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星野源を“ぶっ通し”で見るーーベスト的MV集から追う、スターダムへの軌跡

2017年05月16日 18:43  リアルサウンド

リアルサウンド

星野源

 5月17日に星野源が自身初のMV集『Music Video Tour 2010-2017』を発売する。昨年、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』への出演と主題歌「恋」の大ヒットを経て、今や国民的シンガーとなった彼の、2017年初のリリースものとなる本作。ソロデビュー曲「くせのうた」から「恋」まで全13曲(プラス特典映像2曲)を収録し、なんと総尺4時間にも及ぶ長編となっている。


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 注目すべきはその構成。それぞれの作品の撮影エピソードや裏話を星野自身が解説しているほか、途中、「夢の外へ」「化物」に参加したダンサーの井手茂太(イデビアン・クルー)や、「SUN」「恋」の振り付けでもおなじみのMIKIKO(ELEVENPLAY)らがゲストで登場。星野とトークを展開するなど、さながらTV番組のような作り込みがなされている。収録楽曲だけを見ればベスト盤的な要素はもちろん、“飽きずにぶっ通しで見続けられる作品”として、単にMVだけを集めたパッケージとは一味違う、星野源というアーティストを隅々まで堪能できる仕上がりだ。


 タイトルの“ツアー”というワードが象徴するのは、星野源のこれまでの歩み。デビュー曲から時系列に沿って収録していくことで、表現や音楽スタイルの変化、スターダムへと駆け上がっていくさまを、つぶさに見ることができる。特に映像表現に関しては顕著で、初期はシンプルな弾き語りが主だったところを、ストーリー性を含んだ映像として楽しめるものへ。時には全編アニメーションと大胆な手法も用いながら、今や星野源の代名詞ともなりつつあるダンスへの開眼と、新しい表現を求め、爆走していく星野の姿が映し出されていく。


 作り手に着目してみるのも興味深いところで、発表順に並べたことで星野源が代表を務める映像制作ユニット「山田一郎」、映画監督の沖田修一、そしてMV界を代表するクリエイターの関和亮など、それぞれの作風の違いを感じられる仕掛けに。本編を見た後、特典映像に収録されたメイキング風景を見ると一層の感動を味わうことができるだろう。


 撮影の際には企画段階から携わり、現場では監督に積極的にアイデアを出し、時には編集までこなすこともあるという星野。一般的にMVは新曲の宣伝目的で制作されることがほとんどだが、本作を見るにつけ、星野にとっては楽曲に込めた想いを耳以外からも伝える手段であることがわかる。楽曲をただ演奏する、歌うだけのものにする気は、きっと初めからさらさらないのだ。本作はそんな星野の姿勢とあふれ出るMV愛を改めて感じられる作品ともいえるだろう。


 冒頭、本作をTV番組のようと書いたが、どちらかと言えば長年彼が携わっている深夜ラジオに近いかもしれない。ユルい。とにかくユルい。何しろMV本編よりも中の人との気の置けないやり取りの方が長いくらいだ。しかし、だからこそ星野源という人の素の表情を捉えており、通常のMV集にはない満足感が得られることも事実。特典映像はライブでおなじみの“ニセ明”がナビゲートするなど、彼らしい遊び心も発揮されている。デビュー当時から応援している古参にはもちろんのこと、近年の大ブレイク以降新たに加わったがファンにとっても入門編的に楽しめる作品であることは間違いない。


 今月から始まる初のアリーナツアー『Continues』は全公演ソールドアウト。止まることを知らない星野源フィーバーに、またひとつエポックメイキングなアイテムが出現したことを心から歓迎したい。(渡部あきこ)