2017年シーズン初の予選Q3進出を果たしただけでなく、中段グループの上位に割り込む7番手グリッドを獲得して周囲を驚かせたフェルナンド・アロンソ。決勝ではマクラーレン・ホンダの今シーズン初ポイント獲得が期待されるなか、1周目の接触でポジションを落としたことが、一時的なポジションダウンに留まらず、後々の戦略と展開に響き、初入賞を逃すこととなった。
――――――――
アロンソ(以下、ALO)「マッサがターン2でタッチしてきた!」
驚異的な快走でフォースインディア勢とフェリペ・マッサを0.1秒の僅差で上回って7番グリッドを手に入れたフェルナンド・アロンソだったが、ポイント獲得を至上命題として臨んだ決勝はスタート直後の混乱の中でコースオフを喫してしまった。
マクラーレン(以下、MCL)「データ上は問題の兆候はない。今P11だ」
レースエンジニアのマーク・テンプルがテレメトリーデータを確認して無事を伝える。まだ入賞の望みが絶たれたわけではない。上位で2台が自滅してくれただけに、ここから挽回も充分に可能だ。
テンプルはアロンソを勇気づけるように無線で語りかけた。
MCL「DRSが有効になった。今P11だ。前でRAI(キミ・ライコネン)とVER(マックス・フェルスタッペン)がリタイアした。MAS(マッサ)も大きく後退している。まだポイント獲得のチャンスは充分にあるぞ」
アロンソと0.5秒差だったとは言え大接戦の予選Q1の中で19位に沈んでしまったストフェル・バンドーンは、最後尾グリッドを受け入れるだけでESとCEを交換してストックを作ることにした。
スタートで15位に浮上し、レースペースも決して悪くはなかった。
MCL「プッシュする必要がある。ありったけのペースで走れ」
レースエンジニアのトム・スタラードにそう指示されたバンドーンは、ただ一人ミディアムタイヤを履いているため前のマーカス・エリクソンに付いていくことができない。
MCL「良いぞ、ストフ。P8の(ケビン・)マグヌッセンと同じペースで走っている」
そう言って鼓舞させようとするが、タイム差が大きいミディアムで長く走るのは得策ではなく、12周目にはピットに飛び込んでソフトタイヤに交換する。
同じ頃、アロンソ陣営もロマン・グロージャンをアンダーカットすべく戦略変更を検討し始めた。
MCL「どのくらい抑え込まれている?」
ALO「かなりだよ」
MCL「タイヤとマシンバランスはどう?」
ALO「判断するのは難しい。前が遅すぎる!」
結局、2ストップ作戦の予定を前倒しして12周目にピットストップを敢行してアンダーカットを狙いに出た。
ALO「フェルナンド、100%のペースをひねり出してくれ。GRO(グロージャン)はまだステイアウトしている。前についていけ。GROとのギャップは22.4秒だ」
しかし1周目にピットインしてミディアムタイヤを捨ててから走り続けているダニール・クビアトに抑え込まれてなかなか抜くことができない。
クビアトは「アロンソはストレートでもコンペティティブだった」とパワーの差がそれほどないことに驚きを見せたが、追い抜きのきっかけを掴めないまま遅いペースに付き合わされているうちに、後方からピットインしたばかりのエリクソンがアロンソを上回るペースで追い付いてきた。
MCL「1秒後方のERI(エリクソン)は8周オールドのソフトだ」
アロンソは28周目にあっさりと抜かれてしまい、チームはふたたび戦略の変更を検討し始めた。
計算上の最速はソフトタイヤを多用した3ストップ作戦だが、アロンソが長く抑え込まれてしまったことからも分かるように、多くのマシンがトラックポジションを優先して2ストップ作戦を採っていた。
MCL「100%ペースで走れ。タイヤの状況を教えてくれ。戦略をアジャストする」
マクラーレンも2ストップ作戦が“プランA”であり、早めに履いて周りより遅くなってしまったソフトをここで捨ててアンダーカットを狙い、残り周回をタレの少ないミディアムで走り切る粘りの戦略を採った。
MCL「ボックス、ボックス。コンファーム」
しかしその直後の33周目、ターン1でバンドーンがマッサと接触してしまい、ストップ。これによってVSCが出され、アロンソと順位を争うはずだったライバルたちがスロー走行中にほとんどタイムロスなくタイヤ交換を済ませてしまった。
これでアロンソは挽回のチャンスを失い15位のまま。レース再開後のペースは悪くないが、ポイント獲得の可能性は絶望的だった。
MCL「良いペースだ、エリクソンとのギャップを縮めている。前には争っている集団がいるぞ」
テンプルが何度も賞賛の無線を入れて鼓舞させようとするが、アロンソは「これじゃ走っていても意味がない」とリタイアの意志を示してきたとチーム関係者は明かす。
なんとか完走させたかったマクラーレンは、戦略変更で最後にソフトタイヤを履いてプッシュさせることを決めた。
MCL「ペースはまだすごく良い。戦略変更を考えているところだ」
実際には3ストップに変更しても順位が下がるだけという計算結果だったが、自主リタイアを訴えるアロンソのモチベーションを維持させるには「新しいソフトタイヤでファステストラップを狙いたい」とソフトタイヤへの交換を希望するアロンソの提案に従うしかなかった。
MCL「オプションとプライムのペース差は予想していた以上に小さい。プランAのままでいこう」
ALO「差はある。もうすぐブルーフラッグが降られるから、その利点を生かそうよ」
51周目にピットインしてソフトタイヤに交換したアロンソは、バルテリ・ボッタスのリタイアによって浮上した14位からマッサに逆転されて15位へと落ちた。
MCL「残り9周だ。最後までマックスペースでいけ。ウイリアムズ勢を捕まえられるか見てみよう」
MCL「MAS(マッサ)より2.9秒速いぞ。彼もブルーフラッグを振られている」
MCL「ナイスワークだ、フェルナンド。次はストロールだ」(58周目、マッサをパス)
そして最終ラップに本人が希望したフルアタックを行ない、ルイス・ハミルトンから0.301秒遅れの4番手タイムを記録してみせた。
マシンパッケージとして、予選パフォーマンスの向上には進化が見えた。レースペースもクリアな状態で走れれば悪くはなかった。
しかしスタートもその後の展開も戦略もVSCも、すべてが裏目に出た。マクラーレン・ホンダとアロンソのスペインGPは真価を発揮しきれないままフラストレーションの溜まるものとなってしまったのだった。