キレるのは若者、というイメージは今や昔。近頃は、中高年が理不尽にキレるという話を随所から聞こえてくる。5月14日の読売新聞に掲載された投書でも、接客業で働く10代女性が、「若い人に比べ、中高年のお客さんはキレやすく、対応に困ります」と悩みを相談していた。
「私はテレパシーが使えるロボットでもなければ、誰かの奴隷でもありません」
「上司は『何か言われたら、とりあえず謝れ』と言いますが、落ち度がないのに、なぜ謝る必要があるのかと思います。こういうお客さんにどう対応すればいいでしょう」
名前の読み方を確認しただけで怒鳴られた、という体験談も
この投書はネットでも話題になり、ツイッターでは若い世代を中心に「わかるー!」「ほんまこれ!」と共感を呼んでいる。ガールズちゃんねるでも多くの人が体験談を語っており、
「名前の読み方がいくつかあり、確認しただけであり得ないくらい怒鳴られた事あるよ。アホかよと、思った」
「レシート渡そうとしたら、手首くるっとして受けとらん人も入れば、聞くだけで怒る人や渡したら怒る人……色々過ぎて」
など、その例は枚挙に暇がない。あまりの理不尽さに、裏でひっそり泣いた経験があると打ち明ける人もいる。
「そんな時代だと思って頑張って」は理不尽の再生産ではないのか
投書に回答したのは、中央大学の山田昌弘教授だ。山田教授は、年齢問わずこうした些細なことで怒鳴ったり理不尽な要求をする人が増えていると前置きし、
「謝るのも仕事の一部、キレる人は本当にかわいそうな人と感情労働でやり過ごす。そんな時代だと思って頑張ってみませんか」
と投稿者を励ました。しかしこれに対してネット上で批判が渦巻いている。
感情労働だと言うなら、その分の特別手当も要求する必要があるという声や、大学教授がそれを推奨するのはふさわしくないのでは、との指摘だ。
感情労働とは、顧客に特定の感情状態を作り出すために、従業員が自分の感情をコントロールすることが必要な労働を言う。客室乗務員や看護師、コールセンターのオペレーターなどがその典型例と言われている。
この概念を提唱したアメリカの社会学者ホックシールドは、感情労働は労働者の心理的負担を増やし、精神的な変調をもたらすと指摘している。それにも関わらず、投稿者を「感情労働だと思って頑張って」と励ますのは何の解決にもなっていないどころか、理不尽の再生産にも見える。ツイッターでは
「感情労働というレッテル貼りで接客業に不必要な我慢を強いるのは良くない。理不尽なことを言う人は客ではないというスタンスを組織で共有することが必要」
と、投稿の悩みに対する他の対応策案も出ていた。