2年目のGP3に挑む福住仁嶺は、開幕ラウンドのバルセロナを最高のかたちでシーズンのスタートを切ったといって良いだろう。
開幕前テストから「プッシュしたらプッシュしたぶんだけタイムが出るという感じ」と好調だった福住は、バルセロナ初日のフリー走行でも2位に0.3秒以上の差を付けるトップタイム。
予選でも「当然ポールポジションが獲れると思ってました」というほど余裕があったが、アタックミスを犯して2番グリッドとなりポールの4ポイントをのがしてしまった。
「本当は余裕でポールポジションが獲れるはずの速さがあったはずなのにミスをしてしまって、それでも2番グリッドにつけられたのもラッキーでした」
土曜午後のレース1は、スタートで好発進を決めてあっという間にポールのジャック・エイトキンを抜き去ってホールショットを奪った。
「実はスタート練習ではずっと良くなかったんです。フォーメーションラップに出て行く時のスタートも全然ダメで、ヤバいなと思って自分なりに意識していろいろとやってみたら、それが上手くいって去年みたいな良いスタートが切れたんです」
そこからはエイトキンとの一騎打ちになった。ずっと1秒以内で後ろにピタリと付かれていたが、今季からGP3マシンにも搭載されレース1は6回、レース2は4回使用できることになったDRSを使った攻防も上手くかわし、同じく今季から設計が一新されてデグラデーションが増えたタイヤも上手くマネージメントしてみせた。
エイトキンが16周目にターン5でブレーキペダルに問題を抱えてピットに戻りリタイアしてからは、後続を5秒以上後方に引き離したまま開幕戦で独走優勝を果たした。
「僕もタイヤマネージメントをしながら攻めるべきところは攻めていたんですけど、もしジャック(・エイトキン)がリタイアしていなかったら最後までついてきていたと思います。後ろが近付いて来て『ちょっと厳しいかなぁ』って思った時もあったんです。残り5周はどうなるかなってちょっと恐かったし、それを考えながらタイヤマネージメントをしていました」
F1と併催されるGP2(今年からはF2に名称変更)、GP3を含めても、最も実力が問われるレース1で日本人ドライバーが優勝するのはこれが初めてのこと。
開幕戦から『君が代』を響かせた福住の力強い走りに、ホンダ関係者のみならず昨年のチームメイトで今年FIA-F2を戦うシャルル・ルクレールやアレックス・アルボンもパルクフェルメまで祝福に駆けつけた。
「今日一番嬉しかったのは『君が代』が流れたことですね。それが本当に一番嬉しかったです。去年のチームメイトのアレックス(・アルボン)とチャールズ(シャルル・ルクレール)も表彰台までお祝いに来てくれたし、本当に嬉しかったです」
翌日の日曜午前のレース2では、リバースグリッドで8番手からのスタート。ここでも好発進を見せたものの、ターン1で狙ってアウト側に行くと前では3ワイドの争いになっていてスペースがなかった。
「今日もスタートは良くて、前の3台の中でも一番良かったと思います。でも前の1台の蹴り出しが遅くてゴチャゴチャしていたので、僕のスペースがなくなってしまったんです。ターン1は他のレースを見ていても外から抜いているドライバーが多かったので、僕もアウト側にいってスピードを落とさないように意識してアプローチしました。結果的にはポジションを守るかたちになったんですけど、あそこで順位をキープできたのは良かったと思いますし、次の周にひとつ順位を上げることもできましたしね」
2周目にレオナルド・プルチーニにターン3のアウト側から並びかけ、コーナーの出口でイン側に切り返して豪快にオーバーテイクを決めて7位に浮上。しかし、そこからは2位から福住まで6台が数珠つなぎで膠着状態に陥ってしまった。
「タイヤマネージメントをしていて、最初のうちはあんまりプッシュしないで接戦のバトルはしないようにしていました。無線で『残り5周』っていうのが2回あって『あれ?』って混乱したのもあって、(残り5周だと勘違いして)DRSを使うタイミングがちょっと早かったんです」
純粋なペースは福住の方が速いように見え、たびたび前のジョージ・ラッセルに仕掛けるチャンスが訪れる。8周目にはDRSを使ってターン1で仕掛けるが抜けず、13周目には前走車抜こうとして失敗しターン2の立ち上がりが遅れたラッセルにターン3でアウトから並びかけたが、ターン4でアウトに膨らんでしまいオーバーテイクはならなかった。
「前のジョージが失敗して抜けそうなときが何回かあったんですけど、同じチーム同士だとDRSがあってもなかなかくっつけないというのが多かったですね。彼がミスしたときにターン4で抜けそうだったんですけど、僕の出口のスピードが速すぎてはみ出してしまって。でもトライすることが大事だと思いますしね」
16周目にラッセルに続いて前のラウル・ハイマンを抜いて6位に浮上し、そのままチェッカーを受けた。
レース1で優勝し、レース2では抜きにくいGP3でリバースグリッドから2つ順位を上げて6位。シーズン全体のことを考えれば、上出来すぎるくらいの開幕ラウンドだった。
「全体的に落ち着いて走ることができたし、良かったと思います。レースの流れの作り方というのがあると思うんですけど、そのへんが少し良くなってきたかなとも思います。前が争っているのを見ていて、まだチャンスはあるなと思っていたんですけど、そうこうしているうちにバトルが落ち着いちゃって……それでも少しずつポイントを獲っていくことが大事だと思っていますし、チャンピオンシップをリードして次のレースに行けるのはポジティブだと思います」
昨年は精神的な弱さが課題とされていたが、今年の福住は一発の速さで他を圧倒し、レースでも冷静さとアグレッシブさを上手く共存させている。
唯一の不安材料だったタイヤマネージメントも、ハードタイヤのバルセロナでは上手くこなしたが、ソフトタイヤの次戦レッドブルリンクでどこまでやれるかが課題だ。
福住はGP3チャンピオンに向けて好発進を切った。本人はそれを意識しているのだろうか?
「いや、あんまり気にしてないです。そこはあまり意識しすぎない方がいいかなと思っているんで。レース1で勝っただけではまだ充分ではなくて、レース2もポイントを落とさないように戦う。今シーズンを通してこういうレースをしなきゃいけないと思っています」
開幕ラウンドを終えて4ポイント差でランキング首位に立った福住は、間違いなく今季のGP3のタイトルコンテンダーになりそうだ。