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サマンサタバサが「サマンサタバタ」を商標登録出願、パロディ商品は売れなくなる?

2017年05月19日 10:23  弁護士ドットコム

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若い女性に人気のファッションブランド「サマンサタバサ」を展開する株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドがパロディブランドの「サマンサタバタ」を商標登録出願した。栗原潔弁理士がYahoo!ニュース個人で解説記事を掲載して、話題になった。


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特許情報を検索できるプラットフォーム「J-PlatPat」で検索すると、同社が2017年3月13日に「サマンサタバタ」を商標登録出願している。


一方、サマンサ田端を販売しているのは、「戦うTシャツ屋 伊藤製作所」(東京都台東区)。「サマンサ田端 トートバック」は綿素材のトートバック(縦36×横38×幅10cm)で、販売価格は3500円。商品説明には「ファッションリーダー御用達。サマンサ田端のトートバッグ」と書かれている。


今回のように、本家がパロディ商品を商標登録出願し、認められた場合、どんな効果があるのか。岩永利彦弁護士に聞いた。


●認められれば、類似の商標使用を禁止できる権利が発生

本家がパロディ商品の商標を商標登録出願したことをどう考えるか。


「『パロディ』という言葉は、風刺なのか、ただのパクリなのか、主観的な要素が入るため、傍からはよくわからないところがあります。ここでは具体的な『サマンサタバタ』商標で検討するということで統一したいと思います。


本家がそういう『サマンサタバタ』商標を出願した意図は明白でしょう。『サマンサ田端』の使用を許さない、認めないということです。つまりサマンサタバサのブランド管理戦略の一環でしょう」


本家がパロディ商品の商標を商標登録することで、どういった効果があるのか。


「『サマンサタバタ』商標が商標登録されますと、


(1)『サマンサタバタ』商標と同一の商標で第18類の指定商品(かばん類など)に関して、商標権者のみが使用できる権利が発生し(商標法25条)、


(2)『サマンサタバタ』商標と類似の商標等で第18類の指定商品(かばん類など)に関して、他人の使用を禁止できる権利が発生(商標法37条1号)するのが原則です。


そうしますと今回の件では『サマンサタバタ』商標と『サマンサ田端』は同一の商標ではありませんから、本家としては上の(2)の効果を狙おうとしているわけです」


●即「サマンサ田端」が駆逐される訳ではない

では、今後出願から審査を経て登録された場合、トートバック「サマンサ田端」も「よく似た商標」として使用できなくなるのか。


「商標の似ている似ていないは、外観(見た目)、称呼(呼び名)、観念(意味)を総合して全体的に考え、さらに具体的な取引状況に基いて、判断するものとされています(氷山印事件。最高裁昭和43年2月27日判決)。この類否しているかどうかは、最終的に裁判所が判断します。


本件では、外観は明らかに似ていません。『タバタ』と『田端』は違います。称呼は同一です。観念もこれまた似ていません。さらに本家のバックをよく買う消費者と、『サマンサ田端』のトートバックを買う消費者は通常異なるものと思います。つまりはっきりとこれらは違うなと考えて購入している人が多いということです。さらにフランク三浦事件(知財高裁平成28年4月12日判決)の件もあります。


そうしますと、結論としては、『サマンサタバタ』商標と『サマンサ田端』は非類似、つまり似ていない可能性が高いと考えます。非類似である場合、販売し続けていいのは当然です」


仮に類似しているとされた場合はどうなるのか。


「まず、『サマンサタバタ』商標の出願前から『サマンサ田端』は使われていましたので、先使用権(商標法32条)が発生する可能性はあります。


ただし、先使用権が認められるためには、『不正競争の目的でなく』、『需要者の間に広く認識されているとき』などの要件を満たす必要があります。しかし、本件ではなかなか難しいのではないかと思います。


では『サマンサタバタ』商標の商標権により、即『サマンサ田端』が駆逐されるかというとそうではないと思います。何故かというと、そもそもサマンサタバサは「サマンサタバタ」商標の使用などしていないからです。本家が『サマンサタバタ』商標など使用するわけにはいかないからです。


しかし、逆に使用していない商標での権利行使は、権利の濫用とされる可能性があるのです(例えば、最近のDHC-DS事件があります。東京地裁平成27年11月13日判決)。商標法にも、使っていない商標を整理するための不使用取消審判というのがあるくらいなのです(商標法50条)。


ですので、仮に『サマンサタバタ』商標の商標登録が認められた場合で、かつ『サマンサ田端』が類似とされた場合であっても、『サマンサ田端トートバック』を販売し続けることはできる可能性は高いと考えます」


●ブランド管理が十分でないために、付け入る隙を与えてしまった

今回のような事例は過去にもあったのか。


「今回と同じような事例で公になった事例は少ないと思います。あまり聞いたことがありません。というのは、通常のブランド管理の戦略からすると、本家のメインブランドの戦略を立てるときに、相当の対策をしてしまうからです。


例えば、カシオ計算機のG-SHOCKについて、A-SHOCKからZ-SHOCKまで、真似されそうな商標についてすべてカシオ計算機が商標権を有していることは有名です。つまり、ある程度のリソースのある会社ならブランド戦略をきちんとしているのが通例で、最初から付け入る隙を与えないものです。


ですので、本家が類似の商標を出願して登録することなどは、昔からされている、ブランド管理のイロハのイなのです。今回大きく騒がれたのは、ブランド管理が十分でないために付け入る隙を与えてしまったあげく、対処に苦慮して後追いでの商標登録出願をしてしまったからだと思います。


それゆえ、ブランド管理が重要な業種の企業については、最初から「こういう真似やパクリがありそうだな」と想像力を巡らせて、ブランド戦略を徹底的に考える必要があるということです。


なお、本家の商標のサマンサタバサは既に登録されていますので、その権利で権利行使すればいいように思えますが、そうすると『サマンサ田端』と似ていないことが明白だったので、このようなまどろっこしい戦略をとったのでしょうね」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岩永 利彦(いわなが・としひこ)弁護士
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。

メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー」好評発売中。

所在エリア:東京品川
事務所名:岩永総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwanagalaw.jp/