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小栗旬と西島秀俊、“言葉がいらない”関係性ーー『CRISIS』持てる者と持たざる者の意味を読む

2017年05月10日 15:23  リアルサウンド

リアルサウンド

『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(c)関西テレビ

 「持てる者はさらに与えられてますます豊かになる」。5月9日に放送された『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(カンテレ・フジテレビ系)の第5話。本ドラマの中で暴力団員の沢田(杉本哲太)が、マタイによる福音書13章12節の「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになる(持てる者はさらに与えられてますます豊かになる)」を口にする。ドラマ内では登場しないが、その文は「持っていない人は、持っているものまでも取り上げられる」と続くのだ。


参考:西島秀俊と石田ゆり子は“ただならぬ関係性”だ 『CRISIS』共演に漂う艶っぽさ


 第5話の終盤で神谷議員(石黒賢)が、鍛冶(長塚京三)に放つ「この話の教訓が何かわかるか? 力を“持たない者”が欲をかくと、ひどい目にあうってことだよ」というセリフに繋がる。“持てる者と持たざる者”、世の中は財産を持つ豊かな者と、それを持たない貧しい者の二種類しかない。ということわざにもあるように、神谷議員は“持てる者”で、沢田はじめ仁愛工業(暴力団)の組員たちは“持たざる者”に分類されるのだろう。持たざる者である沢田らは命を奪われる。持っているもの(命)までも取り上げられてしまったのだ。


 沢田は、定食屋で稲見(小栗旬)に「持ってねぇ俺たちが持ってる側になるには、多少強引でもぶん取ってくしかねんだよ」と話しているが、結局ぶん取ることはできず“持たざる者”で生涯を終えた。命だけではなく「取引が終わったら、またうまいもん食わせてやるからよ」という稲見に交わした約束までも奪われてしまうあまりに酷い結末だ。沢田の最期の言葉「うまいもんを、食いたかったな……」が切なく響き渡る。


 潜入捜査として沢田に近づいた稲見だったが、沢田と接するうちに次第に情が湧き、自身の“偽り”と“裏切り”に罪悪感を覚えていく。そして沢田の死を目の当たりにしたとき、“本物”を見失い“復讐”に囚われるのだった。抑えられない怒り。そこへ足止めをくらっていた公安機動捜査隊特捜班がやっと到着する。駆けつけた田丸(西島秀俊)を睨みつけてから、立ち去ろうとする稲見。そんな稲見を追いかけ腕を掴む田丸は、何も言葉を発さず、ただ稲見の目を見続ける。


 互いに一言も発さず、会話はない。だが、稲見は復讐の道に進むことを諦めるのだった。田丸の目がまるで「公安機動捜査隊特捜班がお前の“本物の人生”であり、仁愛工業は“偽りの人生”。こっちに帰ってこい」と言っているようであったから。だがその目は、どんな言葉よりも稲見に響き、心を鎮める。同時に彼らの目と目の会話は、どんなセリフよりも視聴者の心を鷲掴む。結果的に田丸は、まだ“大切な何か”を見つけられていない稲見の“灯台の光”になったのだった。


 第5話の最後に、鍛冶が稲見に「薄汚い仕組みを変えたかったら、正義感に縛られて動きを不自由にするな。善も悪も全て取り込んでしなやかに動け。そうやって蓄えた力でいつか本物の悪を叩けばいい。(中略)目指す場所を見つけ、傷つきながらでも進むしかない」と口にする。これは鍛冶自身の今の状況を説明し、自身に言い聞かせているようでもあった。同時に、沢田が序盤で言っていた「どんな仕事でも、その道で成功しようと思ったら絶対に必要なものがある。なんだと思う? 覚悟だよ」という言葉が頭に浮かぶ。鍛冶は“覚悟”を持っている。稲見ら公安機動捜査隊特捜班もまた揺るぎない“覚悟”を持っていくのだろう。


 もしかしたら、その“覚悟”を持つ者こそ実は“持てる者”であり、他人の命を奪ってまで自身を保身し続ける“覚悟のない”神谷議員はじめ政府要人らは“持たざる者”なのかもしれない。そして、持てる者が持たざる者たち“本物の悪”から全てを奪っていく、という展開へ進んでいくことを期待したい。(文=戸塚安友奈)