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「成長事業を止めてでも不採算に対応する」三越伊勢丹HD新体制はコストコントロールを強化

2017年05月10日 19:54  Fashionsnap.com

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取材に応じる杉江代表 Image by: FASHIONSNAP
三越伊勢丹ホールディングスが5月10日、2017年3月期の連結決算説明会で中期計画の振り返りと今後の方向性を明らかにした。2008年の統合後、利益は2013年のピークから減少を続けており、杉江俊彦代表取締役社長執行役員は「売り上げが上がらない中で経費ハンドリングが十分にできず経費比率が上がってしまったことが1番の原因。最も目についてるのは人件費で、同業他社と比べても比率が高く対処すべき課題」としている。「17、18年の2年間はもう一度足元をしっかり固めるため構造改革を進め、企業として1度シュリンクしていきたい。その上で19年以降の成長に繋げていきたい」という考えで、基幹店の構造改革や人件費等のコスト削減、新規成長事業の選択と集中を進める。

 中期計画を振り返ると、主力の百貨店事業では基幹店は利益が出ていたもののコストコンロールが不十分で、営業利益は2016年度の目標255億円に対し96億円マイナスの159億円、地域店は仕入れ構造改革の遅れにより55億円の目標に対し50億円マイナスの5億円、中小型店はビジネスモデルが確立する前に店舗拡大を進めた結果420億円の目標に対し80億円マイナスの340億円で、その他の項目もほぼ計画未達となった。杉江代表は「量的目標を先行した結果、拙速という形になってしまった。仕入れ構造改革についても、無理した買い取りや商品作りの結果、在庫が余って赤字化した」とし、また「基幹店だけで200近いプロジェクトがあるが、新規の取り組みを先行したために本業がおろそかになってしまっている。本来やらなければいけない構造改革が後ろ倒しになってしまった」と反省点を説明。問題視している人件費については「リストラは一切しない」と断言した。希望退職を募るということではないが、毎年アナウンスしているネクストキャリア制度で退職金の積み増しを行うという。地方の不採算店舗の整理縮小については詳細は発表されなかったが、「大西(前社長)は成長事業を先にやって不採算事業の修正は後にしたい考えだったが、私は本来不採算を先にするべきだと思っていた。これが大西との1番の意見の相違だった」(杉江代表)と明かし、新体制では「成長事業を1回止めてでも不採算事業の対応をしっかりやっていきたい」と語気を強めた。
 百貨店事業では今後、基幹店は収益力強化と各店の方向性を再定義することで再構築を図る。新宿本店は「ファッションミュージアム」、日本橋本店は「カルチャーリゾート百貨店」、銀座店は「最旬グローバル百貨店」をキーワードに掲げているが、これまでの方向性とは全く変えた店づくりを行う。新宿本店ではリビングフロアだけで40箇所のプロモーションスペースがあるが「毎週企画を変えなければいけない状況に陥っている。これは本来の新宿本店が目指すべき方向ではなく、分散した結果、店全体の価値が低下傾向にあるのではないかと危惧している」とし、本来の「ファッションの伊勢丹」に回帰を図る。日本橋本店では富裕層やエグゼクティブに特化した店づくり、銀座店では世界中から人が集まる銀座の街のフラッグシップ化により買上率の強化を図る。日本橋本店では100億円近く投資するリモデルを本年度予定しているが、計画を修正しており時期を先伸ばしする可能性があるという。支店地域店や海外店については立地や競合、環境を踏まえ、リモデルやテナントミックス、リサイジング、小型店化など各店舗の特性に合った店づくりを行う。中小型店事業については、収益性の高いビジネスモデルを確立したうえで出店を拡大。仕入れ構造改革では量的目標の先行は中止するが、好調の「ナンバー・トゥエンティーワン(NUMBER TWENTY-ONE)」や「BPQC」といったオリジナルSPAブランドについては今後も注力していく。また、ニッコウトラベルの子会社化による旅行事業とトランジットとのジョイントベンチャーによる飲食事業、ソシエ・ワールドの子会社化による美容事業の3分野は、位置付けを成長事業から百貨店補完ビジネスに変更。百貨店とのコラボレーションで発展させていくという。
 成長事業としては不動産事業とカード事業、EC事業の3事業を選択。不動産事業ではグループ保有不動産を有効活用して最大収益化を目指す。海外事業では、現地企業とのジョイントベンチャーに参画することも視野に入れる。カード事業では従来のハウスカードから今後は基幹事業に自立させる。企業と提携したカード発行の強化や、会費無料で使用できるエントリーカードの発行、リボやキャッシングといった収入構造の変換、新サービスの拡充などに着手していく予定。またEC事業では既存のMDは継続しつつ、百貨店より1つ低いグレードの商品の拡充や、取引先との在庫連動などを行い事業規模を拡大させていく。