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ゲスの極み乙女。、藤原さくら、シンリズム……プレイヤー陣の演奏にも注目したい新譜5選

2017年05月09日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

ゲスの極み乙女。『達磨林檎』通常盤

 以前「音楽好きな人はほとんど歌詞なんか聞いてない一方、たいして好きじゃない人はほとんど歌詞しか聞いてない」というツイート内容が話題を集めたことがあったが、“たいして好きじゃない人”だけではなく、特にJ-POPの場合、大多数のリスナーがまず歌詞に注目するのではないだろうか? しかし言うまでもなく、歌詞は音楽を構成するひとつの要素にすぎない。もし“歌詞しか聞いてない”とすれば、その楽曲のほんの一部しか楽しめていないことになると言っていいだろう。


 そこで今回は、優れたミュージシャンたちによる質の高い演奏が体感できる新作を紹介。現在のポップス、ロックのフィールドには素晴らしいプレイヤーが数多く存在して、その演奏力が楽曲のクオリティを確実に押し上げているーーその事実をしっかりと体感してほしいと思う。


(関連:関ジャニ∞がゲスの極み乙女。とセッション 注目コラボの見どころと今後の可能性を考える


 いろいろなことがあり過ぎた末にようやくリリースされるゲスの極み乙女。の3rdアルバム『達磨林檎』。前作『両成敗』(2016年1月)から約1年4カ月を経て届けられた本作で川谷絵音(Vo/Gt)は何を歌うのかーーというのが一般的なポイントだと思うが(実際、かなり赤裸々なことを歌っていて、それがとても興味深いのだが)、このアルバムの本質はそこではなく、卓越した演奏家である4人のメンバーが生み出すバンドグルーヴであることを強調しておきたい。ジャズ、クラシックの素養を感じさせる研ぎ澄まされたアレンジが印象的な「シアワセ林檎」、80sニューウェーブとブラックミュージックを融合させた「影ソング」、人力のエレクトロ・ミュージックと呼ぶべき「いけないダンスダンスダンス」。これほど多彩で質の高いアンサンブルを奏でられるバンドは、本当に稀だと思う。


 全国ツアー『KAELA presents PUNKY TOUR 2016-2017』でも披露された木村カエラの新曲「HOLIDAYS」は、<LA TA TA!/SHA LALA!/Let’s enjoy the HOLIDAYS!>というハッピーなフレーズが響き渡るポップチューン。プロデュースは「STARs」「マミレル」などを手がけたAxSxE。ポストパンク的なエッセンスを取り入れたアレンジ、そして、超キャッチーなメロディをバランスよく際立たせるプロデュースワークは、まさにAxSxEの専売特許と言っていい。さらに特筆すべきは村田シゲ(Ba/口ロロ)、松下敦(Dr/ZAZEN BOYS)によるリズムセクションの凄さ。性急かつアグレッシブなビートをポップに描き出す彼らのセンスは、まちがいなく、この楽曲の軸になっていると思う。


 「Soup」(月9ドラマ『ラヴソング』(フジテレビ系)主題歌)、「Someday」(『ポンキッキーズ』(BSフジ)エンディングテーマ)、「春の歌」(映画『3月のライオン』後編主題歌)などのタイアップソングを含む藤原さくらの2ndアルバム『PLAY』。ポップ度が大幅に上がった本作においても藤原さくらは、彼女自身のルーツミュージックであるカントリー、ブルース、フォークのテイストを色濃く残している。それを支えているのは、Yagi & Ryota(SPECIAL OTHERS)、秋田ゴールドマン(SOIL&"PIMP"SESSIONS)などベテランのミュージシャンたち。なかでも印象的なのが、ツアーメンバーでもあるOvallのmabanua(Dr)、関口シンゴ(G)、Shingo Suzuki(Ba)そしてKan Sano(Key)によるアンサンブルだ。ライブの臨場感を思い起こさせる「sakura」「Necklace」のオーガニックなグルーヴは、このアルバムの大きなポイントであると同時に、藤原さくらの音楽的な本質を見事に表現している。


 声優としても人気の小松未可子による約3年ぶりのオリジナルアルバム『Blooming Maps』は、Q-MHz(畑亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也によるプロデュースチーム)の全面プロデュース作品。シングル曲「Imagine day, Imagine life!」を含む本作のレコーディングには、優れたベーシストでもある田淵、黒須のほか、新井弘毅(G/ex.serial TV drama)、ナガイケジョー(Ba/SCOOBIE DO)、パスピエの三澤勝洸(G)、成田ハネダ(Key)といった多彩なミュージシャンが参加。アニメファンだけではなく、J-POPファン、ロックファンなど、幅広いリスナーにアピールできる作品に仕上がっている。凛とした雰囲気の声質を活かした楽曲、ナチュラルな前向きさを感じ取れる歌詞も、彼女自身のキャラクターと上手くリンクしていると思う。


 2015年のデビューアルバム『NEW RHYTHM』で“若きポップマエストロ”という評価を獲得した1997年生まれのシンガーソングライター、シンリズムの2ndアルバム『Have Fun』。前作では緻密に構築されたサウンドメイクを提示していたが、ライブ、フェスなどの経験を経て制作された本作は、凄腕のミュージシャンを交えたバンドサウンドが軸になっている。その中心は小松シゲル(Dr/NONA REEVES)、藤井謙二(G/The Birthday)、高野勲(Key)、そしてシンリズムのベースによるアンサンブル。ソウルミュージックのテイストを爽やかなポップチューンへと導いた「彼女のカメラ」、軽やかなファンクネスを感じさせる「話をしよう」などの知性と肉体性を兼ね備えたナンバーは、シンリズムの新たな変化を明確に示している。宮崎朝子(SHISHAMO)とのデュエットによる「ショートヘア」も絶品だ。(森朋之)