インディ500のスケジュールはユニークで、5日間のプラクティスの後、2日間の予選。その後に1日のプラクティスとカーブデーと呼ばれる1時間の練習走行日があり、土曜日の市内パレードを終え、日曜日に決勝……。足掛け2週間に渡る大イベントなのだ。
このスケジュールに順応するのは、なかなか容易ではない。これでもドライバーやエンジニアはマシンを仕上げる時間が足りないと言い、プロモーションやファンイベントなども設定されている。
F1であればグランプリごとにプラクティス、予選、決勝とそれぞれ1日の3日間のスケジュールだが、初めてインディに来たアロンソは、この長いスケジュールをうまく消化できるのか? それも少なからず心配したが、彼はここまでアメリカの流儀を受け入れてプロに徹している。
気軽にファンのサインやセルフィーに応じている様子を見たら、きっとF1ファンは羨ましがることだろう。
アロンソがプロフェッショナルに徹しているのはコース上でも同じだった。
走行初日のオリエンテーションプログラムから順調にテストを消化していき、5日間の走行で壁に接触することもなく、かと言って物怖じしてタイムが出ないわけでもない。1日ごとにメニューを確実に消化し、チームメイトと同等のタイムを刻む様子はもうルーキーと呼ぶには失礼なくらいほどだ。
おそらくアンドレッティのチーム内ではF1チャンピオンの吸収力とデータ解析能力、そしてドライビング能力のすべてに感嘆しているだろう。
走り初めの初日19番手、2日目は24番手だったが、3日目から5日目までは4番手と、安定したタイムをマークしている。グループ走行になっても前のマシンの抜き方や抜かれ方、マシンの位置取りなど学びながら走っている様子がうかがえた。
アンドレッティ・オートスポートのドライバーが総体的に安定していることもあるし、チーム内のデータ共有が大きく作用していることはいうまでもない。完璧と言っても良いほどのアロンソサポート体制がある。
しかし、アロンソがそのサポート体制の上で胡座をかいているわけではなかった。
3日目のプラクティス。この日は朝から強風でプラクティス開始直後も各チーム走行を見合わせるほど、ガレージからピットにさえ出てこないチームあったほどだった。しかしアロンソは、その中で淡々と走行を重ねたのである。
この強風ではタイムを出すことは望めなかったが、アロンソは「今は1周1周が勉強になる。どんな状況でもためにならないことはない」と謙虚な姿勢で周回を重ねたのだった。
常にマイケル・アンドレッティもジル・ド・フェランもサポートしているし、なんと毎朝は近くのHPDのシュミレーターで乗ってきてから、スピードウェイに入りプラクティスを迎えている。これ以上のサポートは考えられないが、アロンソもそのサポートに完璧に応える仕事をしているのだ。
プラクティス最終日は、予選に向けてシュミレーションを行う日だが、アロンソはダウンフォースを減らした予選仕様のマシンで4番手、231.827mphのスピードをマークした。前にクルマのいない単独走行のタイムでは5番手だった。
「雨の前にできるだけ多くの周回を重ねたよ。予選シミュレーションも行い、とても満足している。明日はいい4周を走って、うまくいけばファスト9に入って最後の予選を待ちたいね。僕にとっては明日も学習の日だ。プレッシャーはないね」とアロンソ。
インディ500のオーバー230mphの予選アタックはある意味で「肝試し」だが、アロンソがそこでどんなタイムを出すのか見ものである。良くも悪くも、現役F1チャンピオンの肩書きを背負わされて走るアロンソ。まずは予選でその実力とど根性が試される。