2017年05月18日 09:43 弁護士ドットコム
自動車や家電、洋服など、勤務先から自社製品の購入を求められたことはないでしょうか。従業員特典で、安く買えるのであれば、得した気分になれます。しかし、中には購入を強制したり、他社製品の購入に実質的なペナルティーをつけたりする場合もあるようです。
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たとえば、ネットの掲示板には、こんな書き込みがありました。投稿者は、自動車会社に勤める男性。自社ではなく、他社の車に乗りたいと上司に尋ねたところ、「通勤手当がなくなっても良いなら」という条件を出されたといいます。
このほか、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、他社の車に乗ると、会社の駐車場(月額900円)の使用許可が下りないといった投稿が寄せられていました。
いずれも購入を強制はしていません。しかし、他社製品を買うことでデメリットが生じています。こうした制度設計は法律的に問題ないのでしょうか。靱純也弁護士に聞きました。
「会社が福利厚生の一環として、自社製品を割引価格で販売し、従業員に自社製品の購入を薦めること自体は問題ありません。
しかし、会社は一般的に、従業員よりも強い立場にあります。会社が立場を利用して、従業員に自社製品などの購入を強制することは問題です。公序良俗に反する商法として、従業員に対する不法行為が成立したり、売買契約自体が無効になる可能性があります」
過去には、こうした問題が、裁判になったこともあるそうですね。
「下級審の裁判例ですが、商品代金全額の損害賠償を認めた例があります。これは、従業員が、10か月間で合計約18万円の自社製品(健康食品)を購入させられたケースでした。この事案で、東京地裁は次のような判断を示して、原告(従業員)の請求を認めました。
『使用者としての立場を利用して、仕事をさせることにからめて従業員に不要な商品を購入させたものであるから、公序良俗に違反する商法であり、不法行為が成立する』(東京地裁H20.11.11)」
では、通常つくはずの通勤手当がつかなかったり、駐車場が使えなかったりといった、他社製品を買うことでデメリットが生じている場合はどうでしょうか。
「具体的な事情によるので一概には言えません。ただ、支給条件が就業規則等で明確に決められている場合、通勤手当も労働法上の賃金にあたるので、区別を設ける合理性の有無が問題になります。特に、就業規則を変更して、自社製のみ支給とした場合、通勤手当の実費弁償的な性格からみて、合理性を認めることは難しいように思われます。
他方、他社製の車が自社敷地内にズラリと並ぶことは自社製品の信用に影響しかねませんので、駐車場を使用させないことは問題がないとされやすいように思います。ただ、近隣に駐車場を確保することが困難で、ほかに通勤方法がないような場合は、事実上の購入強制として不法行為が成立することが考えられます」
靱弁護士はこのように指摘していました。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
靱 純也(うつぼ・じゅんや)弁護士
大手銀行、製薬会社勤務を経て2004年弁護士登録。交通事故、労働事件、債務整理、企業法務などに幅広く対応。気軽に相談できる弁護士を目指し無料法律相談に力をいれている。
事務所名:あゆみ法律事務所
事務所URL:http://www.ayumi-legal.jp/