佐藤琢磨にとって8年目のインディカーシーズン、8度目のインディ500である。すでに120戦以上インディカーで戦う琢磨だが、常に「インディ500だけは特別」と言っている。
「雰囲気もそうだし、20万、30万人も入るイベント大きさ。それに230mphオーバーでターン1に入っていくのはこのコースだけ……」
琢磨が特別な思いをインディ500に持っているのは共感できる。ましてや2012年に最終ラップでスピンを喫し、優勝まであと一歩のところまでいったのだ。アメリカンドリームを掴みかけたそのスピンで、琢磨を全米で有名にし琢磨の名前を覚えたファンも多い。
■アンドレッティ移籍で近づくインディ500での勝利
琢磨が今年アンドレッティ・オートスポートに移籍した理由のひとつが、インディ500での安定したアンドレッティのパフォーマンスだ。過去3年で2勝した実力とそれに裏付けされたデータとノウハウは、今年のインディ500で当然活かされるであろうし、事実プラクティス終了までは、チームのパフォーマンスは期待を裏切っていない。
わかりやすく言えば、今年の琢磨は好調である。過去7回とは比較にならないほどだ。
ここまでの順位を見るとプラクティス初日10番手、2日目6番手、3日目はほとんど走らず18番手、4日目9番手、5日目3番手。強風だった3日目はピットストッププラクティスに徹し、タイヤとエンジンマイレージをセーブしていた。
KVレーシング、AJフォイト時代はトップ10に入ることさえ希で、トップ5は夢のような出来事だったが、今年は何の驚きもなくトップ10に入っている。
それでも琢磨はマシンのフィーリングに完全に満足していないと言う。
「ここ(インディ)でマシンに完全に満足することなんてないですよね。でもここまでは順調に進んでいるし、もうちょっとやりたいこともありました」
「今日も風が変わって5日間の間におそらくインディで考えられる全方向の風向きの中で走ることが出来たので良かったと思います。予選に向けて心配は少なくなりましたね」
何事も究極まで求める琢磨らしいが、まずは予選でそのパフォーマンスに期待がかかる。
■予選に向けてさらなる伸びしろも
「ファスト9に入れれば嬉しいですが、目指すは決勝のリザルトなので、それほど意識はしていませんが、良い結果に越したことはないです。アテンプト(予選アタック)はやるとして、1回か2回。3回も4回もやるのは、よほどマシンが決まっていない時ですから。出来れば1回で終わりにしたいですね」
プラクティスでファスト9を現実的に考えられるのも、過去にはなかったこと。それだけ良い状態だと考えれば良いだろう。
「今日ももっとダウンフォースを削って、もう1回トライする予定でした」と、まだ伸びしろがあることをほのめかしている。
「でも、もうやだ(笑)。ほんとに怖いから(笑)。何度もやりたくないです、ダウンフォースを減らしたクルマで走るのは。もちろんエイ!って走ってタイムが出れば満足度は高いけども、もう、ホントに怖いんだから(笑)」
230マイルオーバーでターン1に入って行く気持ちはおよそ想像出来ないが、笑いながら怖がる琢磨の表情に、マシンへの満足度がうかがえた。琢磨の予選に期待しよう。