2017年05月13日 11:24 弁護士ドットコム
いま、低賃金の保育士、介護職の女性や女子大生たちが、奨学金返済、学費の支払いのために夜の世界で働いているという。しかし、ダブルワークをしていても、キャバクラでありがちな即日解雇、罰金制度、給料未払いなどで入金が絶たれれば、途端に生活が立ち行かなくなることもある。
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そんな夜の世界で働く人たちの相談を専門に受ける個人加盟の労働組合「キャバクラユニオン」(東京都渋谷区)が結成されたのは、2009年のこと。これまで、どんな相談が寄せられ、どんな解決をはかってきたのか。「キャバクラユニオン」の布施えり子さんに聞いた。
ーーどのような方からの相談が多いのでしょうか
相談を寄せる9割の方が、スナックを含めてキャバクラ関係で働く方です。残りの1割は、飲食店勤務など他の業種の方で、いずれもほとんどが女性です。
キャバクラの案件では、1000件以上のキャバ嬢の相談をもとに、これまでに200軒と交渉、解決に至りました。中には、リピーターとなるお店もありますので、一軒のお店で4人の従業員が未払いということもありました。
ーーネットでの発信も積極的ですね
相談は、メール、ツイッター、ブログなど、半数以上がネット経由で寄せられています。職業柄、深夜に相談される方も多いので、公的な機関よりも相談しやすいのではないでしょうか。いま現在は、週に4回、15時~21時の間、電話や事務所まで来所いただいていますが、やはり夜間のほうが多いですね。
ーーどのような相談内容が多いのでしょうか
圧倒的に多いのが、辞めた月の未払いです。キャバクラでは即日解雇や不当解雇も多いですので、自主的に辞めたケースに限らず、この未払いが起こります。
2番目に多いのが、解雇です。即日解雇が本当に多いんですね。解雇予告手当も払わず、些細な理由で解雇を言い渡してきます。たとえば、キャバクラでは時給の話をほかの子とするのはタブーなのですが、「時給の話をしただろ」と言ったり、「インフルエンザになった」「妊娠した」という理由だったり、解雇理由はめちゃくちゃです。
3つ目が、減給ですね。時給3000円だったはずが、いつの間にか途中で2500円に下げられていた。事前に言われることもなく、お給料をもらって、初めて気づくというケースですね。さらに、キャバクラと独特の「罰金」システムがあり、給与明細を開いたら、時給を下げられていた、罰金がついていたなど、思いがけず少ない給与になっていることもあります。
ーーそもそも、女性と店とは、どのような契約をしているのでしょうか
多くの場合、入店の際の契約書が、女性の手元に残されていません。労働実態から言って、業務委託と呼べるケースはほとんどなく、雇用されていると考えるべきものですが、契約書がないために交渉が難航する側面はあります。
ーー「罰金」というのはどういうシステムなんでしょう
当日になって休みの連絡を入れる「当欠罰金」で2万円。無断欠勤をする「無欠罰金」は4万円になる。1秒遅れただけでもとられる「遅刻代」は3000円。そんな罰金をもうけるお店はざらにあります。
でも、これは本来法律違反ですよね。罰金制度をもうけるなら、従業員協定を結ぶ必要がありますが、そんな店はありません。また、罰金の金額自体も法律で定められた上限がありますが、これも無視された金額になっています。
ーー相談を受けたあと、ユニオンでは、どのように動くのでしょうか
まず「組合に入りました」という通知を店に送ります。「誰々さんが組合に加入されましたので、以後は、彼女と個別に話さないでください」という内容です。あるいは事前に電話をし、書面の内容を説明した上で、送付することもあります。
ーーすんなり進みそうもないですね
すぐに交渉に応じるお店は、半数ですね。残りは「自分のところは悪くない。話し合いはしない」「じゃあ、裁判でやれ。労基署でも行ってくれ」「未払いはない。悪いのは、その女の子のほうだ」と言ってくることが多いように思います。
キャバクラユニオンを結成したのは2009年ですが、しばらくは知られていなかったので、店側にも無視されてばかりでした。ここ最近になって、キャバクラ業界でも知られるようになり、「本当に来るんだね」と言われることもあります。
ーー交渉に応じてもらえれば、すぐに支払いにつながるのでしょうか
交渉に応じてくれた場合でも、「残業代、深夜割増は支払いたくない」ということが多いです。お店側の理屈としては、「もともとが深夜営業をする業態なのだから、深夜割増は払う義務はない」と。ただ業態に関係なく、22時以降は本来、深夜割増を支給する義務があります。またキャバクラでも、朝まで営業するお店もありますので、当然労働時間が長くなれば、残業代を請求できるのです。
ーー交渉に応じてもらえない時には、どう対応をするのでしょうか
地域によっては、「争議」を行います。ご本人を含め、組合から10人ほどで行き、お店の周りで、ビラをまいたり、未払いであることを大きなメガホンで喋ったりします。
突然行くわけではなく、「このまま交渉しないなら、争議権を行使することになる」と通告しても、「やるならやれ」と。争議中に「もうやめてくれ」というケースもありますが、中には10回以上、争議を続けたこともありました。
ーーこれまでに金額が多かった事例はどのような事例がありましたか
キャバクラに勤務していた女性が、約150万円を得たケースがあります。この方は経営者から強姦未遂の被害にあっていたため、慰謝料のほか、深夜割増手当などが支払われました。
ーーこれまで200軒以上と解決したとのことでしたが、解決に至らないこともあるのでしょうか。
残念ながら、あります。解決するケースが8割ありますが、2割は解決しません。お店を完全に閉じてしまい、経営者と連絡がつかなくなるケースが多いですね。また、私たちは組合なので、代理権がありません。交渉には、必ずご本人も出席しないといけないのですが、実家に帰ったり、留学するなどして、事務所や店に行けなくなるケースもあります。
ーー相談を受けてきた中で、夜の世界で働く女性たちの姿から、何か見えてくることはありますか?
夜の世界で働く目的は、ブランドバッグや貯金のためというイメージがあるかもしれません。でも、今はそういう方は少なく、代わりに生活費のために働く人が多くなっています。ひとり暮らしをし、さらには学費や奨学金を支払うと、昼職だけでは足りないこともあり、昼と夜のダブルワークする女性はすごく多いですね。
アパレル、美容師、介護職、保育士の方々は、月収が10万円代という方も珍しくありません。奨学金の返済を抱えていたら、生活はより厳しくなります。また、アパレルの方は、自社製品を買うためにキャバクラで働かざるを得ない方もいましたね。
学生さんの場合は、昼は学業のためバイトはできません。そこで、学費や生活費を払うため、早朝にマック、昼は学校、そのあとはキャバクラで働く方もいました。こうした方々にとって、1ヶ月分であっても未払いがあると、一気に生活が成り立たなくなります。
しかし仮にそのような目にあっても、泣き寝入りせず、私たちのようなユニオンを通して交渉して欲しいと思っています。
(弁護士ドットコムニュース)