トップへ

パスピエはライブバンドとしての強さを得たーー“音楽的DNA”表現したツアー最終公演

2017年05月16日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

パスピエ(撮影=Yosuke Torii、Miku Nakajima)

 高度な音楽理論に支えられたアレンジと80sニューウェーブを経由して2017年のポップミュージックへと導くセンスがひとつになった楽曲、卓越したプレイヤビリティを融合させたバンドサウンド、そして、現代アートにも通じるハイセンスな映像。最新アルバム『&DNA』を伴った全国ツアー『パスピエ TOUR 2017“DANDANANDDNA”』のファイナルとなるNHKホール公演(5月7日)でパスピエは、自らの音楽的DNAをこれまででもっとも直接的に表現してみせた。その最大の要因はメンバーの5人の個性がしっかりと活かされ、バンドとしての力強さが大幅に上がっていたことだ。


(関連記事:パスピエが表現した、バンドとしての“最新バージョン” 「5年間の遺伝子が形になってきた」


 床、背面を含め、全体が真っ白に染められたステージに最初に登場したのは、大胡田なつき(Vo)。まずはステージ前方に置かれたプロジェクターで“リキッドライティング(オイルアート)”を披露。ステージ奥の白いスクリーンに赤、青、黄色などのビビッドな色が生き物のように動き、カラフルかつポップな映像が生まれる。そこにツアータイトル「DANDANANDDNA」という文字が浮かび上がり、メンバーも姿を見せる。オープニングは『&DNA』の起点になったシングル「ヨアケマエ」。さらに遊び心たっぷりのアレンジが楽しい「ギブとテイク」(3rdアルバム『娑婆ラバ』)、「とおりゃんせ」(2ndアルバム『幕の内ISM』)、「永すぎた春」(4thアルバム『&DNA』)、「チャイナタウン」(1stミニアルバム『わたし開花したわ』)とこれまでのキャリアを一気に突き抜けるようなラインナップが続く。ライブアンセムのひとつである「チャイナタウン」をライブ前半に披露できるのも、いまのパスピエの強さだろう。


 「(満員の会場を見て)こんないい眺め、なかなかないよ。正直、超嬉しいです。『&DNA』というアルバムを作って、いま私たちがやりたいこと、表現したいことを表現できたと思っていて。今日は私たちの遺伝子を生で感じて楽しんでもらえたらいいなと思います!」(大胡田)という挨拶のあとは、『&DNA』の楽曲が次々と披露される。ここで印象的だったのは、メンバーひとりひとりの個性が発揮されていたこと。「やまない声」における露崎義邦(Ba)のメロディアスなベースソロ(複雑なフレーズにも関わらず、手元をほとんど見ない)、やおたくや(Dr)の骨太なグルーヴが炸裂した「ああ、無情」、三澤勝洸(Gt)のタッピング奏法によるフレーズに導かれた「DISTANCE」。優れたプレイヤーであるメンバーの技術とセンスが前景化し、バンドとしての魅力が格段に上がっていたのだ。アルバム『&DNA』のインタビューの際に成田ハネダ(Key)は「“バンド・パスピエ”が出来る、いちばんソリッドな音作りを意識して。このメンバーで出し得る、いちばん新しくて、いちばん良いものが今回のアルバムだと思います」と語っていたが、そこで得た手応えはライブにもダイレクトに反映されていた。


 今回のツアーのためにリアレンジされていた「S.S」も素晴らしかった。ポストパンク的な手触りのサウンドでインパクトを与えながら、楽曲の途中でいきなりブレイクし(メンバーも動きを止めてました)、演奏陣全員のソロに突入。オーディエンスもメンバーの名前をコールしながら、楽しそうに盛り上がっていた。この日のライブでは映像、レーザーなどもふんだんに使われていたが、その中心にあるのはあくまでも音楽。パスピエのアレンジ力、演奏力が発揮された「S.S」からは“演出やMCに頼らず、バンドが生み出すサウンドと音を通してコミュニケーションを図りたい”というメンバーの意志がはっきりと感じられた。


 緻密なアンサンブルとアイドルポップ的なメロディがひとつになった「おいしい関係」からライブは後半へ。「メーデー」「ハイパーリアリスト」などアルバム『&DNA』に収められたアッパーチューンが重ねられ、会場のテンションも一気に上がっていく。大胡田のステージングも絶品。バレエと日本舞踊を合わせたような美しい動きを見せながら、ここぞという場面では観客を煽りまくる彼女のパフォーマンスは、既存の女性ボーカリスト像にはまったく当てはまらない、独自のスタイルを確立している。ちなみに筆者はここ5年、東京で行われたパスピエのライブはほとんど観ているが、大胡田のボーカルに対して「今日は調子良くないな」と感じたことは一度もない。繊細そうなルックスとは裏腹に(?)じつは相当にタフなボーカリストなのだと思う。


 成田のトラックメイカーとしての資質と生々しいバンドグルーヴが融合した「スーパーカー」でライブ本編は終了した。アンコールでは「シネマ」「最終電車」を演奏。会場の照明が付けられてもコールは止まず、再びステージに登場したメンバーが「フィーバー」を披露し、ツアーはエンディングを迎えた。


 ライブ中のMCで、成田は「今回はライブハウスとホールをミックスしたツアーだったんだけど、みんなの顔を見てると、どこでどうやるとか、場所は関係ないなと思いました」と語った。きわめて質の高い演奏センスだけではなく、パスピエはライブバンドとしての強靭さも身に着けつつある。今回のツアーを通して5人は、そのことを明確に証明してみせた。なお、今回のNHKホール公演の映像を収録したライブDVD『パスピエ TOUR 2017 "DANDANANDDNA" -Live at NHK HALL-』が8月23日にリリースされることが決定。こちらもぜひチェックしてほしい。(取材・文=森朋之)