2017年F1第5戦スペインGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが優勝。リバティ・メディアに変わったことで少しずつだがTV放送の改革が進んできている。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がスペインGPを振り返り、その深層に迫る──。
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「レーシング・ドラマ」がコース上だけでなく、観客席やフェラーリのモーターホーム内でも見られたF1スペインGP。スポーツの烈しさ、哀しさ、愛おしさまでが描かれた。
国際TV画面にある変化があったのは金曜FP1。いきなりフェルナンド・アロンソが2周目にエンジン・ブローでストップ、その後ピットに戻る姿が分割画面(ワイプ)で映し出された。細かいことだがこれはいままでのFOM制作映像にはなかった。
今年からリバティ・メディア社が全権を握るようになって、少しずつだが確実に変革は進んでいる。
レース終盤に突然、スタート直後に起きたキミ・ライコネンの1コーナー接触事故のリプレイが流され、スタンドで涙ぐむ少年トーマス・ダネル君の姿が……。
画面が切り替わると、フェラーリのモーターホーム内でライコネンに迎えられた少年の笑顔が映った。招いたチームもリタイアしたライコネンも素晴らしい“神対応”だ。
それをレース画像から離れてあえてオンエアした演出も、いままでの中継では考えられないことだ(個人的にとても驚いた)。
サーキット内で「ファン・フェスティバル」を開き、ふだん裏方を務めるオフィシャルの方々とドライバーたちの「ボランティア・デイ」を設けるなど、オープンで開かれたF1イベントづくりが目立つ。
まだ金曜のスタンドは寂しかったが日曜は昨年より観客動員数が増え、アロンソとカルロス・サインツJr.への声援もかつての超満員時代に近かった。
レースに戻ろう。1コーナーで起きたバルテリ・ボッタス+ライコネン+マックス・フェルスタッペンの事故に関して、スチュワードのトム・クリステンセンは何らペナルティを科さなかった。
ル・マン24時間王者の彼はこれまでも公平で適切なジャッジをしてきている。今年からゆるやかな罰則判定の新方針に変わり、ペナルティが乱発されるケースが減っている。
レースの本質を損なわないぎりぎりのプレーであれば、バトルする自由と権利をドライバーたちに委ねるべきだ。
38周目、ピットアウトしたセバスチャン・ベッテルと追い上げてきたハミルトンの1コーナー接触もおとがめなし。
その前、25周目のベッテル対ボッタスの攻防も1コーナー進入時にフェイント・アクションをとり、ラインを変えたベッテルに「アウト(!)」の判定はなかった。
00年代以前にはこうした緊迫プレーがあちこちで見られ、ドライバー力の差異がはっきり分かり、個性やキャラクターがアピールされた。
一方で中盤にバーチャルセーフティカー(VSC)導入のきっかけを作ったストフェル・バンドーン対フェリペ・マッサの接触には、ペナルティが科された。
2台の位置や角度、あらゆるデータを基にしたジャッジは尊重される。知見を持ったドライバー経験者にはこれからも「バトルの線引き」を明確に、また個人差なく、公平な判断を望みたい。
終わってみればトップ3だけが同一周回、4位以下すべてラップダウンは最近とても珍しい結果だ。
3位ダニエル・リカルドも1位ハミルトンから1分12秒330遅れ、もう少しで周回遅れにされそうだった。14年モナコGPでトップ4が同一周回、さかのぼると08年イギリスGPがトップ3だけだった。
新PUに変わってからシーズン4を迎え、初めて2強メルセデスとフェラーリが鬩ぎあう緊迫感が66周に充満していた。
彼らに離されてもフォース・インディアが先頭の“中間6チーム勢力争い”が勃発。ヨーロッパ・ラウンドに進むシーズン4はいよいよ『抗争の夏』へ。その前哨戦モナコGPにアロンソはいないが、最下位ゼロからの脱出をマクラーレンに切望する――。