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ティーンムービーの活路は「ラブ」や「感動」ではなく「笑い」にあり? 『帝一の國』好調の理由

2017年05月12日 13:23  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2017フジテレビジョン 集英社 東宝 (c)古屋兎丸/集英社

 ゴールデンウィーク最後の週末となった先週末の動員ランキング。『美女と野獣』『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』、『ワイルド・スピード ICE BREAK』のトップ3は不動。特に『美女と野獣』は土日2日間で動員62万9000人、興収8億9300万円と絶好調で、今週の5月10日(水)の時点で累計70億円を突破、今週末にも『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(昨年11月23日公開)の持つ累計73億円を超えて本年度ナンバーワン・ヒットの座を手中にする見通しだ。


 今週注目したいのは、前週初登場4位、先週末も5位につけている『帝一の國』。先週末の動員こそ公開直後の同じ東宝配給作品『追憶』の後塵を拝したかたちとなったが、ゴールデンウィークを通してトップ3に後ろにピタッとつけて、高推移を維持してきた。本作の成功を、いくつかのポイントから考察してみたい。


 昨年、実に9作品もの作品に出演してきた菅田将暉にとって、『帝一の國』は1月に公開された『キセキ –あの日のソビト-』に続く今年2本目の主演作。『キセキ –あの日のソビト-』も最高位こそ2位止まりだったものの、息の長いヒットを記録。昨年から実写邦画、中でも多くのティーン向けの作品の苦戦が続く中、菅田将暉が主演する作品はコンスタントにヒットを飛ばしていて、今回の『帝一の國』のヒットによって、現在若手で最も「客が呼べるスター」としての地位を確立したことになる。


 『帝一の國』には菅田将暉のほか、野村周平、千葉雄大、永野芽郁ら近年のティーンムービーを支えてきた若手俳優たちも数多く出演。作品のジャンルとしては「コミック原作」の「コメディ映画」ではあるが、その観客層はほぼ10代に限定されてきた近年の恋愛もののティーンムービーと完全に重なる。実際、今週のウィークデイの夕方に東京・渋谷の劇場で鑑賞してみたが、客席は放課後の高校生たちでほぼ満席。劇場には女子のグループだけでなく、男子のグループやカップルもたくさんいて、場内では最初から最後まで笑い声が絶えなかった。


 監督は、ソフトバンクの一連のCMや、宇多田ヒカルが出演した「サントリー天然水」のCMなどの演出でも知られる永井聡。これまでも市川準、中島哲也、吉田大八らを筆頭にCMディレクター出身で売れっ子となった監督は数多くいたが、『帝一の國』における永井のケレン味溢れる演出手法は、CMにおける手法をそのまま映画に持ち込んだ、その思い切りの良さにおいて際立っている。その極端にデフォルメされたコメディ演出とテンポの良さもまた、『帝一の國』がヒットしている要因の一つに違いない。


 近年の日本の映画界では、映画のヒットの法則として、「感動した」「泣いた」といった感動系の口コミがいかに広まるかが重要視されてきて、テレビのCMでも上映中に涙を流す観客の映像などが多用されてきた。しかし、このところは『君の名は。』を筆頭とするアニメ作品がその役割を引き継いでいる一方、若者向け実写映画では「感動」推しの恋愛作品よりも「笑い」推しのコメディ作品の方が「ヒット打率」においては上回っている。以前、「『ティーンムービー』ブームの終焉が示す、日本映画界と芸能界への教訓」において、主に「供給過多」を原因とする現在のティーンムービーの苦境について触れたが、『帝一の國』の好調は、女子をターゲットとした「ラブ」や「感動」ではなく、両性にアピールする「ライトな笑い」が今後のティーンムービーの活路となることを示しているのかもしれない。(宇野維正)