2017年05月21日 10:53 弁護士ドットコム
自分には関係ない世界ではあっても、富裕層の世界は気になるもの。いま、節税目的で海外に移住した日本人たちの間で、3月末に今国会で成立した税制改正法案が話題になっているという。
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4月16日付けの日本経済新聞(電子版)によれば、従来は被相続人と相続人が5年を超えて海外に住むと、海外の資産に相続税や贈与税がかからなかったが、3月末の法改正により、この4月からは、非課税にするための期間が10年超と長くなったためだという。
なぜ非課税期間は長くなったのか。また今回の改正はどのような影響があるのか。富裕層の節税に関する悩みについて、大塚英司税理士に聞いた。
「まず、なぜ富裕層が海外に移住しているのか。富裕層が、『5年ルール』という節税方法を用いていると聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
5年ルールとは、日本国籍を有する『被相続人(贈与者)』と『相続人(受贈者)』の両方が5年以上継続して国外に居住すれば、『国外財産』に相続税及び贈与税(以下「相続税等」)を課さないというルールです。
一部の富裕層は、この5年ルールを利用して、相続税等が軽税率・無税である国へ財産を移し、移住から5年経過後に贈与を行うことで、子などの相続人へ財産を移転させて課税を免れていました。一時期、相続税がかからないシンガポールへ渡る日本人富裕層が増えたことを記憶されている方もいるのではないでしょうか」
ではなぜ、改正されることになったのか。
「各国指導者らのタックスヘイブン(租税回避地)関与を暴いた『パナマ文書』問題(2016年)を契機として、国をまたいだ過度な租税回避が問題視されるようになりました。そのため、日本政府としても、一部の富裕層だけが恩恵を受けられる5年ルールの改正へと乗り出したのでしょう。これにより、租税回避の抑制が図られた改正となっています」
今回の改正は、富裕層にとっては衝撃的だったのか。
「居住期間の縛りが5年から10年と長くなることにより、高齢であることが多い被相続人(贈与者)は、余生を慣れない海外で過ごすことに対して、より一層の抵抗感を持つようになるでしょう。
また、働き盛りの相続人(受贈者)も10年間超、海外での就労を余儀なくされます。
これまで、節税のために移住を行った富裕層は、日本に住むことを我慢しながら何とか5年間という期間をしのいでいました。しかし、今回の改正により、節税のためという目的だけで新たな『10年ルール』という長い海外生活に耐えきることができなくなり、軽税率・無税である国へ移住する富裕層は減ると考えます」
【取材協力税理士】
大塚 英司(おおつか・えいじ)税理士
中央大学商学部卒業。税理士法人トゥモローズ代表税理士。世界四大事務所であるEY税理士法人出身。大企業の法人税務から相続・不動産等の個人税務まで幅広くサポートできる稀有な存在の若手税理士。
事務所名 : 税理士法人トゥモローズ
事務所URL:http://tomorrowstax.com/
(弁護士ドットコムニュース)