2017年05月18日 09:33 弁護士ドットコム
乗用車内でマイナスドライバー2本を正当な理由なく隠し持っていたとして、陸上自衛隊八戸駐屯地の3等陸曹の男性が5月上旬、ピッキング防止法違反の疑いで青森県警に逮捕された。
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報道によると、男性は5月3日午前4時ごろ、青森県弘前市の駐車場に止めた乗用車内で、マイナスドライバー2本を正当な理由なく隠し持っていた疑いが持たれている。市内では空き巣被害が相次いでおり、付近を警戒していた弘前署員が男性を職務質問して発覚したという。
今回の逮捕を受けて、ネット上では「ホームセンターで工具を買って帰宅途中に職質されたら逮捕されるんだろうな」「プラス(ドライバー)なら良いよね?」といった声があがっている。たしかに、マイナスドライバーは身近な工具といえる。どんな場合だと違法になるのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。
「マイナスドライバーを正当な理由なく所持した場合、軽犯罪法違反や、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(いわゆるピッキング防止法)違反の罪に問われる可能性があります。
ピッキング防止法は、正当な理由なく、『指定侵入工具』を隠し持ってはいけないと定めています。「指定侵入工具」とは、カギを破壊するためだったり、建物の出入口や窓の戸を破るために用いられるもののうち、建物への侵入の用に使われるおそれが大きいものとして政令で定めるものです。
マイナスドライバーでも、長さ15センチメートル以上で、先端の幅が0.5センチメートル以上のものは、対象となります(同法施行令第2条1号)。なお、プラスドライバーは対象となりません。
また、ピッキング用具に代表される特殊開錠用具とちがって、指定侵入工具は侵入のためにも使えますが、通常は一般の人が日常生活のために広く利用していますから、業務その他正当な理由がなく、隠して携帯している場合だけが処罰対象となっています。
今回のケースの場合、具体的な状況は不明ですが、助手席に隠して所持していたことや、そのほかの状況から、隠して持っていたと判断された可能性が高いと思われます」
どんな場合に「正当の理由」となるのだろうか。
「社会通念に照らして、指定侵入工具を隠して携帯することが当然認められるような場合は、正当な理由があるということになります。
携帯者の職業や、携帯状況など客観的要素に加えて、携帯者の認識・動機・目的など主観的要素も総合的に考慮して判断されるべきとされています。
具体的には、大工さんが業務のために工具箱に入れて持ち歩く場合、自動車修理に用いるために自動車の工具箱に入れて自動車を運転する場合、機械修理・引っ越し等のために必要があって携帯する場合などは、正当な理由がある例とされています。
もちろん、工具店で購入して自宅に持ち帰る途中での携帯も、正当な理由があるといえるでしょう」
ちなみに、マイナスドライバー以外に注意すべきものはあるのだろうか。
「特殊開錠用具(ピッキング用具など)は、一般の人が日常生活で使用するものとは言い難いので、主に問題になるとすれば、国民が日常生活で使用する可能性が高い、指定侵入工具であると考えられます。
指定侵入工具には、次の(1)~(3)が含まれています。
(1)マイナスドライバー(長さ15センチメートル以上のマイナスドライバーで、ドライバーの先端の幅が0.5センチメートル以上のもの)
(2)作用する部分のいずれかの幅が2センチメートル以上で、長さが24センチメートル以上のバール(いわゆる『釘抜き』も含む)
(3)ドリル(直径1センチメートル以上の刃が附属するものに限る・電動手動を問わない・ドリルに刃を装着していなくても、本体と刃を一緒に携帯していれば対象となる)
したがって、これらの指定侵入工具を、正当な理由なく隠して携帯している場合は処罰の対象となりかねませんので注意が必要です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/