2017年05月21日 10:53 弁護士ドットコム
JR西日本は2016年度から、乗務員による人為的ミスについて、悪質なケース以外は責任を問わない「非懲戒制度」を導入している。2005年の福知山線脱線事故を教訓に導入した制度で、人為的ミスの責任を問わないかわりに、積極的にミスを報告させることが狙いだ。
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日本経済新聞電子版(4月26日付け)によれば、制度導入初年度となる2016年度に発覚した重大ミスは85件。導入前の2015年度は、同様のミスを対象にした懲戒処分などが82件あったが、2016年度は、いずれも乗務員らを処分しなかったという。
このような人為ミスは責めない制度の導入は、航空業界などでも取り入れる動きがあるようだ。企業側にどのようなメリットがあるのだろうか。また従来であれば、懲戒処分になっていたものが処分されない点について、デメリットはないのか。神内伸浩弁護士に聞いた。
「1つの試みとしては大変興味深いと思います。そもそも、懲戒処分とは『従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰であることが明確な、労働契約上の不利益措置を指す』と解されています。
懲戒処分には、2つの意義があります。
その1つが、企業秩序を維持するために、労働者が一定の非違行為(非行・違法行為)を行った(なすべきことをしなかったという『不作為』も含む)場合には、当該労働者に対し制裁を科すことをあらかじめ告知し、そのような非違行為を行わないように動機づけることです。
そして2つ目の意義として、万が一、実際に非違行為を行った者が現れた場合には、しかるべき制裁を科すことで、同様の過ちを犯さないように、当該本人だけでなく、他の労働者に対しても指導教育するという副次的意義があります」
懲戒処分をやめることで、どのようなメリットやデメリットがあるのだろうか。
「福知山線の事故は、ダイヤを守らなければならないという過度のプレッシャーから起きた事故とされているだけに、JR西が『人為ミスは責めない』制度を導入した趣旨は、理解することができます。
懲戒処分にしないことで、ミスを隠ぺいせずに共有しやすくなる効果はあるのでしょう。当該行為が行われたことを企業が把握できなければ、制裁はおろか、教育や再発防止も図ることができません。
ただ、それを乗客はどう思うでしょうか。乗客の命を預かる運転士が、何をしても故意や重大なミスでない限り制裁を受けないというのでは、いささか不安に思う人もいるでしょう。『身内に甘い』との批判も出てくるかもしれません。
事故などを報告させ、共有させる仕組み作りは必要ですが、そのために懲戒処分を行わないとする運用は、かえって気の緩みを招く危険性もあります。
懲戒処分でがんじがらめにして安全を図ろうとしても、福知山線事故で明らかになったように、それだけで上手くいくわけではありません。しかし、まったく懲戒処分を行わないというのも逆に行き過ぎではないかと思います。
運転士をはじめ、電車の運行に関わる仕事は、多くの人命を預かることになる職種なのですから、試行錯誤はやむを得ないとしても、最終的に乗客が安全かつ安心して利用できる制度を考えていただきたいものです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神内 伸浩(かみうち・のぶひろ)弁護士
事業会社の人事部勤務を8年間弱経て、2007年弁護士登録。社会保険労務士の実績も併せ持つ。2014年7月神内法律事務所開設。第一東京弁護士会労働法制員会委員。著書として、『課長は労働法をこう使え!―――問題部下を管理し、理不尽な上司から身を守る 60の事例と対応法』(ダイヤモンド社)、『管理職トラブル対策の実務と法【労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ】』(民事法研究会 共著)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』(労務行政研究所 共著)ほか多数。
事務所名:神内法律事務所
事務所URL:http://kamiuchi-law.com/