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USヒップホップ主要都市アトランタで今誰がアツい? 現地のヒットチューンを渡辺志保が解説

2017年05月21日 19:33  リアルサウンド

リアルサウンド

フューチャー『FUTURE』

 突然ですが、私、5月の大型連休を利用してアメリカのジョージア州はアトランタまで弾丸旅行に行ってまいりました。実は昨年の同じ時期にもアトランタを訪れており、同市への訪問はこれで3回目。アトランタといえば、90年代初頭から常にヒップホップ(そして主にブラック・ミュージックをマーケットとした音楽産業)が非常に盛んで、訪れるたびにその街の熱気にヤラれてしまい、また行きたくなってしまうのです……というわけで、今回は私がリアルにアトランタで体感した最新ヒップホップ・ヒット・チューンを紹介させて頂きます!


関連動画はこちら。


 まず一発目は、サー・ベイビーのシングル「Pull Up Wit Ah Stick ft. Loso Loaded」。アトランタには幾つかヒップホップ専門ラジオ局が存在しますが、その中でもダントツの人気をほこるのは<HOT 107.9>でしょう。そして、ラジオにチューン・インするたびにこの曲がかかっていました。もともと、彼が2016年に発表したミックステープ『SANDAS』に収録されていた本曲ですが、ネット上の口コミとラジオをきっかけにじわじわとヒット。サー・ベイビーはシカゴの有名なギャング・メンバーだったという父親、そしてT3という名前で活動するラッパーである兄を持ち、13歳の頃にアトランタへ引っ越してきたそう。この「Pull Up Wit Ah Stick」も、ややドリーミーなシンセが効いたトラックにメロディアスなサー・ベイビーのフロウが乗っておりやもするとソフトな印象を受けますが、アトランタのフッド、そして大量の銃をフィーチャーしたMV(そもそも、stick=銃という意味ですが)はかなりハードコアなもの。しかし、サー・ベイビー自身はドラッグや酒はやらないそうで、往来のラップ・ソングとは違うものを作りたい、とインタビューで語っていました。プラス、彼は真面目に高校も卒業していて、きちんと教育を受けることの重要性も語っています。自分のスタイルを「メロディック・トラップ」と説明している彼ですが、すでにドレイクやヤング・サグらと交流を持ち、この「Pull Up Wit Ah Stick」はつい先日、あのウィズ・カリファもリミックスを作って発表したばかり。


 つい最近、メジャーのワーナー・ミュージックと契約を結んだこともあり、次のスターダムに乗っかるアトランタの新星としてダントツの注目を浴びている存在なので、是非ともチェックして頂きたいと思います。


 そして、二曲は私が去年から大注目しているYFN・ルッチの新曲を。昨年、ミックステープ『Wish Me Well vol.2』からのシングル「Key To The Streets」がスマッシュ・ヒットを記録した彼ですが、最近、最新EP『Long Live Nut』をリリース。そして、そのリード曲として発売された「Everyday We Lit」がめちゃくちゃキテます!


 ”昔は何もねえところからスタートして、すべて自分の力で成し遂げた。今やリッチになって、俺たちってば毎日イケてるんだ“と少しの哀愁バイブスも込めてラップするルッチ、そしてゲストのPnB・ロックからは、まさに最先端のアトランタ・バイブスを感じます。加えて、つい最近、リル・ヨッティとウィズ・カリファが参加したオフィシャル・リミックスも発表されたばかり。 こうして、たくさんのラッパーが参加したリミックスが作られるということは、それだけ多くの支持を集めているということ。最近は売れっ子になってあまりアトランタにはいないそうなのですが、間違いなく彼も次のヒットメイカー予備軍! ということで、引き続き注目したいと思っています。


 さて、次はアトランタのストリップクラブで聴いた最新バンガーを。驚かれるかもしれないですが、アトランタには無数のストリップクラブがあり、男女関係なくエンターテインメントの場として盛り上がっているんです。お昼からオープンしているお店も少なくなく、今回は3軒も訪れてしまいした。アトランタの(そしてアメリカの多くの)ストリップクラブにはDJが駐在しているのが普通でして、ダンサーの女の子はDJがかける曲に合わせて自由に踊ります。そして、地元のラッパーは自分の曲をかけてもらうためにストリップクラブへと営業に出向くんです。実際に、ストリップクラブのステージに立ってライブすることも日常茶飯事。T.Iやフューチャー、グッチ・メインらアトランタの人気ラッパーはみんなストリップクラブから火が付いたと言っても過言ではありません。で、ローカル色がひときわ濃いのもストリップクラブの魅力。先日、ニューヨーク出身のDJの男の子と話した時も彼が「南部のストリップクラブに行くと、常にShazamを使って、フロアでかかってる曲を調べちゃう」と言っていたのですが、全然知らないコアなローカル・ヒットが聴ける場として最高の場所なんです。


 前置きが長くなりましたが、そんなアトランタのストリップクラブで知ったのがジョー・ギフテッド(ちなみにgifted=ギフテッド、とは生まれながらに才能がある、という意味です)というラッパーのこの曲。もともとジョー・ガッタ(gutta=何でもして稼ぐギャングスタ、という意味のスラングですね)という名前で活動していた中堅MCのジョーですが、この「Water」がアンダーグラウンド・ヒットを記録し、今後も更なるキャリアの伸びが期待できそう。本楽曲に参加しているのはD4Lのメンバーとしても活動していたフロント・ストリート、そしてプロデューサーはフューチャー率いるFREEBANDZに所属する女性ビートメイカー、ターシャ・ケイター。印象的なフックは、このターシャのペンによるものかも?


 次は、アトランタとウエスト・コーストを股にかけて活躍するアーティストの新譜を。ウィズ・カリファによるレーベル、<Taylor Gang>に所属するトゥキ・カーターが新アルバム『Flowers and Planes』をリリースしました。彼、ラッパーとしてはもちろんですが、アトランタの有名タトゥーショップで働くタトゥー・アーティストとしてもよく知られているんです。本作のジャケットも、鮮やかなコラージュデザインが見事! 今回、アトランタ滞在中に運よくトゥキ本人とクラブでお会いすることが出来ましたが、とても気さく&ナイスな方で、さらにファンになってしまいました。クラブでも多くの方がカジュアルにトゥキに話しかけており、ストリートとの距離の近さがとてもいい感じに見受けられました。肝心の内容ですが、キャッチーなフックと、これまた私が愛してやまないアトランタの若手、ゴー・ドリーマー、そしてローム・フォーチュンのヴァースも小気味いい「To the Max」 や、ウィズ&シェヴィー・ウッズが参加した、ユルめでファンキーなポッセ・カットでもある表題曲、レーベルメイトでもあるジューシー・Jとの酩酊感あふれる「Jerry Maguire」などなど、完成度の高い楽曲が緩急問わずみっちり並んでおり、非常に満足度の高い仕上がりになっています。


 さて、最後に紹介するのは今回のアトランタ旅行最大の目的でもあったフューチャーの話題曲。二週連続でアルバム『FUTURE』と『HNDRXX』を発表し、見事それぞれがビルボード・チャートで首位を獲得するという快挙を成し遂げた彼ですが、現在、全米を廻る『NOBODY SAFE TOUR』をスタートしたばかり。そして、ツアーの開始とほぼ同時に発表したのが、この「Mask Off」のMVです。


 トミー・バトラー「Prison Song」からサンプリングしたフルートの上ネタとコーラス部分が非常に強烈な印象を残すこの曲ですが、現時点でビルボードのシングル・チャート最高位5位まで上昇し、フューチャーのキャリア史上最も成功したシングルとなりました。でもって、そのMVの内容もこれまでにないほどの豪勢さ! ハリウッドのアクション映画さながらの映像ですが、フーチャーのお相手役で登場するのはカニエ・ウエストの元カノ、そしてウィズ・カリファの元嫁としても知られるアンバー・ローズ。フューチャーのライブDJとしてもお馴染みのDJエスコもバッチリ登場しているので、ぜひご覧下さいまし。


 以上、とりとめもなくアトランタのホットな楽曲を紹介して参りました! ヒップホップは地域性も濃い音楽ジャンルとして有名ですが、今年、ますますアツさを増すアトランタ産楽曲の数々、皆様にも楽しんで頂けると幸いです。(文=渡辺 志保)