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Linkin Parkがアップデートした“自身の理論” 新作『One More Light』をバンドの変遷から紐解く

2017年05月19日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

Linkin Park

 Linkin Parkが待望のニューアルバム『One More Light』を5月19日にリリースする。前作『The Hunting Party』が2014年6月発売なので、およそ3年ぶりということになる。ここ数作はほぼ2年間隔で新作を届けてくれていたので、彼らにしては比較的空いたような気がする。しかも前作に伴う来日公演が実現していないので(最後の来日公演は2013年8月の『SUMMER SONIC 2013』)、その渇望感はこれまで以上だったのではないだろうか。


 彼らが新作をリリースすると正式にアナウンスされたのは、今年2月のこと。アルバムの5月発売、11月の来日公演発表とあわせて、アルバムからの先行トラック「Heavy feat. Kiiara」の配信もスタートした。だが、待ちに待ったこの新曲は彼らのファンのみならず、音楽シーン全体に大きな反響を及ぼすこととなった。


 思えば、Linkin Parkはアルバムをリリースするたびに、毎回賛否を呼んできた。それはいつから始まったのだろうと振り返ってみたのだが、おそらく2007年の3rdアルバム『Minutes to Midnight』からだったはずだ。


 Linkin Parkは2000年、『Hybrid Theory』と題したアルバムでメジャーデビュー。クリーン&スクリームを駆使するチェスター・ベニントン、ラップを軸とするマイク・シノダという2人のシンガーを擁するスタイル、ギター、ベース、ドラムにDJというバンド編成で適度にヘヴィかつメロウ、そこにラップが乗るという“ニューメタル”の枠で語られることが多かった。ニューメタルとはヘヴィメタル/ラウドロックにおける「ヘヴィだが聴きやすく、ラップなどを取り入れたグルーヴィなビート&サウンドが特徴」のサブジャンルのひとつだが、どちらかというと揶揄で使われるイメージが強い。


 そんな揶揄をものともせず、「雑種の理論」と命名されたLinkin Parkのデビュー作はBillboard 200(アルバムチャート)で最高2位まで上昇し、1000万枚以上ものセールスを記録。彼らは一躍時代の寵児となり、2002年にはヘヴィロックのみならずヒップホップやエレクトロ、インダストリアルなど文字どおりの雑種感を打ち出したリミックスアルバム『Reanimation』もヒットさせる。さらに2003年には2ndアルバム『Meteora』を発表。『Hybrid Theory』の延長線上にある作風の同作は全米1位を獲得し、前作に次ぐ好セールスを記録した。この初期2作がLinkin Parkのベーシック、と考える者は今でも少なくないようだ。それにより、彼らはこの先幾多の苦難と遭遇することになる。


 ライブ作品『Live In Texas』(2003年)、ジェイJとのコラボEP『Collision Course』(2004年)を経て、2007年に発表されたのが通算3枚目のスタジオアルバム『Minutes to Midnight』。先に触れた、彼らが賛否を呼ぶきっかけとなった1枚だ。もはや世界的な人気バンドとなったLinkin Parkが前作『Meteora』から約4年ぶりの新作をリリースするということで、当時は相当盛り上がったと記憶しているが、最初に届けられたシングル「What I've Done」を聴いて多くのものは驚きを隠しきれなかったはずだ。なにせそれまでの“ラップやスクリームが入ったメロウなヘヴィロック”というスタイルではなく、至極まっとうかつストレートな歌モノロックだったのだから。チェスターは淡々と歌い、マイクはマイクロフォンの代わりにギターを手にして演奏に加わる。これをニューメタル、いやヘヴィロックと呼んでいいものか? そう複雑な気持ちになったに違いない。アルバム自体もヒップホップの要素は減退し、スタジアムロック的な要素が急増しているのだから。


 だが、彼らの変化はこんなものでは終わらない。2010年の4thアルバム『A Thousand Suns』ではマイクのラップ、チェスターのスクリームは前作より増えているものの、サウンド自体はエレクトロの色合いが強まり、打ち込み主体の楽曲が増えている。続く2012年の5thアルバム『Living Things』もその傾向は変わらないが、それ以前の初期3作でのカラーも散りばめられ、若干集大成感も匂わせている。そして2014年の6thアルバム『The Hunting Party』では再び『Living Things』での試みを放棄し、メンバーがキッズ時代に憧れたハードコアやオルタナティヴロックを現代的に解釈。発売当時は「Linkin Parkが再びロックに帰還した!」という声もあったが、いざ蓋を開けてみたら多くのファンが望む『Hybrid Theory』路線ではなかったことで非難の声が上がった……『Hybrid Theory』の幻影を追い求める者たちにとっては、『Minutes to Midnight』以降の作品はすべて“期待はずれ”以外の何物でもないのかもしれない。


 しかし、本当にそれらの作品は駄作だったのだろうか。いやいや、そんなことはない。確かに1枚目のような天文学的大ヒット作こそないが、それでもLinkin Parkがここまで世界各国で求められ続けているのは、『Hybrid Theory』だけが好きでバンドから離れた者と同じくらい、『Minutes to Midnight』以降の作品でファンになったリスナーが存在することにほかならない。バンドが17年も第一線で活躍し続けているのだから、多少の新陳代謝だってあるはずだ。


 さあ、ここからが本題。3年ぶりの最新アルバム『One More Light』は今度も賛否を呼ぶような内容なのだろうか。先行トラック「Heavy feat. Kiiara」、続いて公開された「Good Goodbye」や「Battle Symphony」「Invisible」といった楽曲は、過去のLinkin Parkの楽曲群と比較しても、かつてないほどに攻めたものばかりだ。


 きっと古くからのファンには「ラウドか否か?」が問題になるのかもしれないが、これらの新曲はもはやそういう次元ではなく「ロックか否か?」と自身に問いかけることになるかもしれない。モダンなR&Bと呼びたくなる「Heavy feat. Kiiara」やほとんどヒップホップな「Good Goodbye」、The Chainsmokersあたりにも通ずるポップさを兼ね備えた「Invisible」。そのどれもがロックバンドとしてのスタイルを無視したサウンドだし、ファンでなくても「何が起きてるんだ?」と騒ぐはずだ。


 これらの先行トラックは、アルバム『One More Light』の中でもかなり挑戦的な部類の楽曲だ。本作のオープニングを飾る、多幸感あふれる「Nobody Can Save Me」、ダウナーなヒップホップにロック的主張を掛け合わせた「Talking To Myself」、現代的なR&Bやヒップホップを“ロックバンド”Linkin Parkが自己流に解釈した「Sorry For Now」といった“ロックな”楽曲もあるにはある。だが、本作の軸になっているのはもっと根底にある……文字どおり“音”を“楽”しむという姿勢。これまでのLinkin Parkがそうであったように、ジャンルやカテゴライズといった“壁”をぶち壊そうとする姿勢が強まっている。しかも、過去はその壊し方が力技でこじ開けるようなものだったのが、本作ではより自然と、まるで“壁”を優しく融解するかのごとく消し去っているのだから、ただただ驚かされるばかりだ。


 本作のプロデュースは曲ごとによって多少異なるようだが、ベーシックはメンバーのマイクとブラッド・デルソン(Gt)という前作『The Hunting Party』と同じくセルフプロデュース。前作で試みた(しかも多少強引だった)プロデュース法も、今作ではよりナチュラルなものに成長したようだ。また、自身のルーツと向き合い“内に、内に”という作風だった前作と比較しても今作は真逆で、より外へ向けて思いを放出しようとする傾向すら感じられる。


 このように、ロックという枠すら消し去り、ポジティブかつ開放的な作風になった背景には、マイクが言うところの「今はメンバー全員に子供がいるから、子供たちと一緒に聴けるような音楽を作ってみたかった。バンドの真の声を損なわずに、それをやってみたかったんだ」という思いが大きく影響している。その実現のためには、これまでとは異なる手法も積極的に取り入れる。例えば、それは外部ソングライターの導入であり、女性アーティストとの共演といった動きに顕著だ。


 非常に“開かれた”本作は、比較的落ち着いたテンポ感で進行していく。これはLinkin Parkの面々が大人になったからではなく、時代がそういうビートを求めているから。彼らは時代と真正面から向き合い、その中から自分たちにできること、自分たちがまだやったことがないことを模索し、この新作に到達した。確かに初期の作品にあったラウドさや何もかも発散させてくれるような爽快感はないかもしれない。しかし、そういった要素がないから駄作と呼ぶのは間違い。だって、このアルバムをどこからどう聴いてもLinkin Park以外の何者でもなく、これまで以上にメンバーのパーソナリティが色濃く表れているのだから。中でも終盤3曲……ゴスペル調コーラスが加わる壮大な「Halfway Right」、暗闇の中でチェスターの歌とブラッドのギターが一筋の光を灯す本作の肝「One More Light」、ここで終わるのではなく新たな始まりを告げるような生命力を強く感じさせる「Sharp Edges」……には、今のLinkin Parkのすべてが表現されているように感じた。薄暗い地下室でくすぶっていたデビュー前をイメージさせる前作を抜け出し、暗闇から夜明けを迎えたかのような本作に到達した。アルバムのアートワークよろしく、バンドは何度目かの夜明けを迎えたのだなと、アルバムを聴き終えたときに胸に迫り来る熱いものを感じた。


 “雑種の理論”を打ち立ててシーンに登場したものの、自身が掲げる理論と周りが求める固定観念との間で常に戦いを強いられてきたLinkin Park。デビューから17年を経て、彼らは今回の新作『One More Light』でその理論をさらにアップデートさせた。正直、ここまで“雑種の理論”という言葉がふさわしいアルバムはないのではないか。だって、本作こそ『Hybrid Theory』というタイトルが最適とすら感じてしまうのだから。


 そしてLinkin Parkは本作を携えて、今年11月2日、4日、5日に幕張メッセでおよそ4年ぶりとなる来日公演を行う。これまでのライブ同様、きっとLinkin Parkは新作からの楽曲のみならず、過去の代表曲を豊富に織り交ぜたセットリストを提示するはずだ。実は『One More Light』の楽曲はライブでこそ映えるものが多いように感じており、過去の楽曲と並ぶことでその魅力はより増すことだろう。コアなラウドロックから大勢を巻き込むアリーナロック、そしてシンガロング必至の新曲群。ここまで幅広い層を巻き込むことができるのも、今のLinkin Parkの強みだ。


 この3公演には、先ごろ北米ツアーへの帯同も決定したONE OK ROCKがゲスト出演する。ONE OK ROCKも最新アルバム『Ambitions』で過去最大の変化を迎え、ファンの間で賛否を呼び起こしたことが記憶に新しい。時代と対峙し自身をアップデートさせた2バンドの共演は、この先のラウドロック、いや、ロックの在り方のひとつを新たに提示してくれることだろう。間違いなく今年最大の話題作である『One More Light』同様、この来日公演も2017年に必ず観ておくべきライブになりそうだ。(文=西廣智一)