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「就活面接で帰らされた」「オネェキャラを求められる」 LGBTの当事者がそれぞれが抱える困難

2017年05月20日 11:12  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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JobRainbowは、LGBTでも安心して働ける社会を作るため、企業の口コミサイト「JobRainbow」や求人広告サイト「ichoose」を運営している。同社で、セールスマネージャーを務める田中優さん(20代・仮名)は、女性として生まれたものの、性自認は男性のいわゆるFTM(Female To Male)。普段は大手企業の営業として働いているという。

早稲田大学4年生でLGBTQ(※1)の当事者である高橋洋輝さん(22)は、JobRainbowでインターンとして働く。企業への営業やインタビュー、イベントの開催などいろいろなことに携わってきた。

LGBTと一口にいっても、同性愛者や両性愛者、トランスジェンダーで状況は違う。今回は、田中さんと高橋さんに、それぞれどういったことに苦労しているのか、どのような思いでJobRainbowに参加しているのかを聞いた。

「取引先に行ったとき、声が高いので『君、どっちなの』と戸惑われることがあります」

―田中さんは、どのような性自認をお持ちなんですか。

僕は、戸籍は女性ですが、普段からメンズの服を着て生活しています。特に治療はしていません。自分の性別はどっちでもいいというのが正直なところですが、どちらかを選ぶとしたら男性かなって感じです。FTMの中には、体を鍛えたりと男らしさを求める人もいます。でも僕はどちらかといえば「草食系」というか、それほど男らしさは求めていません。そもそも「男らしさ」とか「女らしさ」の定義が僕にはないですね。

―会社の人には、FTMであることを伝えているんですか?

会社の人には伝えています。泊りがけの研修や健康診断があるので。偏見を持っている人はあまりいませんが、LGBTについてよく知らない人や知ろうとしない人が多く、周囲の人の発言に傷つくこともあります。例えば「こういう風にした方が男らしいよ」と言われたことがありました。でも僕は男らしくしたいわけじゃなくて、ただそのままの自分でいたいだけなんです。男だからこうあるべき、女だからこうあるべきという価値観って必要なのかなって。

―そういった周囲の人の無理解以外にも、何か困っていることはありますか。

取引先に行ったとき、見た目は男ですが、声が高いので『君、どっちなの』と戸惑われることがあります。説明しようか迷うのですが、説明して偏見を持たれることが怖いので、そういう時はごまかしちゃってますね。

あと、会社や営業先に多目的トイレがないのも不便ですね。男女別のトイレしかない建物がまだまだ多いです。会社では同僚と同じトイレを使うと気にする人もいるので、別のフロアのお客さん用のトイレを使っています。女性用トイレに入ると、だいたい『君、間違ってるよ』とおばちゃんに声を掛けられるので、なるべく男性用トイレを使用しています。

―トランスジェンダーの人が安心して働けるようになるにはどうすればいいでしょう。

トランスジェンダーにとって、働く上で服装は一つ大きなポイントになってくるのではないかと考えています。特に治療をしていないと、男女で制服が別デザインの会社やスーツで出勤しないといけない会社は、抵抗を感じますね。ただ、これはトランスジェンダーだけの問題ではないと思います。女性でもスカートが嫌だという人はいますよね。だから男女ごとの制服やスーツなんてやめて、『ビジネスカジュアル(ユニセックスOK)』という風になれば個人的にはすごく嬉しいですね。かなり難しいとは思いますが。

―田中さんは、就活のときはどうしていたんですか。

新卒の時は、私服で就活をしていました。自由なベンチャー企業ばかり受けていましたね。その後、転職して今の会社に入りました。その時は、スーツで転職活動をしていました。ある時、面接に化粧をせずに行ったら、「なんで化粧しないの」と言われ、説明をしたら、「君みたいな人はうちにはいないから帰って下さい」と帰らされたこともあります。僕はそういうこともあるかもしれないと覚悟して転職活動をしたので、そこまでは落ち込まなかったのですが、そういう一言で、深く傷付き自分を追い込んでしまう人もいます。

―どのような思いでJobRainbowに参加しているのですか。

自分自身が就職活動の時にかなり苦労をしたので、「JobRainbow」の事業内容にとても共感し、参加しました。自分と同じような悩みを抱えている人たちがJobRainbowのサービスを使うことによって、「自分らしく生き生きと働くことのできる環境」を見つけてくれたら嬉しいです。

―JobRainbowではどういったことをされているんですか。

JobRainbowでは、企業とのやり取りを行ったり、LGBT研修の講師を務めたりしています。研修を受けてくれる企業は、研修を実施するだけあって、ポジティブな反応をしてくれることが多いです。ただLGBT対策は、女性活躍や働き方改革に比べると優先順位が低いのが現状です。LGBT対策の優先順位を上げてもらえるよう、呼びかけていきたいと思っています。

「女性っぽい発想を抑え込まないよう、カミングアウトしている」

―高橋さんは、LGBTQであることをカミングアウトしてインターンに参加されているそうですね。どのような思いでカミングアウトに踏み切ったのですか。

どのような仕事であれ、働く上では周囲の人と信頼関係を築くことが大切です。そして信頼関係を築くためには、自己開示をする必要があります。

今の日本社会では、男性は男性らしく、女性は女性らしく、といった性別をベースとした「らしさ」を求められます。例えばゲイの方でも男性のストレート(異性愛者)の方でも、いわゆる男性的な方もいれば、女性的とされている趣味や考え方、表現の方も沢山います。しかしながら現状周りからの偏見が怖くて、そうした女性的とみられる自己主張や表現を押し殺してしまう場面が多くありますよね。

僕の場合も、趣味や嗜好がいわゆる女性的であり、考え方も女性的になることがあります。もしカミングアウトできていなかったら、女性的な考えを思いついても、「ゲイであることがバレてしまわないか」と詮索や偏見を恐れて発言できず、抑え込んでしまうと思います。そうすると自分の可能性を狭めてしまうと思うんです。そういった意味で僕はセクシュアリティーをオープンにしていきたいと思っています。そもそも、男性らしくない=ゲイといったステレオタイプがあること自体がおかしいのですけどね。

―カミングアウトすることで偏見に晒されることはありませんでしたか?

僕が参加してきたインターンはベンチャー企業が多かったので、若い人が多く、抵抗感や拒絶感を示す人はあまりいませんでした。
しかしLGBTについて正確な知識を持っている人はあまりいません。LGBTというと、新宿二丁目を連想したり、テレビに出ている華やかなタレントや「オネェ口調」の人を想像する人が多いんです。知識がないからこそ、こうしたステレオタイプなイメージを抱くのだと思います。
僕自身も飲み会で「オネェキャラ」を求められているなと感じることはあります。僕は「しょうがない」と思えるタイプなのですが、そのように扱われることを嫌がる人もいます。

―JobRainbowにはどのような思いで参加されていますか。

JobRainbow以外にも、いろいろな企業でインターンをしてきたのですが、LGBTのための就業環境が整っていないと感じてきました。そうした現状を変えていきたいと思っています。JobRainbowの活動を通して、1人1人が自分らしく働ける社会を作りたいんです。

(※1)LGBTは、セクシュアルマイノリティーのごく一部にすぎないため、多様なセクシュアルマイノリティーを包含するために、「LGBTQ」という言葉を使うこともある。「Q」は、「Questioning」または「Queer」を表す。原則として、人口に膾炙した「LGBT」という言葉を用いるが、高橋さんのセクシュアルアイデンティティについては、本人の希望により「LGBTQ」と表記する。