オーバーテイクが難しいカタロニア・サーキットで、スタートでポールポジションから2番手に落ちたルイス・ハミルトンが、逆転優勝できた勝因はレースストラテジストのジェームス・バレスからのマジックコールだったとレース後、トト・ウォルフ(エグゼクティブディレクター/ビジネス)が明かした。
マジックコールが発せられたのは、バーチャルセーフティカー(VSC)が出されたレース中盤だった。多くのドライバーはVSCが出された33周目とその翌周の34周目にピットインした。ピットストップロスが相対的に小さくなるからだ。
ところが優勝争いをしていたセバスチャン・ベッテルとハミルトンは入らなかった。彼らは3番手以下に大差をつけていたので、トラックポジションを優先していたのである。
このときベッテル陣営はハミルトンの動きしか見ていない。ハミルトンがステイアウトすれば、ステイアウト。ピットインすれば、ピットインという戦略だった。
ただし、先頭を走っているベッテルには不利な点がひとつあった。それは後ろを走っているハミルトンがピットインするかどうかは、ピットロード入口を通過した後にしかわからないことだった。
それでも、通常のレースであれば、翌周にピットインすればいいのだが、今回のスペインGPではVSCが出されていたため、状況によっては1周後にピットインした場合、不利を被る可能性があった。そして、メルセデスAMG陣営はそれに賭けた。
状況はこうだ。35周目の段階でベッテルとハミルトンの差は約7秒あった。36周目に入ろうとしていたとき、VSCがもうすぐ終了するという掲示が出される。
ここでベッテルはコントロールラインを通過。しかし、7秒後方にいたハミルトンに対してレースストラテジストのバレスは「ピットイン」の指示を出した。
「レースが通常に進行されている状態でピットストップを行うと、バルセロナの場合、約21秒のロスになる。しかし、VSCになると本コース上を走行している全員、スピードが遅くなり、ピットレーンを通過するスピードは変わらないので、相対的にピットストップのロスはかなり少なくなる。正確な数字はわからないが12秒とか13秒だろう。つまり、8~9秒、得をする」
VSCが解除されたのはハミルトンがピットロードを走行していたとき。ベッテルはメインストレートエンドにいた。つまり、メインストレート1本分、VSCの速度で走行したベッテルは、翌周全開でストレートを通過するハミルトンに対して、不利を受けることとなった。
しかし、その時点でソフトしか履いていなかったベッテルはもう1回ピットインしなければならなかったため、翌37周目ピットインすることを決断。7秒以上あった2人の差はなくなり、ピットアウトした後、1コーナーでサイド・バイ・サイドとなり、7周後の44周目にソフトタイヤを履くハミルトンがミディアムタイヤを履くベッテルをオーバーテイクして逆転に成功した。
ただし、この時点で残り周回数は22周あった。36周目にソフトタイヤに変えたハミルトンは、チェッカーフラッグまで30周を走らなければならず、タイヤが持たない可能性があった。
そのタイヤマネージメントをしっかりと行ったハミルトン。マジックコールに負けない、マジックドライビングだった。