間で訪れると思うと、楽しみでたまらない。