トップへ

【特別対談】「夜明け告げるルーのうた」大ファンである斉藤壮馬が語る湯浅政明監督の魅力とは?

2017年05月18日 19:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

【特別対談】「夜明け告げるルーのうた」大ファンである斉藤壮馬が語る湯浅政明監督の魅力とは?
2017年4月に公開を迎えた『夜は短し歩けよ乙女』に続いて、湯浅政明監督の最新劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』が5月19日に公開となる。
物語の舞台は、人魚の言い伝えを持つ漁港の町・日無町。両親の都合で引越してきた中学生の少年カイは、クラスメイトに連れられて訪れた離れ島で人魚のルーと出会う。鬱屈した気持ちを抱えていたカイは、ルーと行動を共にするようになり少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。しかし日無町では、古来から人魚は災いをもたらす存在として恐れられていた――。

湯浅監督の唯一無二の世界観はアニメ業界の中にもファンが多く、本作でカイのクラスメイトである国夫を演じた斉藤壮馬もその一人だ。斉藤の希望もあって今回、湯浅監督と斉藤の対談が実現。作品の魅力や制作の模様についてたっぷり語らっていただいた。
[取材・構成:奥村ひとみ]

映画『夜明け告げるルーのうた』
2017年5月19日(土)全国ロードショー
http://lunouta.com/

■湯浅監督の魅力は「間」と「引き算の美学」

――今回の対談にあたって、斉藤さんが湯浅監督の大ファンだと伺いました。斉藤さんが感じる湯浅監督の魅力を教えてください。

斉藤壮馬(以下、斉藤)
僕が最初に拝見したのは『ケモノヅメ』でした。「ここが魅力」とはっきり言うのはあまりに軽率ですが、強いて言うなら、僕は湯浅監督の作品は“間”がすごく独特だと思っているんです。シーンの終わりどころや、多くを語らないキャラクターといったように、一度では気づかない“間”の演出が様々な点に散りばめられている。そういった、僕の理解を越えていくところがすごく面白くて、気になってもう1回見たくなります。一見するとおしゃれに盛った映像に見えるかもしれませんが、そこには引き算の美学があると僕は思っていて。ちょっと違うかもしれませんが、侘び寂びのようなものを感じられるのがとても好きなんです。

湯浅政明(以下、湯浅)
ありがとうございます(笑)。

斉藤
いやぁ、すみません(笑)。ご挨拶した際は僕も役者として現場に伺っていたので、そこで「ファンです!」とは言えなくて。でも、こうしてご本人を前にして、直接お伝えするというのも恥ずかしいですね(笑)。


――斉藤さんが本作のシナリオを読まれた時の第一印象はいかがでしたか?

斉藤
まっすぐなストーリーだと思いました。というのも、これまで以上にテーマやメッセージ性が強く感じられたんです。今まで見てきた湯浅監督の方向性とはちょっと違うものを提示された気がして、これは面白い作品になりそうだ、と。僕が言うのもおこがましいのですが、湯浅監督のアニメで最初にどれを見たらいいかと聞かれた時に、一番に勧めたい作品になるだろうと思いましたね。それくらい心にストンと落ちてくる、幅広い層に受け入れられるストーリーだという印象を受けました。

湯浅
斉藤さんがシナリオを見た段階では、絵はどれくらいありましたか?

斉藤
出来上がっている部分もけっこうありました。もちろん、これから詰めるというシーンもたくさんありましたが、ルーたちのダンスのシーンは、その時点でも「ここまで動くのか!」と驚きましたね。Flashアニメーションの独創的な迫力がすごくて、この映像に乗って演技ができるのは楽しいだろうなぁと思いました。

――全編Flashアニメーションでの制作というのも本作が異彩を放つ点です。湯浅監督が考えるFlashアニメーションの特徴について教えていただけますか?

湯浅
僕がFlashで気に入っているのは、線が綺麗で滑らかなところです。技術を持った人たちからすると“いかにもFlashっぽい”と感じるようで、鉛筆描きのような線に加工したいとも言われるのですが、僕は逆にその鉛筆では描けない綺麗さが好きで。今のアニメ制作では描いた画をそのままトレースしますが、昔はセルの上からペンで描いていたんです。Flashの線はそれに近いのかな、と思っています。

――制作全体におけるFlashアニメーションの利点は?

湯浅
Flashアニメの場合、本来のアニメ制作で作業が分かれている工程を一人で担うことができます。多くのアニメは、原画から動画や色、撮影、音響といった次段階の工程は、想像しながら進めるほかありません。いざ出来てみて、タイミング等おかしな点が出てきたら、頭に戻ってリテイクして描き直す必要があります。それがFlashなら、その場で背景を合わせて色をつけたものを動かしながら見られるし、もし音があれば音も合わせることができます。普通だったらいくつかの部署を経る仕事を一人でやっているので、個人に「もうちょっとこうしたい」と伝えれば、総合的に見てうまく調整してくれます。その分、一人に預けるウェイトは大きくなりますが、全体のコントロールは格段にしやすくなります。


――制作期間の短縮にも繋がるのでしょうか?

湯浅
作品のテイストにもよりますが、人数がいれば無理な労働をしなくとも作れると思いますね。でも、特に日本には、技術を持っている人がまだまだ少ないんです。それもあって本作は制作に時間がかかりましたが、それでも1年ちょっとくらいです。うちのスタッフ10数人で1年だから、そう考えるとすごく早いんじゃないでしょうか。平面的に動かすことに特化したFlashアニメは国内にも多いですが、本格的に立体的なアニメとして動かす技術がある人は海外にもそんなに多くいません。ですから、まずは技術者の数を増やさないといけませんね。うちのスタジオでも、作り始めた当初は2人しか技術者がいませんでした。でも制作を経て、今は10人以上がFlashを使って作っています。今なお技術は上がっているので、技術が高い人が増えていけば長尺のものもスムーズに作っていけると思います。もともとサイエンスSARUはFlashツールを使ったアニメ作りのスタジオとして設立しましたし、まずこの作品を作ってみて、今はもっと「技術もノウハウも上がっている」と思うので、今後もさらに高い技術の新しい作品を作っていきたいです。

(次ページ:カイ役の下田翔大が急成長!現場での変化は一緒に演じる醍醐味)

■カイ役の下田翔大が急成長!現場での変化は一緒に演じる醍醐味

――今度はキャラクターについて教えてください。斉藤さんはご自身が担当する国夫にどんな印象を持ちましたか?

斉藤
最初にオーディションの連絡がきた時に、「なんとしてでもやりたいので、絶対にスケジュールを空けてください!」と事務所にお願いしました(笑)。国夫は、いつも主人公の横にいる明るい友人というポジションですが、それでいて町や家族のこともよく考えている面白いキャラクターだなと思いました。国夫が絶対にやってはいけないのは格好つけることだろうと思って、オーディションでは飾らずに「絶対に演じたい!」という気持ちをそのままお芝居に乗せました。子供の頃の僕は、どちらかと言うとカイくんのような内気なタイプでした。しかも、ちょっとよくないカイくんというか、斜に構えた子供だったんですよね(笑)。だから逆に、国夫のようなまっすぐなキャラクターをやらせてもらえるのが嬉しくて、「今の自分が国夫を演じたらどうなるんだろう?」とワクワクしました。


湯浅
へえ、子供の頃は割とひねくれていたんだ。

斉藤
はい(笑)。勉強はする子だったんですが、「先生のおっしゃることは論理的に間違っていますよね?」なんて言ってしまうような、大人からすると面倒な子供だったと思います(笑)。十代半ば特有の悶々とした気持ちが強かったんですよね。でもそんな若かりし時期や、まだまだ新人ですけど、これまで歩んできたキャリアがマッチングして、今回、国夫に巡り会えたのだと思います。

湯浅
斉藤さんもおっしゃいましたが、僕は役者さんにはあまり格好つけないでほしくて、演じている感じ出るのが嫌なんです。斉藤さんにはそういうのがなく、明るく爽やかで、軽く聞こえるのですがどこか少し思慮深い声が国夫にピッタリだと思いました。もしかしたら、どこかひねくれているところが思慮深さに聞こえたのかもしれませんね(笑)。国夫はスタッフの中でも人気が高いんです。遊歩のやんちゃなところも聞いてあげるし、大人たちの意見もきちんと受け入れて、その中で今を気持ちよく生きるためにバランスを取っている。すごく大人でいいヤツだな、と思います。

――アフレコの様子はいかがでしたか?

斉藤
カイ役の下田翔大くん、遊歩役の寿美菜子さんと僕の3人は、一緒に収録を行いました。下田くんは普段は声優の仕事をやっていないので大変だろうなと思いましたが、ディレクションが入るにつれて、どんどん声の演技が上手くなって。「こうしたらもっとよくなるんじゃない?」と言われて、素直に「やってみます」と言えるのは最大の武器だと思いますね。カイと国夫が神社で話すシーンがあるのですが、そこで下田くんが「笑いや息遣いをアドリブで入れてほしい」と言われたんです。でもそのディレクションに、下田くんはいまひとつピンとこなかったようで、音響監督の木村絵理子さんが「壮馬くん、1回やって見せてあげて」とおっしゃったんですよ。そこで、僭越ながら僕がお手本をやらせていただいたんです。するとその直後に下田くんのアドリブが変わって! こういう変化は現場で一緒に演じる醍醐味ですから、すごく楽しかったですね。

湯浅
最初は下田くん一人でアフレコをしていたのですが、お二人と一緒に始めたとたんに変わったんです。やっぱり二人のテンションに引っ張られるんですよね。それまでボソボソとしゃべっていたのが、急にテンション高く大きな声でしゃべるようになって、「前のを録り直さないと……」とは思いましたが(笑)。若い分、吸収力が高くて反応が早い。みるみる間に成長していって、中学生の流れる時間の早さを感じました。

斉藤
気持ちでやるというのは、こういうことなんですよね。ケンカのシーンにしても、僕が出方を探っていたら、下田くんのほうからガツンと叫んできてくれて。「だったら僕も」とガッ!と返すことができました。こういうのはナマの掛け合いじゃないと生まれてこないものですから、一緒にやれて本当に良かったなと思います。

――ルーを演じた谷花音さんの演技はいかがでしたか?

斉藤
先に花音さんが収録を終えていたので、アフレコの時に音声の一部を聞かせていただきました。花音さんのお芝居は別のアニメーション作品でも聞いたことがありましたが、ルーもホントにお上手で。可愛らしさと、ある種の得体の知れなさみたいなところのバランスが絶妙でしたね。

湯浅
ルーはすごく天然で可愛い女の子ではあるんですが、実際には何十年、生きているのかも分からないような生き物です。だからしっかりしすぎてもいけないし、単純になりすぎてもいけない。大人が演じたら、しっかりさは出ても単純さがあざとくなるし、幼い子がやると単純さは出ても思慮深さをコントロールできません。そういうところで、花音さんはうまくバランスを保てる方でした。幼くて弱そうに見えるんだけど、ちゃんとしっかりもしている。長く生きたから出てくる気丈さと、可愛らしさの両方の塩梅がとても良かったです。


――ルーのデザインがすごく可愛いですよね。湯浅監督らしいポップさを持ちながら、今までに見たことがない人魚のビジュアルだと思います。

湯浅
それはねむようこさんのデザインの力が大きいです。何度かやり取りをする中でポツンと、今のルーの原型となる絵が出てきて「ああ、これだな」と思いました。いつもはもっと相談を繰り返すことが多いのですが、今回は「これだ」というルーがきたので、そこからはねむさんのその絵を基本にしてキャラクターが出来上がっていきました。面白いデザインを作ってくれましたね。

(次ページ:湯浅「言うべきことは、言ったほうがいいと思うようになった」)

■湯浅「言うべきことは、言ったほうがいいと思うようになった」

――斉藤さんは、『ピンポン』放送終了後の『ルーのうた』特別ミニコーナーにて、ナレーションを担当されています。ナレーションは兼ねてより挑戦していきたい仕事だったそうですが、今回どのような経緯で担当することになったのですか?

斉藤
湯浅監督の作品に役者として携われるだけでも嬉しかったのですが、せっかく糸口を掴んだからには貪欲にいきたいと思いまして、「特番や宣伝まわりのナレーションをやりたいです!」と、とりあえず言ってみたんですよ。僕は割と言霊を信じるほうでして、自分の願望を口に出しておくと、きっと優しい人たちが繋げてくれると思っていて(笑)。そしたら本当にオファーをいただいて、もちろん「やります!」と。そんな流れで僕は今、公共の電波を使って監督への愛を語らせていただいています(笑)。本当に、縁は大事だなと思いましたね。これに限らず、いろんな縁が様々な形で繋がっていくんだなぁと、ありがたみをすごく感じます。

湯浅
ちょっと『夜は短し歩けよ乙女』にもかけてくれているのかな(笑)。これも何かのご縁ですね。


――今後はどんな愛を叫んでいくのでしょうか?

斉藤
最後の「次回もお楽しみに」的な一言は、僕の監督への想いをお伝えしていきます(笑)。こんな感じで一言、という大筋の台本はいただくのですが、それを自分なりに毎回アレンジしています。第1回の「湯浅監督、大好きです!」という部分は、本来なかったものをスタッフさんと協議して僕がねじ込んだ一言でした(笑)。スペシャルムービーは現在再放送中の『ピンポン THE ANIMATION』の合間でも見られるので、アニメ本編とあわせて是非見てみてください。

――これまでの湯浅監督の作品と比較すると、本作は写実的な描写が多かったと思いました。かと言って、もちろんダンスシーンのように湯浅監督らしいポップさもあります。写実性とポップな絵柄を融合させることは、湯浅監督にとって挑戦にあたるような取り組みだったのでしょうか?

湯浅
挑戦というほどのことではありません。自分ができると思ってそのように持っていけば、絵柄はなんでも融合できると僕は思っています。僕はこれまでの作品で、とりわけ昔のほうは“言わない”というのをひとつのテーマにしていました。でも、だんだんそれが分かりづらいなと思うようになってきて、言うべきことは言ったほうがいいんだと考えるようになったんです。特に今回は映画ですし、見る人の分かりやすさを大事にしました。背景をきっちり描いてもらったり、日常描写も多めにやったり。また、町自体が少しキャラクターっぽい部分があるので、日無町をきちんと示してからキャラクターたちのお話に入っていけるようにしようと考えていましたね。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

斉藤
僕のように声優をメインでやっている人だけでなく、下田くんや花音さん、ルーのパパ役の篠原信一さんや千鳥のお二人といった、バラエティに富んだ役者が集まりました。多種多様すぎて「お芝居がバラバラになってしまうんじゃないかな?」と最初は少し思ったのですが、出来上がりを見たらそんな心配はまったくありませんでした。でも、考えてみるとそれは当たり前で、町にはいろんな話し方の人がいるし、様々な考え方があるものです。皆が住人として溶け込んで、日無町のリアリティを生んでいると思いました。オススメのシーンは、やっぱり中盤のダンスシーン。最近よくある応援上映のように、たくさんの人と楽しく見られる方法がいろいろありそうです。皆さんと一緒に劇場で作品を見られる日を楽しみにしています。

湯浅
今回はけっこう音楽もフィーチャーしていますので、劇場の大きなサウンドで楽しんでほしいですし、できれば劇場スタッフの皆さんにはあんまり音を小さくしないでほしいなと思っています(笑)。好きなシーンを挙げると、水や歌などのスペクタクルな描写は面白いですし、カイたち3人がケンカをするシーンも気に入っています。様々な人間模様も、そこかしこでチラチラと見えるようにしてあります。いいところがたくさんある作品だと思いますので是非、映画館で見ていただけると嬉しいですね。