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andropがオーディエンスと作り上げた“一期一会”のライブ ツアー序盤、横浜公演を観た

2017年05月19日 19:23  リアルサウンド

リアルサウンド

androp(撮影=Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER))

 ニューシングル『Prism』をリリースしたandrop。2016年春に自主レーベル<image world>を立ち上げ、10月には、それまでの楽曲から想起される“光”とは真逆の、“闇”を表現したアルバム『blue』をリリース。また、今回のシングルから、ユニバーサルミュージック<ZEN MUSIC>とタッグを組んで活動ーー今、andropは明らかに新しいフェーズへと突入している。


(関連記事:andropの新曲「Prism」は“第二のデビュー曲”のようだーーニューフェイズ迎えたバンドの現在地


 それは、現在開催中の全国21カ所をめぐるツアー『one-man live tour 2017 "angstrom 0.8 pm"』においても、はっきりと感じられた。筆者が足を運んだのはツアー序盤、5月18日の横浜BAY HALL公演。ライブハウスという空間での濃密な距離感において、andropは、かつてなく外に向かって開かれたモードで、自由に音楽と戯れながらオーディエンスとのコミュニケーションを育んでいた。


 ライブ序盤、まず盛り上がりに火をつけたのは、「Boohoo」だった。冒頭、前田恭介(Ba)の挑発的なスラップベースに、オーディエンスの拳があがる。緻密に構築されたサウンド・プロダクションはそのままに、それぞれがテンションの高い演奏で、骨太なグルーヴを生み出していく。その後は、内澤崇仁(Vo・Gt)が「5年ぶりくらいにやる」と紹介した曲も披露されるなど、ライブ定番曲だけではなく、andropというバンドの真に迫るようなディープな楽曲も選曲された。


 また、ニューシングル『Prism』に収録された「BGM (single ver.)」は、原曲はmiwaと坂口健太郎が主演を務めた映画『君と100回目の恋』の挿入歌。ライブでも演奏されたシングルバージョンは、原曲と比べてハーフテンポにアレンジされ、中心となっているのは歌とメロディだ。シンプルな構成でありながら、佐藤拓也(Gt)が紡ぐギターフレーズがアクセントとなっており、心地よいサウンドにオーディエンスも身体を揺らした。


 終盤では「Prism」も披露された。目の前が開けていくような眩いイントロ、伊藤彬彦(Dr)が刻むゆったりした正確なビート、そして内澤の肩の力が抜けた伸びやかな歌声には、すべてを肯定するような包容力が感じられた。風通しがよく、濁りのない「Prisim」の聴き心地は、今のandropの音楽との向き合い方を象徴しているように思う。そして、外に向かって開かれた今のモードが全開になっていたのが「Voice」だろう。タイトルの通り、この曲の主役は「声」だ。メンバーが煽らなくとも、フロアからは自然に「ウォーオーオーオー♪」の大合唱が生まれる。ステージとフロアが融合し、みなで分かち合うアンセムとして、andropのライブにおいて「Voice」は大切な役割を果たしていた。


 また、MCでは、横浜出身の前田を中心にトークにおいても観客を笑わせ、4人の仲睦まじい関係性が垣間見えた。そしてパフォーマンスにおいても、ストイックに演奏に集中するだけではなく、曲中に度々4人が向き合い、息をあわせる。メンバーは音楽を鳴らすことを心から楽しんでいるようで、それがまた、ライブをドライブさせていくエンジンとなっていた。


 アンコールでは、内澤が「Rainbows」を弾き語りで歌唱。ライブ当日の午後、天気は雨だった。しかし、ライブ前には雨が上がり虹が出ていたということから、このステージで急遽歌唱することを決めたという。このサプライズには、オーディエンスも大歓声をあげて喜んだ。


 この日の公演はツアー3本目。15日の千葉、16日の高崎公演とも、異なるセットリストとなっていたようだ。「Rainbows」が急遽演奏されたことが象徴するように、このツアー全21公演は、その場所、その日のムードによって変幻自在に変わっていき、細部まで作り込まれたライブにはない、驚きと興奮、新鮮さを味わうことができる。ツアーファイナルは7月7日の福岡公演。さらに、10月28日には初の東京・日比谷野音のワンマンも待ち構えている。そこではまた、このツアーを通してバンドとしてさらに逞しくなったandropに出会うことができるはずだ。(取材・文=若田悠希/※写真は5月15日千葉LOOK公演のもの)