トップへ

米津玄師、夏代孝明、神聖かまってちゃん…2017年春アニメ主題歌で注目のネット発アーティスト

2017年05月18日 13:43  リアルサウンド

リアルサウンド

夏代孝明『トランジット』

 2017年の春アニメも5月に入り、ストーリーは中盤へと突入。主題歌のアニソンも、様々な切り口から話題になるものも多く存在しており、リアルサウンドでもこれまで【『カブキブ!』『ひなこのーと』『世界の闇図鑑』……『けもフレ』主題歌に続くアニソンは? http://realsound.jp/2017/04/post-12055.html 】や【『つぐもも』『恋愛暴君』『ひなこのーと』……今期アニメ注目OPテーマを徹底分析 http://realsound.jp/2017/05/post-12294.html】といった形で紹介してきた。


 アニソンシーンでは、音楽作家と歌い手が素晴らしい科学反応を見せる作品が目立つが、一方、先日の『関ジャム』で紹介されたASIAN KUNG-FU GENERATION「リライト」(『鋼の錬金術師』OP主題歌)のように、アーティスト発のアニメソングからのヒットも存在し、ここ数年では、その役割がネット発のアーティストによるものも少なくない。そこで今回は、インターネットを出自とし、今期のアニメ主題歌を担当するアーティストと、その楽曲について前後編で紹介。前編では、男性アーティストの楽曲を中心に展開する。


・神聖かまってちゃん「夕暮れの鳥」(『「進撃の巨人」Season 2』エンディングテーマ)


 アニメのエンディングテーマに関する情報は事前告知が一切されず、第一話のエンドロールで彼らの楽曲だとわかるやいなや、ネット上は大騒ぎに。しかもそれが神聖かまってちゃんにとって初めての全編英語詞だったこと、原作者の諫山創氏が彼らのファンで、様々なリクエストを送ったうえで作り上げたというエピソードも相まって、さらなる話題を呼んだ。


 アーティストが特定の作品についてレコード会社の垣根を越えるということは時折あるが、それを“レンタル移籍”としてパフォーマンスしバズを起こした手腕も、まさにインターネット発のアーティストならではの上手さといえるだろう。楽曲は神聖かまってちゃんがバラード曲などで時折見せる壮大なアンサンブルに、先述した全編英語詞とボーカル・の子の繊細な歌声が乗っかることで、アニメと抜群に相性も良く、彼らにとっても新境地を切り開く楽曲に仕上がっている。


・佐香智久「フローリア」(『夏目友人帳 陸』オープニングテーマ)


 2009年より少年Tとして動画投稿サイトで活躍し、2012年に佐香智久名義でメジャーデビュー。動画投稿サイト発のアーティストとしてはかなり早めにフックアップされた方で、数々の楽曲でそのポテンシャルの高さを見せながら、2015年にはアニメ『ポケットモンスターXY』のオープニングテーマ「ゲッタバンバン」でさらにブレイク。続編の『ポケットモンスターXY&Z』では「キャラソンプロジェクト総合プロデューサー」を務めるなど、コンポーザー・プロデューサーとしての活躍も著しい。


 そんな佐香は今クール『夏目友人帳 陸』でオープニングテーマを担当。アコースティックギターと透き通るようなボーカルと鍵盤を主体とした素朴なサウンドと歌声で、主人公の夏目貴志とニャンコ先生を軸に織りなすハートフルな物語を彩っている。


・米津玄師「ピースサイン」(『僕のヒーローアカデミア』2期オープニングテーマ)


 インターネット発の男性アーティストを挙げるにあたって、欠かせない存在である米津玄師。前クールの『3月のライオン』エンディングテーマ「orion」は、繊細なプログラミングを主体としたサウンドと感情を絞り出したようなボーカルが特徴的な切ない楽曲で物語を彩ったが、今回はその真逆に振り切るような疾走感のあるギターロックに。少年マンガのオープニングにふさわしいバンドサウンドで主人公・緑谷出久の危ういまでの純真さや誠実さを表現している。


 米津は以前のインタビューで「自分のなかにはまだ、子どもの頃の自分がものすごく強くいて、子どもの頃の自分にお伺いを立てながら音楽を作っている」と話していたが、この楽曲もまた、自身の中にある“少年”へ真正面から向き合ったことで生まれた楽曲なのかもしれない(参考:米津玄師が明かす、“新しい音楽”が生まれる場所「子どもの頃の自分にお伺いを立てながら作る」)。「LOSER」「orion」とテクニカルな面を見せるシングルが続いていたなかで、『ヒロアカ』がきっかけで「ピースサイン」のような楽曲が生まれたのは今後の転機になるのかもしれない。


・夏代孝明「トランジット」(『弱虫ペダル NEW GENERATION』第2クールオープニングテーマ)


 動画投稿サイトで歌い手として高い評価を得てきた、インターネット発の若手男性シンガーとして、いま勢いのあるアーティストの一人が夏代孝明だ。2015年にアルバム『フィルライト』でデビューして以降、シングル3枚でそれぞれアニメ主題歌を担当。その3枚目となるのが『弱虫ペダル NEW GENERATION』第2クールオープニングテーマの「トランジット」だ。同アニメは高校生による自転車競技を題材にした本格的なスポーツ漫画を原作に持ち、少年漫画としてのアツさが男性ファンを、個性豊かな大勢のキャラクターとその関係性が女性ファンを虜にしている。『弱虫ペダル NEW GENERATION』は作中で1年が過ぎ、世代交代以降の世界観を描くもの。"新世代の台頭”をテーマにした作品に夏代が楽曲を提供するというのは、まさにぴったりな人選というわけだ。


 夏代は第1クールのオープニングテーマ「ケイデンス」も担当しており、2クール続けて番組の冒頭を彩っているが、今回の「トランジット」はさらにそこからギアを一段階上げたような疾走感を持つ楽曲。ロックなサウンドと透き通った歌声が感情を高ぶらせ、目まぐるしく変わるオープニング映像とも見事にマッチしている。


 ここまで各アーティストと主題歌を紹介してきたように、今クールはそれぞれの新たな引き出しを開け、転機となりうる楽曲が多いように思える。2010年代前半に頭角を現し、いまキャリアの2周目ともいえる状況にあるアーティストや、彼らに憧れて音楽を磨いてきた若手がクロスする現在がアニソンを通じて確認することができるという点を踏まえて、聴き直してみるのもいいのかもしれない。(向原康太)