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『帝一の國』間宮祥太朗&野村周平の演技はどう進化した? 『ライチ☆光クラブ』との違いを考察

2017年05月21日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2017フジテレビジョン 集英社 東宝 (c)古屋兎丸/集英社

 先日、観客動員数が100万人を突破した『帝一の國』。本作は、古屋兎丸の原作を映画化したものだ。古屋の作品は、そのカルト的な世界観のために映像化しにくいと言われてきたが、一年前には『ライチ☆光クラブ』が映画化されている(漫画自体は東京グランギニョルの舞台を原作としている)。


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 その『ライチ☆光クラブ』に出ていた俳優の中で、野村周平、間宮祥太郎、岡山天音が、『帝一の國』にも出演している。しかし、『ライチ』での役柄と『帝一の國』での役柄は、それぞれに異なるところが面白い。


 『ライチ』で、間宮が演じたのは、ゼラに寵愛される謎めいた美少年のジャイボ役だった。最初は、女性的な面のあるジャイボを、間宮が演じるのはなぜ?と思ったし、ときおりジャイボが「キャハッ」と発することにも違和感を持った。だが、ゼラに愛される根拠となる「美しさ」や「若さ」が自分にとって重要と考える姿や、成長期の自分の体の変化を知って嘆くというシーンを見て納得した。ジャイボは、成長することをもっとも恐れているからこそ、間宮のような成長した男の子が演じるにふさわしいのかもしれないと、見終わったときに感じたのだ。


 そんな間宮は『帝一の國』では、主人公の帝一より一学年上で、次期生徒会長候補となる氷室ローランドを演じている。氷室はアメリカの自動車会社の日本支社長の息子として生まれたハーフという役柄。金髪のカツラで、どこか現実離れしたキャラクターなのだが、間宮が演じると妙な説得力がある。


 間宮は、2012年から2015年までは舞台『銀河英雄伝説』に出演していて、特に2013年からは20歳にして上級大将となるラインハルト・フォン・ローエングラム役が当たり役となった。この舞台では、金髪をなびかせ、マントを翻し、リアリティとはまた違った舞台ならではの存在感を発揮していたのだが、ローランドを見ていると、その姿が思い出された。


 近年は、『ニーチェ先生』や『お前はまだグンマを知らない』など、現代劇で独特のコミカルな空気を醸し出すことにも成功。コミカルな演技と、ラインハルトに代表されるような超越した存在感。『帝一の國』の氷室ローランドは、ふたつの間宮らしさを存分に生かした役柄だったと思う。


 一方、野村周平は『ライチ』では、最も“正義”を感じさせる役を演じていた。彼が演じたタミヤは、醜い大人は粛清しても良いと考えるゼラのものとなってしまった『光クラブ』の異常さにいち早く気づく人物だ。


 こうした、“正義”を感じさせる役は古屋作品では“おいしい”役だともいえる。ほかのキャラクターがどこか芝居じみていて、普通ではないテンションの中にいるからこそ、見ているものは、良心の側のリーダーともいえるタミヤのようなまともなキャラクターに自然と惹かれてしまうのだ。それは『帝一の國』で竹内涼真が演じた大鷹弾にも通じるところがあるだろう。


 そんな『ライチ』の良心ともいえる役を演じていた野村が、『帝一の國』では、帝一のライバルで、眼鏡におかっぱ頭のライバル東郷菊馬を演じた。キャラクター紹介でも、「人を欺き、足を引っ張ることを常に企んでいる姑息な一年生」と書かれている。


 原作の古屋も野村のことを「いつもナチュラルな自然体の役が多いので、菊馬の卑劣な感じをどうやるのかが楽しみ」とトークイベントで語っているが、その期待の通り、見事にハマっている。この映画のプロモーションなどで、メンバー全員でいるときも、率先してちょっとウザい役回りを演じてしまうような本人のキャラクターともぴったりで、演じている野村自身も楽しそうに見えた。


 『帝一の國』では、どの役も、原作の個性的なキャラクターにあった俳優が選ばれていた。まったく自分と違う役を演じるというのも俳優にとっては挑戦となるが、こうした人気者が出ていることが動員の引き金になる作品としては、このようなアプローチのほうが、見ているものも、映画にすんなり入り込むことができる。漫画原作はキャラクターにどれだけ近づけるかが肝となるからなおさら本人のキャラクターが重要となる。


 映画製作の現場の細かい事情は詳しく知らないが、タイミングや諸事情で必ずしも思い描いたキャスティングができるわけではないことは予想できる。そんな中、それぞれのキャラクターが原作の世界をより輝かせるキャスティングに成功しているだけでも、この映画は“尊い”と言えるのではないだろうか。(西森路代)